[画像] 空前のペットブームに沸く中国で「動物虐待」が相次ぐ事情


猫にタトゥーを施す男
パンデミック以降、中国のペット市場の成長率は年平均で13%を超えており、その規模は2025年には15兆円を超えるという試算もある。一方、空前のペットブームの裏側で問題となっているのが動物虐待ともいえる過激なペットビジネスだ。中国の動物愛護事情について、ジャーナリストの周来友氏が解説する。

【写真】過去の玉林犬肉祭りの様子

*  *  *

6月21日、世界からの批判が殺到するなか、夏至を迎えた中国広西チワン族自治区玉林市で今年も「犬肉祭り」が開幕しました。夏が本格化するのを前に滋養豊富とされる犬肉を食べ、暑さを乗り切ろうというのがこの祭りの由来のようです。

犬肉食は、昔から中国の各地で行われてきた食文化ですが、近年では国内での風当たりも強くなってきています。持続的なペットブームのなか、愛犬家が増えたことも無関係ではありません。

中国では2000年代に入ると、急速な経済発展が続いていた都市部で犬や猫をペットとして飼育する世帯が増加しはじめました。そして現在、中国国内でペットとして飼育されている犬猫は1億匹を超えています。

『中国ペット業界白書(中国農業出版)』によると、2023年の中国国内のペット市場規模は2793億元(約5兆6000億円)となり、2026年には3613億元(約7兆2000億円)にまで拡大する見通しとなっています。

一方では、動物虐待ともいえる過激なペットビジネスも横行しています。特にこの数年で増加しているのがペットへのタトゥーです。犬や猫を脱毛したうえで、人間に施すのと同じ要領で皮膚にタトゥーを彫るのです。


2013年の玉林犬肉祭りの様子。「牛は食べてよくて犬はなぜいけない」と熱弁を振るう男に周囲から喝采が飛んだ
昨年、河南省のタバコ店では店舗の宣伝のため、店主がペットである猫に店名のタトゥーを彫って批判を浴びました。メディアの取材に対し店主は、「猫には麻酔を打っていたし、専門の彫り師が彫ったので安全だ。ペットの去勢が良くてタトゥーが批判されるのはおかしい」と語っています。

中国ではペットへのタトゥーを専門的に行う業者が数多く存在しており、2万円ほどで請け負っているとされています。さらに、ペットの猫や犬の耳をミ●キーマウスのような耳にする整形手術まで行う獣医までも存在しています。

また、中国では「福袋方式」でペットを販売する業者も存在します。購入者がネット注文すると、犬や猫が布袋の中に閉じ込められた状態で宅配便で届けられるのです。届けられた犬や猫が自分の好みに合わなかったとして、遺棄する購入者も少なからずいるようです。

実は中国には、動物虐待を取り締まる法律が存在していません。2010年に初めて全国人民代表大会(日本の国会に相当)で、反動物虐待法の法案が提出されていますが、可決されませんでした。

虐待行為の定義、対象となる動物の範囲、取締りのコスト、行政の負担増大などが指摘されたことも理由です。それに加え、当時は今よりも犬食文化・猫食文化が各地に残っており、高齢者層を中心にペットよりも肉として犬・猫を見る人が少なくなかったことも背景です。

そうしたなか、加虐嗜好的な動物虐待も横行しています。昨年には、中国のSNS上で罠を使って捕獲した野良猫をフォークで突き刺したり、焼き殺したりする映像が拡散。これに対し、処罰を求める声が殺到したことから、投稿者の男は警察に一時拘束されました。

ところが、野良猫への虐待を取り締まる法律が存在しなかったことから、男はその後、処罰されないまま拘束を解かれています。この男の他にも、犬猫の虐待動画をアップするアカウントは複数存在しており、中には動画を有料で配信・販売する者までいるようです。

ただ近年では、ペットブームの裾野のさらなる広がりを背景に、動物愛護を求める声が今までになく高まっています。5月には江蘇省のある動物園が、チャウチャウの毛を白と黒に染め、「パンダ犬」として展示したところ、ネット上で「動物虐待」だとして猛烈な非難を浴びました。

これまでにも動物園やイベント業者が犬の毛を染めてパンダとして展示して話題となった例はありました。しかし、その際に巻き起こったのは展示者に対する「ニセモノ批判」であり、動物虐待としてこれほどまでに非難を浴びたのは例がないはずです。犬や猫が消費の対象から愛玩の対象に変わった、ある意味エポックメイキングな出来事に私には見えました。

構成/青山大樹 写真/奥窪優木、微博