一方、意外に株価が伸び悩んでいるのがアマゾンだ。同社がAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)上で展開している「アマゾン・ベッドロック」は、AI開発者たちには非常に評判が高いサービスだが、それが市場の評価に結びついていない。やはり自社開発の生成AIが弱いという評価なのかもしれないが、もう一つ考えられるのはアメリカ国内の景気後退懸念や、ウォルマート の台頭など、本業のEC(電子商取引)の状況だ。

 世界最大の売上高を誇る企業であり、アマゾンの永遠のライバルとも言えるウォルマートは、ハイテク企業を中心としたAI相場とは別次元で、今年に入って株式市場の評価が急速に高まっている。不透明な消費環境にもかかわらず業績は堅調で、長年、アマゾンの後塵を拝してきたEC部門が順調に成長しているのだ。スマホやPCで注文を出し、店舗に受け取りに行くサービスが好評だという。膨大な数の店舗を有し、しかもそれぞれ広大な商品保管のスペースを持つ、ウォルマートだからこそできるサービスで、基本的に実店舗を持たないアマゾンでは真似ができない。これが現在の同社の成長エンジンになっている模様だ。

 そして、ここにきて評価が高まっているのが、アップル だ。5月2日に発表された2024年9月期第2四半期決算では、前年同期比で減収減益と冴えない内容だったが、1100億ドルという空前の額の自社株買いを発表。6月10日から開催された開発者会議「WWDC2024」で同社独自の生成AI、「アップルインテリジェンス」をiPhoneなどの製品に組み込むと発表すると株価は急騰した。

 同社に関しては、今年前半は完全に生成AIへの対応で出遅れ、iPhone端末の販売不振もあって悲観的な見方がされていたし、私もその危惧を感じていた。だが、同社の生成AIが他社と異なるところは、AIを外部のデータセンターを通さず、端末内で処理することができるというもので、このアイデアは評価したい。

 半導体というハードウェアの進化で始まった生成AIは、今後企業への本格的な導入が始まっていくと思われる。ただし、企業や個人が生成AIを本格的に使う場合には大きな問題が二つある。一つは生成AIに学ばせる大量の学習素材の著作権の問題、もう一つはセキュリティの問題だ。特にスマホやパソコン上で生成AIを個人が使う場合、セキュリティ面で考えれば、やはり端末内で処理できるのが理想だ。企業の場合も、本音としては、コスト面さえクリアできれば、オンプレミス(システムの自社運用)で導入したいはずなのだ。

 アップルはこの夏に「アップルインテリジェンス」のベータテストを開始する計画だ。現行機種の「iPhone15Pro」、「iPhone15ProMax」と、今秋に発売される予定の3ナノメートル(nm)半導体を搭載した新型iPhoneやMac PCで「アップルインテリジェンス」が使用可能になると思われる。はたしてどのようなものが出てくるのか。クリエイターが多いMac PCユーザーの反応が一つの試金石となるだろう。

 もし、これらの計画が順調に進むなら、アップルの存在意義が改めて高まるとともに、半導体の微細化の意義も再認識されるかもしれない。と言うのも、少し先の話になるが、最先端の2ナノ半導体は、TSMC によって25年年末に量産が開始され、26年秋発売予定のiPhoneの新製品に投入されることが見込まれている。だが一部では、スマホという端末自体の性能が充足し、2ナノ半導体の必要性に疑問符をつける見方もあった。もしそこに、生成AIという新たな用途が加わるなら、2ナノ半導体によって高性能化、微細化する意義が俄然、高まるからだ。