駅構内の女性トイレには、テーマパークの乗り物待ちのようにロープが張られ、50人近い人が並んでいる。これでは間に合わない人もいるのではと心配になった。
新幹線のホームに行ってみると、駅員に連れていかれる外国人観光客の姿が。どうやらグリーン券を持たずに、グリーン車の空席に座っていたようだ。
◆受験生や新社会人が泊まるホテルがない
次に向かったのは浅草。かつては地元客の多かったホッピー通りは完全に観光客向けになっていた。日本人感覚では値段が高いと感じるそれらの店にも外国人客は果敢に入っていく。
かたや、日本人が並ぶのは浅草メンチなど、その場で食べられる軒先の軽食ばかり。なんだか寂しい気持ちになってしまった。インバウンドアナリストの宮本大氏は次のように話す。
「桜や紅葉の時期の京都や東京ではビジネスホテルでも一泊2万円を超えます。宿泊費が高すぎて、一般の日本人が使えない。これが最大の弊害でしょう。3月は受験シーズン、4月は企業の新入社員研修があり、この時期にホテル代が高いのは日本人には厳しい」
こうしたなか、「あからさまに外国人偏重の商売をするお店が増えている」(宮本氏)という。豊洲市場の1万8000円の海鮮丼や、吉野家のインバウンド向けの2300円定食が有名だが、なかには堂々と二重価格を設定するところも出始めた。
◆日本人の6割以上が二重価格に「賛成」
4月に渋谷の焼き肉店を訪れた台湾人観光客が二重価格を巡り警察に通報した騒動が記憶に新しい。日本語メニューにだけ安価なコースを記載し、英語メニューには高額なコースしか書いていなかったことが発端だ。
ほかにも日本人と外国人とで席料やお通し代の価格を変える動きも活発化している。
「現在は飲食店がメインですが、タイのワット・ポーやエジプトのピラミッドなど有名観光地では入場料が地元民と観光客とで大幅に違うことはよくあります。国内の観光名所でも、二重価格の導入が現実味を帯びてきました」(都内インバウンド業者)
2月に発表された「観光における二重価格に関する調査」(ロイヤリティマーケティング調べ)では、約6割の日本人が二重価格導入に賛成している。
SNSでは「二重価格なんて発展途上国のようで恥ずかしい」との声もあるが、オーバーツーリズム解消のためには必要かもしれない。
◆今夏の混乱に向けて動きだした自治体
こうしたなか、人気観光スポットを抱える自治体では今夏に向けて対策を講じる。
「富士山と桜と五重塔を一度に望む絶景スポットの新倉山浅間公園は、繁忙期に深刻な交通渋滞が発生しています。白タク車両の急増、民有地での無断駐車、ゴミのポイ捨て、警備費の増加などで地域住民の不満は高まっており、クレームが多数あります。今後、問題点を洗い出し、対策案を検討する予定です」(富士吉田市役所)
また富士山の入山料導入やゲート設置を先ごろ決めた山梨県の担当者はこう話す。
「富士登山は登山装備が必要ですが、サンダルやTシャツなど軽装で登る人もいて、結果、体調を崩して救助を要請する例が昨年も多くありました。山小屋のトイレの中で寒さをしのぐ人、登山道で焚き火をした人、登山道に寝袋で寝ていた人も。夕方や夜間に出発して一気に頂上を目指す弾丸登山は、高山病になる危険性も高いので、時間と人数に規制を設け、ゲートを閉めることにしました」
◆インバウンドで地域格差が助長される現状
世界遺産の熊野古道でも「公共トイレの汚れがひどいとクレームが多発」(田辺市役所)しており対応を検討するなど、自治体は大わらわだ。
観光公害を解消し、快適に共存していくにはどうしたらいいのか。前出の中村氏はこう指摘する。
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