[画像] 『ミッション:インポッシブル2』はリンプ・ビズキットとメタリカの主題歌も異色だ ─ 90年代と00年代の間で

トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル2』(2000)は、シリーズの中でもどこか異色の空気をまとっている。この続編の『ミッション:インポッシブル3』からはJ・J・エイブラムスが監督や製作に入るようになり、現代的な質感を獲得していくのだが、2000年に公開されたこの2作目は、90年代と00年代の狭間で、妙に世紀末的な雰囲気を帯びているのだ。

リンプ・ビズキットとメタリカが主題歌を手がけていることも、今になってみれば異色。このシリーズがアーティストによるテーマ曲を携えるのは今では珍しいことで、ミクスチャーやヘヴィメタルのバンドが担当しているというのも、2000年公開の映画という感じがしてノスタルジックである。

Limp Bizkit - Take A Look Around

トム・クルーズが危険なロッククライミングに挑むオープニングで流れるのは、リンプ・ビズキットが「スパイ大作戦」のテーマを大胆にロックアレンジした『Take A Look Around』だ。MVに『ミッション:インポッシブル』感はあまりなく、どちらかというとタランティーノっぽい。

リバーブを馴染ませて湿り気を帯びたクリーンギターと、砂埃のように乾いたドラムス。そこにフレッド・ダーストの耳に絡みつくラップが乗り、この曲は転がるように進んでいく。主に批評家やアンチへの怒りをぶちまけるラップで、フレッドが“I know why you wanna hate me...(なぜお前が俺を憎むのか、わかってるぜ)”と繰り返すと、ウェス・ボーランドのギターはディストーションに変形し、まずは地を這う。やがてフックに入ると彼らは攻撃体制となって、飛び跳ねるようにしていきなり襲いかかってくる。

当時、初めて聴いた時の衝撃は今でも忘れられないし、今聴いてもその衝撃は変わらない。MVの03:30から爆発的なラストにかけての展開には、ほとんど物理的な力が感じられるほどだ。最近リンプ・ビズキットは2018年と2023年に来日公演を行なっているが、やはり『Take A Look Around』はショウのハイライトとなった。

Metallica - I Disappear

『ミッション:インポッシブル2』の音楽はこれだけではない。もう一つのテーマソング『I Disappear』を放ったのは、世界最高のヘヴィメタルバンド、メタリカである。メタリカの楽曲は数々の映画やドラマに度々挿入されているが、映画の主題歌として提供されたのはこれが初めてだ。

1996年のアルバム『ロード』に続いて、速さやリフの細かさといったスラッシュメタル的な伝統を脱したスタイル。重厚帝王メタリカがモダン・ヘヴィネスを提唱した一曲と言えるだろう。

MVでは、映画の冒頭で危険なロッククライミングに挑むトム・クルーズとクロスオーバーするモニュメント・バレーでの演奏が印象的で、ワウペダルを踏みしめながら大陸を闊歩するような巨人型のリフと相まって、よく映えている。映画のトムと似た衣装に身を包んだメンバーによる『ミッション:インポッシブル』的なアクションも見ものだ。特にラーズ・ウルリッヒのパートは世紀末的な趣がある。ラストでウルリッヒがビルから飛び降りるシーンがあるが、当時はまだワールドトレードセンターの同時多発テロ発生前だ。

ちなみに、この曲は『ミッション:インポッシブル2』のサウンドトラックとともに解禁・発売される予定だったが、リーク版がラジオでオンエアされてしまうという事件が発生。出所を突き止めるとP2P技術を用いたファイル共有ソフトNapstarであることが判明し、さらにバンドの過去の全楽曲も自由に利用可能であることが発覚。これがきっかけとなってメタリカはNapstarを相手取る訴訟を起こし、全米を賑わせた「ナップスター論争」へと発展していく。

また、『I Disappear』当時はベーシストのジェイソン・ニューステッドとの関係悪化もあった。ジェイソンが出演したメタリカのMVはこの曲が最後であり、2001年に脱退している(ちなみに彼らは後に和解し、今では関係良好なのだそうだ)。

さて、アメリカのメジャー音楽は2000年代に入っていくにつれて、次第にヒップホップが主流となっていき、ロックは鳴りを潜めていく。そのことを物語るように、2006年公開の続編『ミッション:インポッシブル3』のサウンドトラックでは、カニエ・ウェストがトゥイスタ、キーシャ・コール、BJ・ザ・シカゴ・キッドをフィーチャーした『Impossible』が収録された。これを最後に、『ミッション:インポッシブル』シリーズは現役アーティストによる描き下ろし主題歌を扱わなくなっている。

リンプ・ビズキットもメタリカも、『ミッション:インポッシブル2』の後に大胆な方向転換を遂げている。リンプはこの映画の後にアルバム『リゾルツ・メイ・ヴァリー』をリリース。メタリカは『セイント・アンガー』へと進み、いずれもバンドの伝統を覆す作風で賛否両論の大激論を起こした。

ロックのシーン支配はヒップホップへと移り変わっていき、『ミッション:インポッシブル』シリーズも3作目からリニューアルするようにして作風をチェンジ。20世紀から21世紀への移行最中に公開された『ミッション:インポッシブル2』異色感の正体は、映像や音楽から漂う前世紀の残り香によるものなのかもしれない。

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