さらに、味園ビルが位置するミナミの繁華街では外国人観光客の回復に伴い、土地の価格が大幅に上昇した。カシワギさんは「今回の閉鎖には驚かなかったが、コロナが味園ビルの寿命を縮めたように感じる」と話す。

◆“終わらない文化祭”のようだった

 今回の閉鎖を受け、味園ビルで15年間、オーナーとしてライブハウスを続けてきたカシワギさんは何を思うのだろうか。

「単純に“時代の移り変わり”なのかなと思いますね。建物も来年で築70年なので今回もしも更新できたとしても10年後まであったのかどうかは微妙なのかなと。テナントの中にはガタがきていて、夏場にはクーラーをつけられない店もあります。ただ、もう少し長く続くかも……と思っていた部分は少しありますね」

 2階にある各テナントは3年ごとの契約で、これまではただ更新できていたが、今回は、ビルの運営会社から“次の契約更新はありません”という通知がきたという。

 カシワギさんは「追い出されたようには感じていない」と話す。

「敷礼、保証金なしと味園ビルはそもそも条件がよかったんです。僕からしたら店をやるきっかけをくれた味園には感謝しかないです。味園で過ごした時間は“終わらない文化祭”のようなモラトリアムで、大人にしてもらった……という感じですね」

 最後に、味園ビル閉鎖後の白鯨グループのこの先について聞いてみた。

「味園に4つある店舗をいまやっているコンテンツのまま、残したいです。たとえば、小さくてもいいのでビル1つ借りられたりするのが理想ですね。また同じように別の場所でも盛り上がると信じているので、これで死ぬまで店をやっていければいいな、と思います。味園に与えてもらったものを使って、今度は自分たちでまた1から始めたいですね」

 私が関西に住んで著書を出した際、最初にお世話になったのは、カシワギさんをはじめとする味園ビルの飲食店界隈の人達だった。今年いっぱいでテナントはなくなってしまうが、私たちの記憶には、きっと「味園ビル」の存在がいつまでも残るのだろう。

<取材・文/カワノアユミ>

【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在は夜の街を取材する傍ら、キャバ嬢たちの恋愛模様を調査する。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano