ブライアン&マイケル・ダダリオ兄弟=ザ・レモン・ツイッグス(The Lemon Twigs)の快進撃が続く。アコースティック路線でミディアム〜スローの佳曲揃いだった前作『Everything Harmony』(2023年5月)から一転、早くも届いた『A Dream Is All We Know』はパワーポップ色が強まり、風通しの良い痛快なアルバムに仕上がった。

すべてのミュージシャンがレコードオタクである必要はまったくないが、ある程度以上のヘヴィ・リスニングから醸成される個性というのは確実にあるな……と『A Dream Is All We Know』を聴いて痛感させられた。ビーチ・ボーイズのハーモニー、バーズのリフ感覚、初期〜中期のビートルズを彷彿させるメロディなど、過去のレジェンドたちから借りてきた要素が巧みに組み合わされているが、そのレベルで留まらないのがダダリオ兄弟。続くインタビューを読んでもらえばわかる通り、60s〜70sの知る人ぞ知る作品も聴き漁って栄養にした彼らは、”どこかで聴いたような気がするが、未だ聴いたことのないポップソング”を構築する術を本作でいよいよ会得したようだ。単にノスタルジックな音楽と、タイムレスな音楽の違いとは何か……それを熟考せずにいられなくなる、確信に満ちたアルバムを彼らはとうとう作り上げた。

インタビューでは近年の彼らを語る上で無視できない、ダダリオ兄弟がプロデューサーとして関わったチョッチキとユニ・ボーイズ、そしてふたりに多大な影響を与えた父にして現役ミュージシャン、ロニー・ダダリオについても質問。関連作もすべて当たり!な無敵状態の現在について、ブライアンに詳しく語ってもらった。

―素晴らしい新作が聴けてうれしい限りです。日本にはしばらくあなた方の詳しい情報が入ってこなかったので、今日は数年前までさかのぼってあれこれ質問させてくださいね。

ブライアン:OK! ごめん、前のインタビュー中にマイケルのスマホが電源切れになっちゃって。そのうちジョインすると思うけど。(※結局マイケルは現れず)

―前作『Everything Harmony』と新作では制作環境がかなり違うようですね。どんな変化があったんでしょうか?

ブライアン:前作は今回のアルバムよりもだいぶ苦労したね。本来の自分達の家ではない、他所の家みたいな環境でレコーディングしたから。最初の3作はほぼ実家でレコーディングしてて、必要な機材も全部そこに設置してリハーサルもできる環境を作り上げてあった。でも、その後ふたりとも実家を出たこともあって、前作のときはリハーサルの段階から騒音に囲まれた環境で、隣近所の部屋から他のバンドが練習してる音がガンガンに入ってくるような中で曲作りをしていた。しかも曲の大半はアコースティックという最悪の組み合わせだったんでね。それで観念して、初めて本格的なスタジオを借りることになって、前作の大半はサンフランシスコでレコーディングしたんだ。ただ、最終的に作品自体は凄くいいものになったと思ってる。とはいえ、本来の自分達とは違うレコーディング環境で作ったアルバムだったから、前作を作り終えてから即ニューヨークで新しい練習スペース探しを開始して、そこに自分達の機材を搬入して、自分達のためのスタジオを作り上げていったんだ。

―前作が出る少し前に、ブライアンとマイケルがふたりでプロデュースした女性バンド、チョッチキのアルバム『Tchotchke』(2022年)は大傑作でした。レモン・ツイッグスの新作とも通じる簡潔なポップソングへのこだわりがあるように感じたんですが、あのアルバムがどんな風に生まれたのか教えてもらえますか?

ブライアン:ドラマー兼ボーカルのアナスタシア・サンチェスが僕のガールフレンドで、ベース兼キーボードのエヴァ・チェンバースがマイケルのガールフレンドなんだ。で、ふたりとも彼女達の曲が凄く好きだったんで、一緒に1stアルバムを作ることになった。期間にして大体半年ぐらいかな? 間にちょいちょい時間を挟みながら……当時はまだ実家のリハーサル・スペースでレコーディングしていてね。うん、なんかほんとに純粋に楽しかったよ。あのアルバムに参加したことが、レモン・ツイッグスの新作のインスピレーションにもなっていて……簡潔でツボをしっかり押さえてて、楽しくてアップテンポな曲のコレクション、みたいな作品だったからね。僕らは基本的に協力する形で、ちょいちょいオーバーダブを入れたり、ストリングスのアレンジを手伝ったりして。凄くいい感じのコラボレーションだったよ。

―チョッチキのエヴァは、あなた方のアルバムの写真やアートディレクションも担当していますね。新作のジャケット写真もユニークですが、どんなアイディアでああいうアートワークになったんですか?

ブライアン:そう、さっきも言ったように、ベースのエヴァがマイケルのガールフレンドで、彼女がすべてのアートワークを担当してくれている。当然、マイケルも傍でいろいろ意見を言ってたんだろう。今回、アルバムのジャケット写真も彼女が撮ってくれたんだけど、MVの撮影現場に彼女もちょいちょい顔を出してて、そこで写真を撮ってくれてたんだよね。今回のMVのうち2本を自分達ふたりと友人のポール・D・ミラーが監督してるんだけど、ポールが撮影監督も務めてくれる形で、あのMVを撮ったときに撮影した写真が今回のアートワークに使われてたりして。だからアートワークの大元はMVの映像だったり……ただ、さらにその大元になるのはアルバムの曲だったりするからね。とはいえ、アートワークに関してはエヴァのアイディアと発想によるもので、そこにマイケルがああだこうだ意見しつつ(笑)、僕はそこまで深く関わっていない。せいぜい「この色がいいね」って感想を述べるくらい……それもすべて完成した後で(笑)。


エヴァ・チェンバースが手がけた『A Dream Is All We Know』シングル曲のアートワーク

―チョッチキと同じく、あなたとマイケルがプロデュースしたユニ・ボーイズのアルバム、『Buy This Now!』も最高の1枚でした。ユニ・ボーイズのレザ・マティンはレモン・ツイッグスのライブをサポートしていますよね。彼らのことをどう評価していますか?

ブライアン:凄くいい! 最高だと思うよ。一緒に作品を作れたことも本当に良かったし。全12日間っていう限られた工程の中で、レコーディングにあたって周到に準備して来てくれてね。メンバー全員が自分のやるべきことを完璧に心得ていた。僕は何曲かでピアノを弾いたり、基本エンジニア役のマイケルのサポートにまわったよ。何かするというよりも、とにかくこの音楽の魅力をそのまま伝えることにふたりとも注力した。本当に凄くいいバンドだと思うしね。音楽に対する基本姿勢とか哲学に、通じるものを強く感じるというか……ソングライティングや音へのこだわり、耳に心地の良いサウンドを作ろうという発想が僕らと近い。その結果、デジタルよりもアナログが好き、という結論に落ち着いているところもまったく同じ。僕らとは別の観点からロックンロールにアプローチしているはずなのに、何故か凄くウマが合うんだ。お互いに通じ合ってるというか。

―あなたとマイケルは、お父さんのロニー・ダダリオさんの最新アルバム『All Gathered In One Room』にも揃って参加しましたよね。お父さんが作るメロディやアレンジはふたりに強く影響を与えたはずですが、最近のお父さんの作風はレモン・ツイッグスから結構影響を受けていると思いませんか? 親子で影響を与え合っているんでしょうか。

ブライアン:まあ、多少はそういうところがあるんだろうね。父は確実に僕らの作品を聴いてくれてはいる。特に今回の新作は父のどストライク・ゾーンで、もともと60年代ロックの中でもポップ寄りのものに凄く影響を受けてる人だからね。それ以外にもさんざんいろんな音楽を聴いてるけど、とはいえ、父がまだ子供だった9歳とか10歳の頃に夢中になってたのがあの時代の音楽だから。それは僕らにしても同じで、9歳とか10歳の頃に夢中になってたのが、まさにあの辺のポップやロックなんだ。ただし、僕らの場合は父親経由でそういう音楽に出会った形になるけど。普通に父親と一緒に音楽を聴いてたりしてたからね。でも、やっぱりどこかで僕らの音楽から影響を受けてるんじゃないかなあ……父はもう何年もキーボードのベースを使ってたのに、最近は本物のベースを使うようになったし、しかもレッキング・クルーのキャロル・ケイ的な、弦をミュートした活きのいいベースをまた弾き出してさ。それは父親から「お前達のベースがいいんだよなあ」って直接言われたのを覚えてるよ。そこから久々にベースをアンプに繋いでみようって気持ちになったんじゃないかな。そういう細々したところで、レモン・ツイッグスから影響は受けてるはずだよ。

─ちなみに、すでにお父さんの新作が完成間近で、マック・デマルコやトッド・ラングレンが参加しているという噂は本当ですか?

ブライアン:うん、それは本当。

─それは気になりますね。どんな感じに仕上がっているんでしょう?

ブライアン:凄くいいよ。プロセス自体はだいぶ変わっていて、父親と僕らとでかれこれ5、6年かけて取り組んでいる。その過程で徐々に外部から、それこそマック・デマルコが参加してくれたりね。それでマック仕様に原曲のスタイルを少し変えたりして。そういうアルバム作りのプロセス自体が、いい感じだった。父親がすでに録音してアレンジも準備周到に済ませた曲を、僕らが好みの音で録音し直したみたいな感じで。たとえば、父親がもともとキーボードのドラムなんかを使ってアレンジしたものを、僕らが本物のドラムに置き換えていったんだけど、アレンジに関してはあくまでも父親が最初に作ってきたものをそのまんま残す形でね。だから違う意味での挑戦ではあった。というのも、普段なら自分のパートを作りながら曲を作ってるところを、一から曲を習って父親が演奏してる通りに再現するっていうことをしていったわけだから。でも、今回は自分達がパートで貢献することはそれほど多くなくて、というのも元のアレンジメントが凄く良くできていた。

そのアルバムにはトッド・ラングレンも参加して、素晴らしい歌声を披露してくれた。ショーン・レノンもボーカルで参加してくれてるんだ。だから徐々に形になりつつあって、今最終のミックス段階に入ってるところ。とはいえ、僕らはプロデュース担当として必要な人に声をかけたり、調整作業を担当してるだけで、紛れもない”ロニー・ダダリオの作品”になってるよ。


トッド・ラングレンとレモン・ツイッグス、2017年のコーチェラにて撮影(Photo by Rich Fury/Getty Images for Coachella)

─トッド・ラングレンとはお互いのアルバムに参加したり、コーチェラ・フェスで共演したりと交流が続いてますね。実際に接したトッドの人柄はどんな感じでしたか?

ブライアン:凄くファニーで面白い人だよ。自分なりの意見を持っていて、それを言葉にしてきちんと表現できる人で、パフォーマンスに対しても真剣でね。こちらから何か話しかけると凄く丁寧に受け答えしてくれて、しかも話が凄く要領を得ているんだ。なんかこう、全体的に話しやすいタイプだよ。こちらからいろいろ投げかけた質問に対して、自分なりのプロダクション・メソッドを交えながら語ってくれたりして、思わず聞き入ってしまう。彼と共演する貴重な機会が訪れたときには、トッドの仕事ぶりからできるだけ貪欲に、多くのものを吸収しようとしてる。毎回凄く楽しい、良い経験をさせてもらってるよ。

伝統的なフォーマットからも斬新な曲は生み出せる

─『A Dream Is All We Know』は前作よりアップテンポの曲が増えた一方、これまで以上に60s色が強い、カラフルな楽曲が並んでいますね。バーズ、レフト・バンク、ホリーズ、ゾンビーズ、ビーチ・ボーイズなどを連想させる要素がありながら、メロディはどれにも似ていない、独創的でタイムレスなアルバムが生まれた!と思いました。こういう方向性の変化には、何かきっかけが?

ブライアン:とりあえず曲を書き始めるときには、自分達が歌ってて楽しい曲を、と思ってるんだよね。で、前にどこかで聴いたことあるメロディだなあって思うときって、たいてい歌っててもなんか面白くないんだ。これはもう子供の頃からの癖なんだけど、何かの曲を聴くたびに頭の中で別の曲、別のメロディへの関連づけを始めちゃうんだよ。これは多分父親譲りなんだろうけど。父親がまさにそうで、何かの曲を聴くと「あ、あの曲に似てるね」って即座に察知できる人だから、それでガッカリさせられることもある。元ネタがどこにあるのかすぐに突き止められてしまうし、しかもその指摘が見事に的を射てるんだ(笑)。そうしたガッカリを回避するためにも、最初から”今まで聴いたことのないメロディ”を前提に歌い始める方が近道だし、そっちの方がやっぱり歌ってて楽しいし、ワクワクして興奮するんだよ。だから、多分そうした境地になるまでひたすら自分なりのメロディを探し続ける作業を、しつこく繰り返してるだけなんだろうね。ギター片手に、じっくりいろんな組み合わせを試しながら、パズルみたいな遊びとして。その作業自体が楽しい。どんな曲とも似ても似つかない唯一無二と思えるメロディを発見して歌うのなんて、楽しいに決まってるって!

─「My Golden Years」で歌われている、心の中に不安を抱えながら活動している状態は、あなたたちの正直な心情なのでしょうか。あれはどんな意図で書いた曲?

ブライアン:そう、あれはマイケルが書いた曲なんだけど、あそこで歌われているのは僕らふたりが共通して抱いてる気持ちだと断言できる。できるだけ多くの作品を形にして残したいし、ただダラダラと無為に生きるんじゃなくて、今目の前にある時間を無駄にしたくない。幸いにも、今はこうして曲を書いたり、レコーディングしたりしやすい、フットワークが軽い時期にあるけれど……それが常に自分達を漠然と覆っているような気持ちなんだ。自分が調子が良いときも悪いときも関係なく、いつどんな瞬間でも「自分は人生の貴重な時間を無駄にしてるんじゃないか?」と思ってしまう、そういう漠然とした焦りがある。

─タイトル曲の「A Dream Is All I Know」は自身の存在証明について思索するような曲で、こういう深い歌詞をポップソングとして成立させている点に大きな進化を感じました。

ブライアン:そういう風に解釈してもらえるのはうれしいんだけど、あれは本当にシンプルな発想から作った曲で……それでも紛れもない自分の実感であって、それがそのまま曲に反映されてるだけ。自分の中でぼんやりと、漠然とした感情だけがあって、特に何っていうわけでもなく……ただ、その後にそれって至極まっとうな反応なんじゃないか?とも思ったんだよね。自分の中に何かしらの疑問が浮かんだとき、それをただひたすら突き詰めて、突き詰めて、突き詰め抜いて考えていって……結局答えや結論が出ないとしても……「これって一体、何なんだろう?」っていう漠然とした疑問だけが目の前に存在し続けてる、という。自分の中から自然に出てきた曲であるのは確かで、それって大抵は良い曲が生まれてるサインなんだよね。

─「Ember Days」は珍しくボサノヴァですが、歌詞はその雰囲気とかなり違っていて、『チベット死者の書』にインスパイアされたそうですね。

ブライアン:そう、「チベット死者の書」の何節かを読んで、そこで印象的だったのが……もしかして意味を読み間違えてるかもしれないし、正しい理解ではないかもしれないけど、要するに今この人生において苦しい状況に置かれている人達が存在してるのは、その人の過去の人生のカルマによってもたらされた結果であるという説で……そこに凄く違和感を覚えたんだ。それはオリジナルの死者の書にあった言葉じゃなくて、序文で誰かが解説していた言葉なんだけど、それが自分の中で引っかかったというか、どうも馴染まなくて。だから、あの曲の中で「喜びはどこへ? いつになったら喜びを享受することが許されるの?」って問いかけているんだよ。この世に神なんて存在しないんじゃないかって思うような、生まれながらに悲惨な環境に育ってる人達がいるのに、「なんで?」「どうして?」っていう疑問……その違和感にインスピレーションを受けてる。その何とも言えないモヤモヤを、どうにか言葉にしようとした結果があの曲、という。言葉にしづらい気持ちに形を与えようと努力した証みたいな曲だよね。

─ショーン・レノンが参加した「In The Eyes Of The Girl」は、ドゥー・ワップの時代の”3連バラード”形式で書かれているのが意外でした。ああいう今はすっかり使われなくなった、トラディショナルなフォーマットを使っても新鮮な曲はまだ書ける!という、ソングライターとしての意気込みを感じましたよ。

ブライアン:うん、まったくもって同感だよ。ブライアン・ウィルソンなんて、あのフォーマットを使って数々の名曲を生み出していたわけじゃないか。それこそ「In My Room」にしろ「The Warmth Of The Sun」にしろ……もっと後のビーチ・ボーイズにすら「Good Timin」みたいな曲があったりしてね。本当に素晴らしいフォーマットだと思うし、君が言った通りだよ。今の時代に忘れ去られているスタイルにスポットライトを当てて蘇らせようという試みだよね。伝統的な型であろうと、斬新な曲を作り出すことはできる。だって、その中身となるメロディはいくらだって新鮮で新しいものに入れ替え可能なんだから。

─内省的な歌詞もあるアルバムですが、最後の「Rock On (Over and Over)」で力強く終わる構成は素晴らしいと思います。ある意味、レモン・ツイッグスというバンドの役割を、いろいろ考えた末にようやく確信できた、という宣言のようにも思える曲ですね。

ブライアン:うん、もうまさに、今のコメントで全部説明してくれちゃったね! あれは本当にそういうことを高らかに宣言してる曲だから。これまで何枚かアルバムを作ってきた中で、最終的に本当に誇りに思えるのは3、4曲くらいかなって満足度だったのが、前回のアルバムぐらいからようやくアルバムの全曲に誇りを持てる境地になってきたんだ。だから作ってて何かちょっとでも引っかかるものがあったら、その時点でボツにして最初からやり直すってことをしていった。ただ……最終的に僕らがやろうとしてることって、全然複雑なことなんかじゃないし、むしろ普通にシンプルでストレートなんだ。純粋に自分達の好きな音楽をやって人々を喜ばせたいっていう、凄く単純なことなんだよ。そのためなら努力を努力とも思わないし、むしろこれ以上いい作品は作れないってくらいに自分達が持つすべての力を曲に注ぎたい。難しいことなんか何ひとつしてないんだ。この曲の歌詞にあるシンプルさ、そのまんまだよ。

─とはいえ、これまで以上に意外なコードチェンジ、予想を裏切る曲の展開が多く感じたし、ハーモニーもかなり緻密にオーバーダブされています。完成度においては、かなり満足できるアルバムになったのでは?

ブライアン:僕的には本当に大満足だよ。マイケルにしてもそれは同じで……。ただ、マイケルはエンジニアとかレコーディング面でも相当ディープにサウンドと向き合ってるからね。どうしたらもっと良い音にできるのかってことを常に考えているような感じで。だから最近になってから、僕らが使ってる80年代の24トラックのマシーンを70年代の16トラックの音に置き換えたい、なんてことを言い出してるよ。というのもマイケルの説によると、僕らふたりが愛して求めてやまないサウンドというのは……これはあくまでもサウンドに限っての話だけど、最終的に帰結すべき理想はビーチ・ボーイズの『Sunflower』のサウンドであると、マイケルは確信してるわけさ。あれは今回のアルバム同様、オーバーダブを多用した作品だけど、16トラックで録ってるからね。それで今になってマイケルが16トラックで録ったらより理想的なサウンドに近づけたんじゃないかって説を唱え始めてる(笑)。ただし、それについて僕は若干懐疑的で、基本的には自分達が今使っている機材の音にも満足してる。機材を変える度に、新しい機材に一から慣れていかなくちゃならないわけじゃないか。どうやったらその機材から一番いい音が導き出せるかっていうコツとか特徴みたいなものを掴むまでに、やっぱりある程度時間が必要になるからね。とはいえ、16トラックでの録音もいつかぜひ試してみたいと思ってる。いずれにせよ、今回のアルバムのサウンドに関して、僕的には大満足だよ。マイケル的にはいろいろ気になる点があるんだろうけど、それは毎回お決まりのことなので(笑)。

良いメロディを書くための秘訣とは?

─一時は兄弟の作風が離れているように感じる時期もありましたが、今回はふたりの個性がうまく溶け合っているように思います。それでも、「この曲はブライアン色強め、この曲はマイケル色強め」という分かれ方はしているものでしょうか?

ブライアン:そうだね。特に歌に関して、今言った変化が如実に現れてるんじゃないかなあ……それと最近になってから、前よりも素の自分達の声に近い歌い方をするようになってるので、それも関係あると思う。で、そこにお決まりのハーモニーを重ねていくわけだけど、今はふたりでハモるのが定着してる。それまでは自分が書いた曲だったら、ハーモニーのパートもすべて自分が担当するのが基本で、たまにマイケルがハーモニーを加えることがあっても、基本的には僕もしくはマイケルのどちらかがハーモニーを担当するという形で完璧に割り振られていた。その頃に比べると、今の方が何倍もふたりの音が重なってるように感じる。そこにきて素の声で歌うようになったものだから、兄弟なので当然普段の声も似てるし、自然に重なり合っていく……そこから離れて他の誰かを想定して歌ったときに限って、お互いの声も乖離していくけど……等身大の自分達の声じゃない、他の誰かみたいな歌い方に寄せてるんだから離れて当然だよね。

─では、曲作りの面ではどうでしょう。

ブライアン:曲作りに関しては今でも別々に書いてるけど、でも同じゴールを目指してるんだろうなって、今ここにきて本当にそう実感してる。前までは毎回必ずしもふたりして同じ方向を向いてるわけではなかったから。自分がシンセサイザー寄りの音楽に興味が向いてて、マイケルがハードなロック寄りの音に心酔してた時期もあったけど……そこをお互いすり合わせて、ふたりで協力して良い作品にしようよってことで生まれたのが、前回の『Everything Harmony』なんだよね。そのきっかけとなったのがマイケルからのセリフで……いや、元を辿ると自分がきっかけなのかもしれないけど、とにかくふたりしていろいろ話すわけだよ。その中で自分が「今書いてるいくつかの曲は、もしかして自分史上最強のバラードになりそうな予感がしてる」って言ったら、マイケルが先陣を切って「だったら次のアルバムはその曲を中心にしよう」って向こうから言ってくれたんだ。「そこまで言うのなら」ってことで、信じて乗っかってくれたというか。それでマイケルもそっちの方向に照準を合わせて、自分の曲を書いて来てくれた。逆に今回のアルバムに関しては、よりマイケル色が強いかもね。「My Golden Years」とか、「In The Eyes Of The Girl」なんかにしてもそうだし……「Peppermint Roses」なんて、まさにマイケル! あれは僕らが使える技のすべてを集結させた、今回のアルバムのトーンを決定付けてる曲だと思うんだ……本当にふたりが持ってるすべてを凝縮したみたいな曲。前回のアルバムでにはなかったようなトリックも総動員してね。

─同感です! 「In The Eyes Of The Girl」以外にもショーン・レノンと録音した曲があるそうですね。別の形でリリースする予定はあるんですか?

ブライアン:そう、たしかソノシートがヴァイナルの特典についてたんじゃなかったっけ(限定アナログ盤に付属のボーナスディスクと、日本盤CDに「Gifts」が収録された)。そのうちYouTubeか何かで出回るはずだよ。その曲では、ショーンが本当に見事なベースを披露してくれてね。ハーモニーにも相当力を入れたし、凄く楽しい曲に仕上がってるよ。ただ、アルバムには他の曲とのバランスを見て入れなかったんだけど。何かちょっと軽いっていうか、めちゃくちゃ軽快なポップソングって感じで、アルバム全体がチャラい印象になりそうでさ(笑)。いや、凄く気に入ってる曲ではあるんだけどね。



─日本のミュージシャンにもレモン・ツイッグスは人気があるのでぜひ伺いたいんですが、どうやったら良いメロディが書けるのか、何かコツがあったら教えてもらえますか?

ブライアン:うーん、とりあえずピアノの前に座って、自分がびっくりすると同時に手応えを感じるようなものが出てくるまで、ひたすら鍵盤に向かうところから始めてみたらいいんじゃないかな。しかも、楽しみながら! 自分が歌ってて「楽しい!」って思えるものを……自分の口からこのメロディやフレーズがこぼれ落ちてくるだけでも楽しい、ワクワクするって思えるようになったら、良い曲が生まれつつあるサインだよ。あとは新しいコードを習得するのもいいと思う。ハーフ・ディミニッシュ・コードなんて使い始めると面白いほど可能性が広がるよ。もう本当に、基本的にはそれだけあれば十分なんじゃないかな。自分が今何をやってるのかまるでわかってなくたって、自分にとって気持ちいいかどうか、驚きや発見があるかどうかを頼りにしていけば、その組み合わせだけで十分面白い曲は作れる。

―ちなみに、今回のアルバムを作っていく上で、新たに刺激を受けたレコードはありますか?

ブライアン:さんざんいろんなところで話してるけど、やっぱり自分達にとってこのアルバムを作る上で重要で、しかも今回新たにその魅力に開眼したバンドとして、スウェーデンのトーゲス(Tages)は外せない。このアルバムを作る上で、凄く影響を受けてるよ。ただひたすら楽しくて、アレンジメントも凄く野心的で、ハーモニーもふんだんに盛り込まれていてね。まるでビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』か、ゾンビーズの『Odessey And Oracle』みたいな感じなんだ。それで今回自分達が目指すサウンドの方向性の指針にしていったところがある。ああ、それとロイ・ウッドの『Mustard』もだよ! 今回は物凄く影響を受けている。彼はマルチ・インストゥルメンタリストで、ひとりでチェロからハーモニーまで何役もこなすじゃないか。今回初めてあの作品に出会って、もう大好きになっちゃってね。彼もまた、ビーチ・ボーイズに物凄く影響を受けてる人だよね。ビーチ・ボーイズと同じくらい複雑な構成でありながらも、歌として純粋に楽しいっていう、そういう表現にどうも目がないようで、毎回好きになっちゃうんだ。とはいえ、ロイ・ウッドは彼にしかないユニークなサウンドと声を持っていて、完全に独自の音の領域に到達してると思う。

─さて、最近あなた方が敬愛するブライアン・ウィルソンが、認知症であることが明らかになりました。過去を忘れてしまうことがテーマになっていた前作の曲、「New To Me」のことも思い出したんですが……彼があの病にかかったことを知って、何か感じるものはありましたか?

ブライアン:ただ悲しいよね……驚きはしなかったけど。年齢が年齢だし、もともと数多くの精神疾患を抱えていた人だった。だから何と言ったらいいのか……悲しいっていう以外に言葉が見つからない。今この瞬間も、本人が最大限心安らかにいることを願うばかりだよ。ただ、ブライアン・ウィルソン・バンドのメンバーを知っている身からすると、凄くいい仲間やコミュニティに支えられてるんだろうなあって思うし、ブライアンの周りで演奏してる人達って本当に心が優しくて、彼のことを理解して大切にしてるんだ。だから、凄く安心できる環境に置かれてはいるんじゃないかな。

─レモン・ツイッグスやユニ・ボーイズの影響源であるエリック・カルメンが、最近亡くなってしまいました。彼やラズベリーズについて、何かコメントを頂けますか?

ブライアン:僕らふたりとも大好きなアーティスト。特にマイケルが相当入れ込んでて、彼が一番影響を受けたソングライターのひとりだよ。本当に稀有なアーティストだよね。あれだけ音楽的に才能があって、美しい名曲を美しいコード進行で書き上げながら、ガンガンにロックンロールを鳴らせるなんて、物凄く貴重な存在だと思う。実際、ロックンロールの名曲中の名曲を数多く残してる。しかも、ライブパフォーマンスも見事なまでに素晴らしい。ある意味、ポール・マッカートニーに匹敵するよね。ポール・マッカートニー・レベルの美しい曲が書ける人って、どうしてもバラード中心になりがちだけど、エリックは美しいバラードとロックンロール的な魅せ方の両方を備えた、希少なアーティストのひとりだった。

―ところで、ふたりはビリー・ジョエルと同じロング・アイランドのヒックスヴィル高校出身ですよね。彼との音楽的な共通点はそう多くなさそうですが、ロング・アイランドで生まれ育ったことで、ミュージシャンとしての自分達にプラスに作用したことは何かあると思いますか?

ブライアン:う〜ん、何とも言えないところだね。家が郊外にあって地下室もあったから、いつでも心置きなく楽器が弾けたっていうメリットはあったけど。これがアパート暮らしだったら、近所迷惑も考えないで四六時中好き勝手に音を出してるわけにはいかなかっただろうし……まあ、自分達への影響ってことで思いつくことと言ったらそれぐらいかなあ。ロング・アイランド自体はまあ、何て言うか……本当に何もない、退屈な郊外の島なので。かといって、都会から物凄く離れてるわけでもなく、一応そこそこ人口もあって……退屈で何もないから、逆に自分から楽しいことを探さなくちゃいけない環境で、それは創作活動をする上で良かったのかもしれないよ。

ビリー・ジョエルは、その辺どうだったんだろうね? 多分ビリーは、僕らよりも地元に対する愛着心が強いのかも。実際、地元の地名を冠した「Oyster Bay」っていう曲があるくらいだからね。僕らはロング・アイランド出身であることに引け目を感じるとかは一切ないけど、生まれたときから当たり前に見ている風景、みたいな感じで。他にやることもなかったから音楽に集中することができたので、それは本当に良かったと思うよ。

あと、ロング・アイランドって今どき珍しいくらいニューヨーク訛りが凄く強いんだ。多分同じニューヨークでもシティに住んでる人は自分みたいな変なアクセントではもう話さない(笑)。”コーヒー”の発音が”カウフィー”みたいな感じになったりとかね。同じニューヨークでもシティの方はいろんな地方の人達が混じってたり、最近ではインターネットなんかの影響でニューヨーク訛りが失われつつあるんだけど、それなのにどういうわけかロング・アイランドではいまだにニューヨーク訛りが強いんだよ。


ザ・レモン・ツイッグス
『A Dream Is All We Know』
発売中
日本盤ボーナス・トラック収録
詳細:https://bignothing.net/thelemontwigs.html