住宅ローンを組む際は、問題ないと思っていても、いざローンの返済が始まりしばらくすると「なにかが苦しい」と、家計に頭を抱える家庭は少なくありません。それは、いわゆる「パワーカップル」といわれるような高所得夫婦にも多くみられ……。本記事では湾岸タワマンを購入したAさん夫婦の事例とともに、高所得世帯が陥りがちな家計トラブルの解決策について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

高所得のパワーカップルがローン返済に行き詰まり

ペアローンを利用して目いっぱいの住宅ローンを借り、人気のタワーマンションを購入する、高所得のパワーカップルは少なくありません。抜群の眺望、ジャグジーやラウンジなどのリッチな施設、駅に接続した利便性の高いロケーション。多くの人が羨み、ときに妬むほどのライフスタイルを手に入れた……と高揚することでしょう。

しかし住宅ローンの返済が始まると、数年かけてじわじわと家計が苦しくなっていく家庭が多く見られます。購入前の計算では無理のない返済計画だったはずなのに、「なにかが苦しい」と思い始めるのです。本人たちにとって、その「なにか」ははっきりしません。収入も支出も大きく変わっていないはずなのに、ゆとりがまったくないのです。貯蓄に手を付ける月も出始めます。

契約する前に販売業者からファイナンシャルプランナーを紹介してもらい、「FP相談」などに参加したかもしれません。そこでは「購入にリスクはない」とお墨付きをもらったはずです。あのとき、家計のプロが大丈夫だと言ったのになぜ苦しいのだろうとさらに不思議になることでしょう。

納得がいかず違うファイナンシャルプランナーに相談しても……残念ながら「住宅購入は失敗だった」と判明することになります。人生設計をもう一度ゼロからやり直す必要があると言われ、衝撃を受ける人も大勢います。

一体なぜ高所得のはずのパワーカップルが、住宅ローン返済に行き詰まっていくのでしょうか。事例を紹介しながら解説していきます。

<事例>

夫Aさん 35歳 会社員 年収700万円 

妻Bさん 35歳 会社員 年収750万円

子供 5歳 

子供 2歳

預貯金 200万円

住宅ローン元金 1億1,150万円

住宅ローン金利 0.5%

AさんとBさん夫婦は、東京都内で大手企業に勤務する、いわゆるパワーカップルです。世帯年収は1,450万円。結婚してから6年になりますが、いままでお金には不自由せずに生活してきました。

夫婦は自他ともに認めるほど見栄っ張りな性格をしています。夫Aさんは東北地方、妻Bさんは中部地方の公立進学校を卒業し、東京都内の私立大に進学しました。地方育ちだったせいか東京都内でのキラキラした生活に憧れが強く、学生時代から必要以上に見栄を張って生きてきたそうです。

見栄っ張り夫婦、憧れの「湾岸タワマン」を購入

夫婦はこれまで、高級輸入車を2台、高級時計、ブランドバッグ、ブランド服などを購入し続けることに執着してきました。購入したものを撮影してSNSにすぐに投稿。コメント欄ではモノを褒めてくれる言葉で埋め尽くされます。あまりにも派手な生活を演出しているせいもあって、夫妻のアカウントのフォロワー数は一時数万人にまで増えました。

なかには「見栄っ張りの田舎者」「全身ブランド品で成金」などと揶揄する辛辣なコメントも少なからずあります。

「田舎生まれの見栄っ張りキャラを自称しているので、別に中傷されてもなんとも思わないですね。むしろ人気の秘訣です」と夫Aさんは笑います。

そんな生活のせいで預貯金は200万円のみ。それも数年前に亡くなった夫Aさんの祖父からの相続財産です。これがなければ預貯金は0円という状態です。

車やブランド品はすべてクレジットカードやローンでの購入です。ブランド品はフリマアプリなどでも売却しているので完全な浪費ではありませんが、当然ながらいくら売却しても購入価格を上回ることはなく、確実に「損」を出しています。

そんな夫婦がタワーマンションの購入を決めたのが3年前。コロナ禍の初期のころでした。住むなら絶対に湾岸エリアのタワーマンションと決めていた夫婦は、営業マンに提案されるがままにペアローンで購入することに。

預貯金がないのでフルローンでの購入です。世帯年収の約7倍にもなる1億円超の物件でした。自己資金がないのが銀行審査には不利だと夫婦は考えていたようでしたが、事前審査はすんなりと通過。それに喜んだ夫婦はすぐにマンション購入の契約をしたのです。

マンション購入から3年…

マンション購入から3年が過ぎ、家計の苦しさが深刻になって、夫妻はハアハアと息を切らしながらファイナンシャルプランナーにアドバイスを依頼しました。

「購入前にファイナンシャルプランナーに相談して問題ないと言われました。それに、ローン審査も通って買えたのだから問題と思ったのに……」妻Bさんは涙ぐみながら話します。

購入前に相談したファイナンシャルプランナーは、不動産会社の営業マンから紹介されたそうです。「年収的にマンション購入には問題ない」「むしろインフレリスクに備えたほうがいい」などとアドバイスをし、投資信託や保険などの金融商品を夫妻に販売したようです。この提案によって、夫妻の毎月の支出は8万円に増えています。年収が1,450万円ありながらも自力で預貯金を作れない夫婦に対し、「強制的にお金が貯められ、しかも増える」という勧誘トークだったようです。ファイナンシャルプランナーとしてのアドバイス内容に間違いはありませんが、夫婦の浪費癖などの現状をなにも変えず、金融商品を購入しただけで人生が安定することはありません。

無計画きわまるどんぶり勘定家計

夫婦が浪費をし、SNSで承認欲求を満たす一連の行動はそのまま放置されているのです。夫婦が「なにかが苦しい」と感じている原因は、言うまでもなく家計簿などの記録を一切つけていないことからくるものです。ファイナンシャルプランナーが家計の収支を丁寧に計算していくと、次のような状態でした。

住宅ローン返済:毎月 22万647円、ボーナス時 47万6,698円

管理費:1万6,000円

修繕積立金:1万4,000円

自動車ローン返済:毎月 7万円

ショッピングローン返済:毎月10万円

投資信託・保険:毎月 80万円

これだけで毎月の支出は約50万円です。月の手取り月収が約60万円程度ですから、実質の生活費は10万円程度になります。これに加えて、不要になったブランド品をフリマアプリで売却しているので、売れたときに少しだけ余裕ができるという感覚でしょう。

さらに夫婦は2人の子供を海外の大学に留学させたいという希望を持っています。「これでは苦しいはずです。留学など不可能です」とファイナンシャルプランナーが冷静に言います。「なにから変えたらいいでしょうか」と妻のBさんが真剣に質問しました。

ファイナンシャルプランナーからの助言

ファイナンシャルプランナーが解決策として提示したのは次のようなものです。

・自動車は2台とも売却し、所有しない

・投資信託などは解約し、現金での預金をまず作ること

・手持ちのブランド品はすべて売却し、ショッピングローンの完済を急ぐこと

・SNSのアカウントをマネタイズし、副収入を得るように努力すること

とにかく無駄な支出を削減し借金を減らすこと、現金での預貯金を増やすことです。もしSNSを続けるとしたら、アフィリエイトなどでマネタイズし、わずかでも副収入を得ること。

「SNSは派手な生活を演じなければ人気が維持できないし、お金がかかるので無理かもね……」と夫のAさん。そもそも夫婦のアカウントは、悪趣味な成金路線で人気が出たものであって、そこでなにかを販売したり宣伝したりすることには向いていないようです。

「虚像なので、いずれにしても今後は無理です……」と妻のBさんも言います。

できることならいまのうちにタワーマンションを売却し、しばらくは賃貸暮らしに徹したほうがいいともアドバイスを受けました。今後、変動金利が上昇するのは必至で、わずかな上昇が命取りになるかもしれません。変動金利が上昇したときに繰り上げ返済を行うほどの余力が夫婦にはなく、非常にリスクの高い状態にあります。

2020年に高値で掴んでしまったタワーマンションですが、湾岸エリアという場所が非常によく、あまり損をせずに売却できそうです。利益が出ないのであれば譲渡所得税もかかりません。少なくない金額の損失は出しますが、家計全体をリセットするためには無理のない計画です。

夫Aさんが言います。「そもそも家計簿もつけず、いくらの借金があるかもわからない、貯金も少ない、そんなどんぶり勘定では家を買うなんて無謀だったね」

無謀だったかもしれませんが、見栄っ張りであったために掴んだマンションは非常に売却に有利でした。これが戸建て住宅であれば有利な売却は難しく、家計のリセット作業は悲惨だったかもしれません。Aさん夫婦は浪費を止めれば済むだけなので、結果的には悪くない状態なのです。

パワーカップルが陥りがちな家計のトラブル

ファイナンシャルプランナーが数多くの家計を見ていると、「所得の高い家ほど家計簿をつけていない」という現実に気づきます。

毎月の収入が多いため、どんぶり勘定でもやりくりができるからです。ざっくりとした感覚でも十分お金が貯まるので危機感は持っていませんが、年齢が高くなるにしたがって家計が苦しくなっていくケースが見られます。

支出を管理していないのに慣れだけで大きな買い物を繰り返していくのが原因です。投資や保険を含めた金融商品の購入もハードルが低くなってしまい、あまり検討をせずに契約してしまうのも特徴です。まさに「値段を見ないで買い物をする癖」がついてしまうと、遅かれ早かれ家計は行き詰まっていきます。

20世紀のイギリスの政治学者、シリル・ノースコート・パーキンソン氏が唱えた法則に、「パーキンソンの法則」というものがあります。

第1法則 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する

第2法則 支出の額は、収入の額に達するまで膨張する

というふたつから成り立ち、特に第2法則はパワーカップルに起こりがちの現象です。収入が高くなるほど支出の額が無意識レベルで膨張していくのです。タワーマンションなど高額の買い物をしたあとで、家計の膨張が異常レベルになっていることに気づくものです。

パワーカップルという言葉に踊らされず、マンション購入前には時間をかけて緻密な家計改善を行っていく必要があります。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表