さまざまなジャンルで活躍する著名人たちに、お気に入りの一冊をご紹介いただく連載「私の愛読書」。この度ご登場いただくのは、新進気鋭の注目アーティスト・imaseさん。20歳になった2020年から音楽を始めて1年後にはメジャーデビュー、このほど現在までの3年間に作り出した楽曲を19曲も収録した1st Album『凡才』(ユニバーサル ミュージック / Virgin Music)のリリースが決定! 等身大で魅力的な曲を次々世に送り出す、才能あふれるimaseさんの選ぶ「愛読書」とは?

Amazonで『凡才』を見る

「魔法界は本当にあるのかも?」とハリーにワクワク

――愛読書は『ハリー・ポッター』(静山社)ですね。

imase:小学校の図書館にこの本があって、毎朝15分間の読書時間に借りて読んでいました。『ハリー・ポッター』の面白いところは、シンプルに「魔法使いの話」というところ。今はもう少し複雑なストーリーのものが多い気がしますが、これはすごく原点に近い感じがしますし、完成度もかなり高いので好きな作品です。ストーリーにリアリティもあるので、読んでいた当時は「もしかしたら魔法界は本当にあるのかもしれない」と、ワクワクしていました。

――ハリーは11歳の設定だから読まれた当時と同じ世代。より感情移入しやすかったのかも?

imase:確かに同じくらいだからこそ、リアルに感じたのはあると思います。『ハリー・ポッター』は映画も好きで、2〜3回は見直しました。

――他にも物語は読んだりしますか?

imase:実は本はあまり読まないんです。漫画もサラッと読むくらいで…。学生時代はずっとサッカーに夢中だったので(笑)。

詩や俳句は自分の音楽制作のスタイルにどこか近い

――歌詞を書くために自分の中に言葉を貯める工夫って何かしていますか?

imase:あまりしていないですね。僕の場合はメロディを重視していて。もちろん歌詞も大事ではありますが、歌詞を「音」として捉えているのも大きいと思います。ただ言葉を意識的に吸収しようというのはないですが、歌詞を作る上でネットにある詩や俳句などを調べたりすることはありますね。

――どんなところが参考になりますか?

imase:自分の音楽スタイルに合っているというか。例えば俳句や短歌は決められた文字数の中で表現しているので、メロディを作って歌詞をはめる自分の制作スタイルに近いのかな、と。だからこそ生まれる表現や言葉の面白さがあるように感じるので。詩は自分の中で心地良い文字数でおさめるところに近しさを感じますし、言い回しや表現の仕方などもすごく参考になります。

――はっとするような言葉の研ぎ澄まれ方もありますよね。

imase:そうですね。たった一文字の置き方で印象がガラリと変わることもあって。助詞の置き方でも、例えば「を」なのか「は」なのかで聞こえ方や印象が変わったりします。そういった詩や俳句の言葉の使い方が、自分の歌詞の置き方にかなり活きていると思います。

世界でウケる「日本語」。その面白さの可能性

――歌詞は日本語で書かれていますが、imaseさんの楽曲は韓国の音楽賞も受賞されています。実際に韓国でライブもされていますが、現地で刺激を受けたことはありますか?

imase:韓国の音楽は世界でも評価されていますし、個人的にはダンサブルでビート感が強い楽曲が多いと感じているのですが、現地では逆に韓国の演歌テイストのものも流行っていると聞きました。その話を聞いて、意外とダンサブルじゃない曲を聴きたい層もいるんだなと思いましたし、だから僕の曲も自然に受け入れてもらえたのではないかと感じました。
歌謡曲テイストのものを作ったほうが差別化できて面白いだろうし、バラードも受け入れられるんじゃないかなと思いました。

――なるほど。日本のJ-POPって海外の人にはすごく独特に聞こえるって聞いたことがあります。どうしてだと思います?

imase:圧倒的に「日本語」な気がしますね。日本語が作り出すメロディと独特な母音「あ・い・う・え・お」の感じは日本語特有なのかな?と。それが日本っぽくて独特に聞こえるんですかね。日本語の個性というか。Creepy NutsさんやYOASOBIさんの楽曲など、日本語のまま世界で聞かれることがすごく増えてきていますよね。そういった部分では、色んな可能性を感じられてとても興味深いです。

――ですね。大昔は「日本語でロックをやるのはどうなんだ」なんて論争もあったといいますが、こうやって自分たちの母語でやるのが面白いって素直に思えるのはポジティブでいいですね。

imase:そうですね。ヒップホップでも20年前は「ラップってギャグでしょ?」みたいな風潮があったと聞いたことがあって。逆に今はどんな表現でも受け入れられるものになっていますし、やはり時代によって受け取り方も変わりますよね。

――今や小学生にヒップホップが大人気という時代ですからね。

imase:都会ではそうらしいですね(笑)。今の中高生の話を聞くと、都会の子の基準は運動神経がいいのは前提でプラス文化的な要素がある子がモテる、みたいな。音楽にすごく詳しいとか、すごくオシャレとか。その話を聞いて、「すごいハードル高いんだな」って。田舎だと足が速かったらモテますから(笑)。

――今どきは「imaseを知ってる!」というのも小学生たちのモテ基準になっていそうです。今日はありがとうございました!

取材・文=荒井理恵、撮影=金澤正平
メイク=向井大輔