[画像] 「くら寿司銀座店」“露骨すぎる日本要素”から読み取れる、「日本人を相手にしていない」という狙い

―[テーマパークのB面]―

全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。
4月24日、銀座にある商業ビル「マロニエゲート銀座2」に「くら寿司」が誕生した。銀座には初出店となる。これは、くら寿司の「グローバル旗艦店」に位置付けられる店舗で、インバウンド観光客が多い銀座という立地を活かし、外国人観光客向けのメニューや内装を取り入れた店舗である。

この店舗を手がけたクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和氏は「食をテーマにしたエンターテインメント」施設を目指しているとし、まさに、ここが「食のテーマパーク」的な施設であることを思わせる。

今回は、実際に足を運んだ筆者が感じたことを紹介したうえ、この店舗の狙いについても分析してみたい。

◆外国人が好きそうな「江戸時代」を基調にした店内

まず店内に入って驚くのは、その店内壁画だ。歌川広重の浮世絵が大きく描かれており、その横を通って、受付へと進む。この店舗は、広重の浮世絵を元にしているらしく、まさに「江戸時代」が再現された空間構成をしているといえる。いかにも外国人が好きそうな空間である。

受付をして、それぞれのテーブルに行く。既存のくら寿司と異なるのは、それぞれのテーブルがカーテンのようなもので仕切られ、半個室になっていることだ。誰の目も気にすることなく、ゆっくりくつろげるだろうから、これも観光客など、ゆったりとした時間を過ごしたい人にぴったりといえる。

メニューは、基本的には他の「くら寿司」と同じで、人気の「びっくらぽん」もできる。ただ、違うのは店舗限定メニューがあること。例えば、「くら小江戸」というメニューには、特別仕様の寿司や天ぷら、みたらし団子などがある。受け取りに行くのは、江戸時代の風景が再現された屋台だ。

筆者もここぞとばかりに「真あじ天盛り」(600円)を注文してみた。注文して10分ぐらいすると、タブレットに「準備完了」という文字が。テーブルから立ち、屋台があるエリアへと向かう。

◆まさに「食のテーマパーク」といった様相

「テーマパーク」的なのは、まさにこの部分である。三つの屋台の前には、いかにも江戸時代らしい柳の木のレプリカがあり、その周りでは実際に屋台で寿司を握ったり、天ぷらを揚げる人々が。

本来、回転寿司は、諸々の面倒くささ(店主と話したり、値段がどうなるのかそわそわしたり)を取り除いた施設であるはずなのに、あえて自分自身で屋台まで商品を取りに行く、というのが面白い。これはもちろん、外国人観光客向けに「日本風の体験」をしてもらうための取り組みだ。まるで江戸時代の屋台にでも来たかのような体験ができるということだろう。

実際、私も屋台に料理を取りに行くときはわくわくした。屋台があるコーナーはそこだけがちょっと暗くなっていて(たぶん、夜をイメージしているのだと思う)、それも高揚感を覚える理由になっていると思う。

◆「特別な街」銀座だからこその演出なのだろう

くら寿司は、こうした「体験型」の店舗を、特に東京を中心とした「グローバル旗艦店」において積極的に取り入れてきた。原宿や浅草については、銀座店よりも早くこうした取り組みを行ってきており、そこでの経験を活かして、今回の銀座店の出店に踏み切ったのだろう。

特に、銀座の場合は、外国人観光客にとっても、日本人にとっても、どこか「特別な街」としてのイメージが根強い。NTTコムリサーチによれば、訪日外国人観光客の銀座のイメージは「高級感がある」が全体の半数を占めたという。

そのため、銀座で「くら寿司」に行く人は、本来の回転寿司的な「ぱっと食べてぱっと帰る」ということをそこまで強くニーズとして持っていない。むしろ「銀座」ならではの特別な体験をしたい、と思っている人の方が大半だろう。

◆“露骨な日本要素”を歓迎する外国人の存在

興味深いのは、そのような「特別性」を満たすための施設として「テーマパーク的」な演出が選ばれたことだ。最近は、豊洲の「千客万来」などが顕著だが、いわゆる“日本的なもの”を体感させるためにテーマパーク的な空間演出を取り入れ、それでインバウンド需要に対応しようとする施設が多い。いわゆる「日本らしさ」を取り入れたテーマパークとでもいおうか。

これらの施設は、我々日本人から見ると、ちょっとびっくりするぐらいに日本っぽさを押し出していたりする。なんというか、「イメージとしての日本」のような感じだ。逆に、あまりにも露骨に「日本」向けすぎると、日本人としては、「そこまで行かなくていいかな……」ともなりそうだが、外国の人にとっては、むしろ行きたい“特別な場所”になる。

また、「千客万来」でも、あるいは同じく最近話題の「ニセコ」でもそうだが、そうした場所では商品の値段をかなり高めに設定して、日本人からするとちょっと手が出ないような価格帯だったりする。

こうした意味では、テーマパーク的な演出がその場所を「外国人観光客向け」に特化させる“ゾーニング的な役割”も果たしているといえるのだ。

◆日本に広がる“テーマパーク的開発”

今回の銀座くら寿司は、例のごとく「日本人を相手にしていない」的な論調にさらされる可能性もある。一方で、「グローバル旗艦店」と位置付けていることからもわかる通り、恐らくくら寿司自体はこの店舗を日本人向けには作っていない。むしろ、外国人観光客の需要に応えるために作っている。もちろん、日本人の客もいるにはいるだろうし、今後も多いと思うが、明らかに狙いを定めているのは外国人観光客だ。

こうして考えてみると、テーマパークとは、むしろ“ある客層”だけを呼び込みたい時に使う「選択と集中」のためのツールなのではないかと思わされる。外国人観光客にとっては、せっかく日本に来たのなら、日本的ななにかを体感したい。そして、それを体感させるためのツールとして“テーマパーク的開発”が使われる。

しかも、回転寿司チェーンにであるくら寿司までもがこうした開発を行っていることをみるにつけ、テーマパーク的開発が日本に広がっていることは、疑いようのない事実なのだといえるのだ。

<TEXT/谷頭和希>

―[テーマパークのB面]―

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)