ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――169回目を迎える伝統の長距離GI、天皇賞・春(京都・芝3200m)が4月28日に行なわれます。
大西直宏(以下、大西) 昨年4月、この天皇賞・春に合わせるように京都競馬場がリニューアルオープン。3年ぶりに京都コースで行なわれる天皇賞・春が戻ってきました。やはり京都の外回りのレースは、ゴール前の攻防に見応えがありますよね。
阪神と京都の違いでよく言われるのが、上がり3ハロンの競馬。最後の直線で坂が待ち受けて、上がりがかかる阪神はタフな争いになりやすく、対して3コーナーすぎから下り坂で、直線が平坦な京都はキレ味勝負になることが多いです。今年はどんな叩き合いが見られるのか、とても楽しみです。
――天皇賞・春の連対馬を見てみると、ほとんどの馬が重賞で57kg以上の斤量を背負って好走した実績があります。
大西 「古馬最高峰のレース」と言われるように、天皇賞・春はそれだけ格式が高いGIということですよね。58kg(牝馬は56kg)を背負って3200mもの距離を走るわけですから、本当に底力のある馬でないと勝負になりません。
長距離GIで何度も好走実績のある馬が万全の状態で出走すれば、基本的に大崩れは少ないレースです。今年の出走メンバーを見ても、上位人気が予想される馬たちはそれなりに信頼度が高いように思います。
――下馬評からすると、昨年の菊花賞馬ドゥレッツァ(牡4歳)と、前哨戦のGII阪神大賞典(3月17日/阪神・芝3000m)で5馬身差の圧勝劇を披露したテーオーロイヤル(牡6歳)が、人気を二分しそうです。
大西 両馬ともに自在に立ち回れて、終(しま)いもしっかりと脚を使えるので、勝つチャンスは大きいのはないでしょうか。
ドゥレッツァについては、昨年のGI菊花賞(10月22日/京都・芝3000m)を勝ったあと、「この世代では突出した能力の持ち主かもしれない」と感じました。逃げて、一旦下げて、また先頭に立って突き放すという、驚くべきレース運びで同世代のライバルたちを一蹴しましたからね。
ノーザンファームの生産馬で、未勝利からの5連勝で一気に菊花賞まで制すような"エリート"であれば、普通はより高みを目指してドバイへ遠征するパターン。でも、この馬は早い段階から、GII金鯱賞(3月10日/中京・芝2000m)からの始動を表明していました。
その点から、天皇賞・春を本気で狙って獲りにきていると考えられ、勝負度合いはかなり高いように感じます。
一方、テーオーロイヤルも3000mを超える長距離戦には相当な自信を持っている印象です。昨年末のGIIステイヤーズS(2着。12月2日/中山・芝3600m)から、今回で4戦連続の3000m以上の長距離戦になります。
2走前のGIIIダイヤモンドS(2月17日/東京・芝3400m)では、最重量の58.5kgのハンデを背負って、2着サリエラ(牝5歳)以下を完封。前走の阪神大賞典では、難敵のライバルたちに大差をつけて完勝しました。
3歳時から長い距離での走りに定評のあった馬ですが、GI獲りへ、いよいよ機が熟した感があります。
――この人気2頭が能力を出しきれば、平穏決着で終わりそうですが、もし伏兵が割って入るとしたら、どういったパターンが考えられますか。
大西 長距離戦ということを踏まえれば、やはり人気薄の逃げ馬には注意が必要でしょう。ただ、今年のメンバーを見渡すと、これといった逃げ馬は見当たりません。
ドゥレッツァが菊花賞で逃げましたが、あれは大外枠を嫌ったクリストフ・ルメール騎手がスタートから出していったら、偶然ハナに立ってしまっただけ。今回代打騎乗となる戸崎圭太騎手が、人気を背負った状況で積極的に逃げの手に出るとは思えません。
そうなると、前走のGII日経賞(4着。3月23日/中山・芝2500m)で逃げの手を試みた、横山典弘騎手騎乗のマテンロウレオ(牡5歳)が逃げる可能性が高いと思います。日経賞でも道中では後続を引き離しての大逃げの形をつくって、ゴール前まで"あわや"というシーンを演じました。
マテンロウレオは天皇賞・春でどんなレースを見せるのか。photo by Eiichi Yamane/AFLO
あの競馬は、天皇賞・春で逃げることを見据えての試走だと思いますし、人馬ともに2度目の逃げなら、よりリズムよく走れるのではないでしょうか。
横山典弘騎手の天皇賞・春での逃げ切りと言えば、2004年のイングランディーレが思い出されます。向こう正面で後続に大差をつけ、3コーナーでも20馬身ほどのリードがあったでしょうか。結局、後続馬にいっさい影を踏ませることなく、2着に7馬身もの差をつけて戴冠を遂げました。
「長距離戦は騎手で買え」という格言があるように、長い距離のレースほど騎手の手腕、駆け引きが重要度を増します。ということで、天皇賞・春では横山典弘騎手の腕を最も警戒して、マテンロウレオを「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。
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