菊池雄星は今季開幕からその力を見せつけている photo by AP/AFLO

 ロサンゼルス・ドジャースが4月26日(日本時間27日)から敵地で迎える3連戦、今季初対決となるトロント・ブルージェイズは大谷翔平にとって、手強い先発投手陣が顔を揃えている。大谷の花巻東高の先輩で、現在はメジャートップクラスの左腕となった菊池雄星をはじめ、ナ・リーグ首位打者をひた走る大谷相手にどのようなピッチングを見せるのか? 大いに注目だ。

【大谷が最も苦手とする右腕バジット】

 トロント・ブルージェイズの先発投手陣は、昨シーズンは30球団中3位の防御率3.85を誇り、今季も好調でチームを牽引している。

 特に調子がよいのは、現在4連勝、防御率0.85の右腕ホセ・べリオス(29歳)。実は大谷翔平はべリオスに対して22打席で本塁打3本、二塁打4本、長打率は1.167と"カモ"にしている。もっとも、今季最初のシリーズ(4月26日・日本時間27日からの3連戦)ではローテーションの巡り合わせで当たらない。

 代わって対戦するのは、手ごわい3人だ。

 4月26日(日本時間27日)の第1戦は右腕クリス・バジット(35歳)で、大谷がメジャーで最も苦手な右腕なのかもしれない。大谷が一番多く三振を喫しているのは、ヒューストン・アストロズの左腕フラムバー・バルデスで12個だが、それに次ぐ11個。ただしバルデスは41打席で12奪三振だから,三振率は29%。バジットは27打席で11奪三振だ(40.7%)である。

 サイヤング賞(最優秀投手賞)投票の対象になったことは3度あるが、最高でも8位と決して大投手とは呼べない。速球も目一杯投げると95マイル(152km)を超すが、平均だと92〜93マイルと速くない。三振奪取率も22.1%でほぼメジャー平均。にもかかわらず、大谷からは40%の三振奪取率を誇り、通算打率も2割に抑えており、大谷に対して分がいい投手といえる。

 初対戦は、バジットがオークランド・アスレチックス時代の2019年5月27日。大谷はカーブに二ゴロ、チェンジアップに投ゴロ、フォーシームに空振り三振だった。同年6月、大谷は2試合目の対戦でカーブを中越え本塁打としたが、2020年は3試合で対戦し6打数0安打1四球、フォーシームに2三振、シンカーに1三振を喫した。2021年もフォーシームに3三振だった。

 グラブを持つ左手は高く上げたまま、左足を高く上げてから右ひざを折り曲げ、196cmの身体を沈み込ませるフォームで、低いリリース位置から高めを狙ってフォーシームを投げる。それが大谷に対して効果を発揮する。それを、縦に大きく割れるカーブと併用するため、速球が得意な大谷がタイミングを合わせられない。

 大谷が対バジットで唯一複数安打を記録したのは、2021年5月22日の試合。高めのフォーシーム、低めのカーブに2打席連続空振り三振のあと、3打席目はフォーシームにバットを折られたが、68.5マイル(110km)の打球は二遊間を抜け、右中間の芝生の上を弱々しく転がっていった。大谷はそれを見て一塁ベース付近から加速、瞬く間に二塁ベースに到達した。

 4打席目は外角カーブに身体が泳ぎながら打球はセンターの頭上を越え、再び快足で駆使して三塁ベースへ。バジットは、大谷の(走塁における)ワープ速度に舌を巻き、試合後、自身のSNSで、次のようなユーモラスな文面を投稿した。

「親愛なる米国宇宙軍(U.S. Space Force)へ、エンゼルスの背番号17を調査してくれませんか? 調べてください、よろしくお願いします」

 そのうえ、画像のキャプションには「エイリアン(地球外生命体)だと言っているわけじゃないけど、あれはエイリアンだった」と添えている。

 バジットは2023年からブルージェイズに移籍し、昨年4月に再び対決。大谷は、シンカーとスプリッターで2打席連続の見逃し三振を喫したあと、3打席目は初球カーブをとらえ右前打だった。これまで大谷が打っているのは、ほとんどがカーブである。

 10試合目の対決で、今度こそバジットの速球を芯でとらえヒットにできるのだろうか?

【メジャートップクラスの左腕・菊池雄星】

 4月27日(日本時間28日)の第2戦は花巻東高校の先輩、菊池雄星(32歳)と対峙する。大谷はメジャー7年目で圧倒的なメジャーの看板選手だが、菊池も渡米から数年間、悪戦苦闘した末、6年目でリーグを代表する左のパワーピッチャーに成長した。その進化は称えられるべきだと思う。昨季は32試合に先発し、11勝6敗、防御率3.86。今季は5試合に先発し2勝1敗、防御率2.28である。

 今の菊池はすでにニューヨーク・ヤンキース相手に2試合好投しているように、アーロン・ジャッジやフアン・ソトのようなメジャーのトップ打者であっても圧倒できる力がある。本人も「メジャーで6年目ですが、これだけ自信を持って投げられているのは初めてです」と手応えを口にしている。

 大谷のvs.菊池の通算成績は20打数6安打1四球、6三振。3本塁打、1二塁打、打率は3割だ。

 初めて対戦したのは2019年の6月8日。スライダーを二塁内野安打、カーブを一ゴロの後、75マイル(120km)のカーブを左中間本塁打とした。この年はほかに2試合対戦したが4打数1安打1四球だった。

 とはいえ、当時の菊池は大谷との勝負云々ではなく、メジャーで果たして先発投手を続けられるのかどうか、疑問符がつくレベルだった。1年目は6勝11敗、防御率5.46で、36本塁打を浴びたからだ。2年目も2勝4敗で防御率は5.17。とはいえ、菊池は菊池なりに進化をしていた。例えばフォーシームの平均球速は1年目の92.5マイル(148km)から2年目は95マイル(152km)に上がった。

 そして3年目の2021年は、フォーシーム、スライダー、チェンジアップで空振り率が30%を超え、前半は6勝4敗、防御率3.48の好成績でオールスターに選出された。大谷とは6月5日に対戦。真ん中に入る94マイル(150km)のカッターを左中間本塁打とされたが、2打席目はスライダーで空振り三振。7月17日の対戦でもスライダーで遊飛、フォーシームで見逃し三振、スライダーで空振り三振と抑えた。後半は成績を落とし、防御率は4点台に下降したが菊池なりにステップアップはしていた。

【ブルージェイズ移籍後に開眼】

 2022年からブルージェイズに移籍。このチームの投手コーチには、元横浜DeNAベイスターズのピート・ウォーカーがいて、他球団で活躍できなかった投手を再生させることで有名。菊池についても潜在力を買い、3年契約を与えた。この年はその第一段階で途中からローテーションを外れることになったが、結果的にそれが転機となった。

 菊池にはマウンド上で考え過ぎる悪癖があった。投球フォームに違和感を覚えると、打者よりそちらに気を取られる。だが、リリーフ投手だと同じようにはいかない。

「先発投手だと登板の準備に1時間から2時間もかけられる。ところがリリーフ投手だとブルペンで10球投げただけで、試合に出ないといけないことも何度かあった。でも少ない準備でも試合で同じような球を投げられた」

 菊池がこう振り蹴ったように、リリーフ登板した12試合では、18.3イニングで33奪三振と圧倒した。

 対大谷も悪くなかった。90マイル(144km)の高速スライダーが有効で、5月28日の対戦はスライダーに二ゴロ、空振り三振、フォーシームに中飛。8月26日はスライダーに一ゴロ、二ゴロだった。メジャーの看板選手となった後輩に、先輩の意地を見せた。

 2023年、先発ローテーションに復帰。MLBは新ルール、ピッチクロックを導入したが、これも菊池には都合がよかった。時間が限られているから、余計なことを考えずポンポン投げ込む。自らのフォーシームの威力を信じ、ストライクゾーンを攻めた。捕手もミットをコーナーに構えるのではなく、ゾーンの中に据えた。

 大谷との対戦は4月9日、シーズン2試合目の登板だった。この時は後輩にリベンジされた。1打席目はスライダーで一ゴロに仕留め、この時点では10打席連続で討ち取っていたが、2打席目は大谷がインコースのスライダーを狙い打ち。センター左のスタンドに運んだ。3打席目も内角高めのスライダーを中前打とした。試合後、菊池は「肩口から入ってくるボールで一番飛ぶところ。もう少し外に投げきらなければいけなかった、失投ですけどそこを見逃さずホームランにするというところでレベルの高さを感じました」と称えた。

 過去との違いを感じたかという質問には「当然毎年レベルアップはしている。僕自身も彼に負けないというよりも、このリーグで勝つために自分を磨き続けているので、今日は打たれましたけどまた次頑張りたいなと思います」と語った。

 この試合の菊池は5回途中まで投げ6失点と散々な出来だった。しかし4月、ほかの4試合はトータル3失点でヤンキース、タンパベイ・レイズを倒すなど勝利投手になった。

 その勢いに乗り、2023年は前述の好成績となった。そして今回、メジャーのトップ選手同士として真っ向勝負に臨む。

【復調気配のガウスマンも手強い相手】

 4月28日の第3戦はケビン・ガウスマン(33歳)だ。2023年はサイヤング賞投票で3位、237奪三振はア・リーグトップだった。メジャーリーグきってのスプリッターの使い手で、フォーシームとスプリッターのリリースポイントも軌道も、ボールの回転軸もほぼ同じ。ゆえに打者は見分けがつかない。速度差は約10マイル(16km)、途中からフォーシームより60cm近く落ちるが、途中でバットは止められない。

 大谷は過去3度対峙している。2度目の対戦となった2021年6月23日の試合、大谷は二刀流での出場で、投手では6回を6安打1失点、9奪三振と好投したが、打席ではガウスマンのスプリッターに一ゴロ、空振り三振、空振り三振と完全に抑えられた。

「すばらしい打者だから、自分のベストの投球を心掛けた。投手有利なカウントに持っていくことができ、いいボールを投げることができた」

 試合後に笑みを浮かべながら振り返ったガウスマンは、2022年からブルージェイズに移籍すると、2023年7月28日に再対決。第1打席、初球低目のフォーシームを完ぺきにとらえ右越え本塁打、2打席目はスプリッターに空振り三振、3打席目は外角低めボールになるスプリッターに手を伸ばし、左前に落とした。ふたりの対戦成績は通算で9打数2安打、5三振、打率.222だ。

 ガウスマンは今年、春季トレーニング中に肩の疲労が出て調整不足。開幕から最初の3試合は防御率11.57の不振だった。しかし4試合目のヤンキース戦は5回1失点、5試合目のカンザスシティ・ロイヤルズ戦も7回途中まで3失点(自責0)と、今季0勝3敗ながら調子を上げてきている。

 大谷との4度目の対決は、いかに?