3月17日、ボクシング界に衝撃が走った。WBA世界ライトフライ級9位の坂間叶夢選手(ワールドスポーツボクシングジム〈足立区〉)が、20歳という若さで世を去ったのだ。プロデビュー以来、9戦9勝(8KO)、井上尚弥選手の前座試合にも出場するなど、「未来の世界チャンピオン」と期待された逸材だった。

減量に苦しむ叶夢選手に対し、同ジムの齊田竜也会長が下していた判断とは――。

前編記事『「息子はボクシングジムに殺されました」…父親が慟哭告白…「将来の世界チャンプ」と期待された若きボクサーが自ら命を絶った理由』につづき、父親・一平さん(44歳)の証言を紹介する。

ジム会長への直訴

LINEで『(これ以上やらせるなら)引退させる』と伝えました。しかし会長は、『ジムでミット打って落としましょう』と……。そもそも、ジム側の人間は誰も叶夢の減量や体調管理の面倒を見なかった。あいつがどれだけ苦しんでいるか知らないのに、何を根拠に『落とせる』と言っているのかと、怒りが湧きました」

一平さんは、最後はジム側に押し切られる形になってしまったことを強く後悔しているという。

「叶夢は友達から『武士のような男』と言われるほど、真面目で一生懸命な子です。一度も弱音は聞いたことがありませんし、ましてや自分から『試合を中止してほしい』と言うことは絶対になかった。叶夢の性格は、ジムの人間も知っていたはず。本人が言わない以上、中止という判断は会長にしかできなかった。いまは、許せないという気持ちしかありません」

ボクシング界全体の問題

〈ありがとうございました。自分だけじゃ何も出来ないです。もっと自分に厳しくしていかないと上には行けないので頑張ります〉

3月16日の深夜0時過ぎ、叶夢選手は家族のグループLINEにこうメッセージを送信して消息を絶ち、翌17日に遺体で発見された。

遺書は見つかっておらず、叶夢選手が自死を選んだ明確な理由はわかっていない。ただ一方で、試合へのストレスや減量苦により、ボクサーの精神状態が極限まで追い込まれることは、以前から指摘されていることだ。

一平さんが言う。

「私がジム側に求めているのは、真相を知りたいということです。なぜ、叶夢は追い詰められていたのか、ジム側に落ち度はなかったのか。もちろん、親としてジムに怒りはあります。しかし同時に、ボクシング界全体がもっと選手の安全管理について真剣に考える契機にしなければいけないとも思っています」

代理人弁護士を通じて回答

父親の悲痛な訴えについて、所属ジムは、代理人弁護士を通じて概ね次のように回答した。

「当ジムは、怪我や違和感等に対しては必要な検査・治療を受けさせるとともに体調を注視し、坂間選手ご本人及びご家族と十分に協議を行いながら無理のない試合日程を組んで参りました。

減量に関しても、坂間選手に負担がかかり過ぎないよう配慮し、体調次第では予定していた試合に出場することができない場合があることも許容した上で、調整を行っておりました。(中略)同様の事案の再発防止のため、本件に関する情報収集を引き続き行って参ります」

ボクシング界に精通する渋谷アクア法律事務所・弁護士の菊地漠氏はこう指摘する。

統括団体も動き出した

「ジムの管理者には、法的にも選手の安全配慮義務が課せられています。坂間選手の一件も、今後、ジム側の管理・監督体制について問題がなかったのか、ボクシング界全体で、しっかりと検証すべきです」

さらに、国内のプロボクシング競技を統括する日本ボクシングコミッションの安河内剛執行理事も、真相解明に努めていくという。

「所属ジムに報告書の提出を求めていますが、現時点では受領していません。遺族側とは話ができていませんが、真摯に対応させていただく準備はしています」

父親の一平さんは、

「齊田会長には、3月17日の午前中に鋸山で叶夢の遺体が発見されたことを伝えています。しかし会長は、『遺族と連絡が取れない』ということにして、『死の詳細はわからない』という態度を一貫しています。いつでも私と連絡が取れるにもかかわらず、叶夢の告別式以降、会長からの連絡はありません」

と語っており、法的措置も辞さないとしている。

将来を期待された若きボクサーの死を、悲劇という言葉だけで終わらせてはならない。

週刊現代」2024年4月20日号より

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