約1800年前の中国の興亡史として知られ、日本で絶大な人気を誇る『三国志』。

人気の理由はさまざまだが、大きく分けて2つある。まず1つは激動の時代において登場人物たちが織り成すドラマチックな物語性。もう1つはビジネスなど現代社会でも活かされる兵法やリーダーシップ論の数々だ。三国志から得られる教えは今も色あせず、現代でも人を魅了し続けている。

今でも『三国志』に基づいた創作やその精神力を伝える作品が多い。最近では現代に転生した孔明が活躍する漫画『パリピ孔明』(原作:四葉夕卜、漫画:小川亮)がアニメやドラマで展開され、大きな話題となっている。

そして今回、三国志の様々な武将を操り当時の戦いを追体験できるスマートフォンゲーム『三國志 真戦』より、リリース3周年を記念するクイズ大会『三國志 真戦』×三国志検定 三国志最強頭脳決定戦が開催される。これは10年前に開催され注目を集めた「三国志検定」とのコラボで、三国志にもっとも深い知識を持つ“最強頭脳”を決めるものだ。

※「三国志検定 三国志最強頭脳決定戦」への参加はこちらから https://x.gd/BrKxb

今回は『パリピ孔明』の原作者・四葉夕ト先生を招き、クイズ大会監修も行っている三国志研究の第一人者・渡邉義浩氏との対談を通じ、三国志の魅力を伝えていく。

多くの英傑たちが躍動する三国志の中で、とりわけ有名なのが天才軍師で知られる諸葛亮孔明(以下、孔明)だろう。2人の孔明像や『パリピ孔明』のヒットの秘密から三国志が多くの世代に渡り魅力ある物語として愛される理由が見えてきた。英傑たちのさまざまな想いを巡る三国志の熱い物語の魅力について2人が語る。

日本の三国志人気に一役買っている『パリピ孔明』

本日はよろしくお願いします。ちなみにお二人のご面識は?
2020年に「三国志大文化祭」という三国志学会さんのイベントに呼んでいただきまして、そこで渡邉先生に初めてご挨拶させていただきました。
もう4年前になりますか。三国志学会は500人くらいの会員がいるんですけど、うち8割は一般の三国志ファンの方々なんです。そういった方々のためにイベントを主催しているのですが、第1回目のゲストとして来ていただきまして。
記念すべき第1回目に招いてくださりありがとうございました。
いえいえ。私も『パリピ孔明』を全巻買って読んで、作品の世界観を楽しませていただいてから参加した思い出があります。今日久しぶりに四葉先生に会うことができましたが、少し痩せられましたか?
はい(苦笑)。おかげさまで忙しくさせていただいております。
やはり創作というものは大変でしょうね。本当にごくろうさまです。
その後、2022年にアニメ化、2023年にテレビドラマ化、今年2024年には舞台化も予定と快進撃を続ける『パリピ孔明』ですが、今日の人気ぶりについてお二人はどのように感じていますか?
いやもう、フジテレビさんがスゴいなと思っています(笑)。アニメも大好きだったのですが、ドラマはさらにキャスティングも豪華で、本物のプロの歌い手さんを集めてくださって。そこへ三国時代の衣装に身を包んだ向井理さん演じる孔明のビジュアルがもう……。

とにかく気合を入れて作ってくださった感じが伝わってきて、原作者としてありがたい気持ちでいっぱいです。
今回、ドラマ版では私も監修に参加させていただいたのですが、フジテレビのディレクターの姉上もまた大の三国志オタクで、過去には仲間と一緒に史跡を回ったことがあったんです。

そういった意味も含めてこだわりを感じるドラマになっていましたが、個人的には原作以上に三国志ネタが盛り込まれていたことに感心していました。
スゴいですよね。BBラウンジのオーナー、小林役の森山未來さんも相当な三国志マニアのようで、アドリブでガンガン三国志ネタを振っていたとか。
私も監修のために映像を観ていたのですが、ひとつひとつの確認が大変だったくらいです(笑)。
渡邉先生が全面的にドラマを監修してくださったと伺っていたので……。あらためて本当にありがとうございました。
とんでもありません。私も最近、早稲田大学の学生さんにドラマの監修をしたと話したところ、「先生そんなこともやっているんですか!?」と私の研究テーマに興味を持ってもらえたことがありまして(笑)。三国志研究をしている者として『パリピ孔明』の人気はとても嬉しいんです。

早朝の六本木でDJとの話題で…『パリピ孔明』誕生秘話

孔明が現代の日本に転生するという『パリピ孔明』のアイデアは、どういう経緯で生まれたのでしょうか?
早朝5時半の六本木で、DJをやっている友人と「孔明がパリピになったら面白くない?」という話題で盛り上がったのがきっかけです(笑)。

そこで『パリピ孔明』というタイトルを思いついたのですが、そこからどういう風にしたら面白くなるだろうかと50回くらい脚本を練り直して……。当初は『聖☆おにいさん』のような日常コメディを連想していたのですが、当時の「コミックDAYS」(講談社)の編集長からダメ出しされて、数回やり直した末に今の内容になりました。
▲現代のSNSカルチャーを謳歌する孔明(第14巻)
©四葉夕卜・小川亮/講談社
『パリピ孔明』はタイトルが本当に素晴らしいですよね。リズミカルで軽やかなイメージがあります。
ありがとうございます。タイトルは最初からずっと『パリピ孔明』のまま変わっていなくて、これ以上の案は出せないくらい気に入っています。編集長からは最終確認時に「本当にこれで大丈夫?」と言われたんですけど(笑)。
そうだったんですか。もしNGと言われたら……。
きっと担当さんと一緒に編集長と戦っていたと思います(笑)。担当さんと「絶対に面白い」「これで行きましょう」と話していましたから。
まさにエポックメイキングな瞬間だったのですね。『パリピ孔明』で描かれる孔明は、何をイメージして創られたんですか?
横山光輝先生の漫画『三国志』の影響が大きいと思います。私の中にある孔明は「ちょっと変な人」というイメージが強くて、ストーリーを考える際もそういう感覚が入っているんじゃないかと思います。

ちなみに私からも渡邉先生にお聞きしたかったのですが、日本の人たちが親しんでいる三国志のイメージというと、どの作品がいちばん影響しているのでしょうか?
普及の度合いで考えると、やはり横山先生の漫画でしょうね。横山先生は独自の三国志観で描いていらして、しかも「コミックトム」という少年誌で連載していましたから、優しさを第一に置いたストーリーで親しみやすかったのではと思います。

吉川英治先生の『三国志』も日本における代表的な三国志作品の一つですが、吉川先生の作品は内容を理解するのがちょっと難しいんです。もともと江戸時代に湖南文山という人が書いた『通俗三国志』の翻案がベースとなっていますが、その『通俗三国志』も『三国志演義』の超訳をリライトして書かれているので、より難易度が高いのだと思います。
いずれにせよ日本で親しまれている三国志は『三国志演義』がベースになっているんですね。一般的に『三国志演義』というと「7割が史実、3割が虚構」と言われていますが、実際のところいかがでしょうか?
簡単にたとえると、『三国志演義』にある3割の虚構のうち、1割が神格化される存在となった関羽、次の1割がいつも泣いているシーンばかり描かれている劉備、そして最後の1割が本当はあまり戦場に出ていないけど戦場での活躍シーンが多い孔明、というところにフィクションが集約されている感じでしょうか。

孔明はどんな人物だった? 意外と知らない実像とは

先ほど四葉先生は孔明を「ちょっと変な人」とおっしゃっていましたが、どういったエピソードからそのようなイメージを感じたのでしょうか?
孔明という人は若い頃に生まれた国を追われ、荊州にやってくるのですが、それから劉備に仕えるまで5年ほど隠遁生活を送っていたと知ったんです

孔明ほどの優れた人物ならどこの国でも仕官して出世できただろうに、あえてしなかったということは、きっと変わった人なんだろうと考えていました。
たしかにそうしたエピソードが残っていますね(笑)。ただ、これには理由があると言われています。
当時、孔明がやってきた荊州は劉表という人物が治めていました。孔明と劉表は親戚関係なので、四葉先生がおっしゃるとおり容易に仕官できたと思いますが、劉表は平和主義者で荊州を守ることを第一に考えていた人物で、漢の再興を志し天下統一を実現したい孔明とは考え方が合わなかったんです。

また、劉表の下には蔡瑁や張允といった重臣がいて、今さら孔明が入ったところで特にできることは何もなかった。だから孔明は自分と志を同じくし、かつ才能を買ってくれる君主が現れるまで隠逸(知識階級でありながら仕官せず、身を隠して暮らす人のこと)していたと考えられています。
そうだったんですか。しかし「誰かに声をかけてもらうまで待つ」という考え方も、現代人の視点だと変わっているように感じます。
実は三国志の中にはこうしたエピソードがいくつも残っているんです。特に孔明のような経済力のある家系の者だと、戦争で追われて荊州に落ち延びたとはいえ財力はそれなりにありますから、時が来るまで待つことができるんですね。
孔明といえば清貧のイメージがありますが、実像はそうではなかったのでしょうか?
そう考えていますね。孔明は日本で言うところの県知事を代々輩出するような家柄ですから。

三国志の中でも孔明は当時、晴耕雨読の生活を送っているような文章を残していますが、あくまでこれは比喩的な表現で、実際は自分で耕していたわけではないと考えられています。

また、中国は儒教が広く浸透していますが、儒教では在野にいる賢者を登用することが良い君主とされ、ものすごく重要な職務と考えられていました。孔明のように優秀な人材ならいずれ誰かが登用にやってきますし、だからこそ劉備に対しても「三顧の礼」のような態度を取ることを求められたと考えられています。
※『三國志 真戦』は、好きな武将を集めて編制し、戦場にて活躍させることができる。また、武将の列伝にて『三国志』、『三国志演義』別で武将の生涯の重要な出来事をチェックし勉強もできる

漢の再興を志し、実現できなかった孔明の悲劇性

渡邉先生は以前、『ゲームさんぽ』に出演された際に「好きな人物は諸葛亮ただ一人」と紹介されていました。あらためて孔明の好きなポイントをお聞きしても?
悲劇性、じゃないでしょうか。私たちは小さい頃から「頑張れば報われる」と教えられますが、実際に生きているとそんなわけがない状況はいっぱいあるわけで、そういう時に悲劇に触れる大切さがあると思っているんです。
なるほど。渡邉先生が考える孔明の悲劇性とは、どんなところでしょうか?
やはり漢を再興できなかったことですね。私がまだ子供だった頃、横山先生の漫画で孔明の活躍とその最期を知ってショックを受けたんですよ。

あんなに劉備と三顧の礼の絆で結びついて、赤壁の戦いなどで人知を超えるような活躍をしていた孔明が、自分の志である漢の再興を達成できず五丈原で死ぬわけですから。しかも最期は星が落ちるわけでしょう、もうたまらないですよね。
※『三國志 真戦』のPKシーズン「中原平定」は諸葛亮の北伐をもとに改編され、このシーズンにて北伐の戦場が登場。覇業を達成させ、漢室の復興を叶えよう
渡邉先生は悲劇性のある物語がお好きなんですね。
実際に五丈原の史跡まで行って、その時に落ちたとされる隕石をペタペタ触ってきたくらい思い入れが深いですから(笑)。

だから『パリピ孔明』のドラマのラストが悲劇にならなかったことが、逆の意味で嬉しかったんです。三国志のエピソードをただなぞるのではなく、新しい解釈が加えられている点も興味深く観ていました。

たとえば英子とAZALEAとの「109の戦い」では、赤壁の戦いの「草船借箭(曹操軍を欺いて10万本の矢を得る逸話)」がベースになっていますが、SNSで10万イイネをもらった後で相手にイイネを丸ごと返すなんて、なかなか考えつかないアイデアじゃないですか(笑)。
▲現代の「草船借箭」はSNSの10万イイネ(第4巻)
©四葉夕卜・小川亮/講談社
先生に褒めていただいてとても嬉しいです。私もせっかくなら新しい孔明にしたいとずっと思っていたんです。

やっぱり『三国志演義』における孔明の物語ってすごく切ないんですよね。今回、実写ドラマでも当初の台本では最後に孔明が消える展開を予定されていたんですけど、私のほうからご相談させていただいて、ハッピーエンドに変更いただきました。
やはりそういったやり取りがあったんですね、おみそれしました。
私は『パリピ孔明』を明るい物語にしたいと思っていまして、いつもストーリーを考える時に意識するようにしているんです。ちょっと悲しいストーリーのアイデアが浮かんできても、「いや、『パリピ孔明』だもんな」と思い直すようにしています。
昔は三国志って「男の子の基本教養」みたいなイメージがあったんですけど、『パリピ孔明』は男女関係なく親しまれている点を興味深く感じています。

きっと四葉先生の孔明に対する考え方が、現代の人々に受け入れられているのかもしれませんね。これを機に多くの人々に三国志を知っていただけるといいなと願っています。
ありがとうございます。それは責任重大ですね……(笑)。

孔明の知略も光った三国志の計略の見どころ

今回の対談企画のきっかけとなるゲーム『三國志 真戦』は、プレイヤーが勝つために他のプレイヤーと協力したり敵対したりと非常に戦略性の高い内容となっています。お二人は三国志の戦いの中で印象に残っている戦略はありますか?
私は戦いで用いられる計略の中で、好きなものが2つありまして。

まず1つ目は「苦肉の策」。赤壁の戦いで呉の将軍・黄蓋が周瑜から棒たたきの計を受けて曹操に偽の投降を信用させるエピソードが大好きなんです。
それは渋いセレクトですね(笑)。
当時の黄蓋は60歳くらいの老将だったと言われていますが、もし自分が60歳の時に目的があるとはいえ棒たたきをする羽目になったら、やっぱり無理だと思います(苦笑)。黄蓋ひいては孫権軍が、曹操軍に勝つためそれぐらい決死の覚悟だったと想像すると、胸が熱くなりますね。
※『三國志 真戦』PKシーズン「赤壁の戦い」では、水上戦、「火攻」システムが新たに登場。さらに、諸葛孔明が東南の風を借り、黄蓋が偽の投降をして曹操の連環船を燃やす三国志の名シーンを再現することができる
『パリピ孔明』でもKABE太人君が苦肉の策で体を張っていましたね。もう1つは?
もう1つは「空城の計」です。
あっはっは(笑)。孔明と音楽の縁を感じる『パリピ孔明』らしいエピソードですね。
「空城の計」というのは?
「空城の計」は、「街亭の戦い」で蜀が魏に敗れて退却している中で、孔明がすでに兵が退いた空城に残って一人で古琴を弾くことで、司馬懿に伏兵の可能性を疑わせ退却させた計略です。魏の大軍が目の前にいる中で優雅に琴を弾くなんて、私には無理ですよ(笑)。

私の中にある孔明のイメージって、こういう現代人からは奇想天外に見えるところなんです。『パリピ孔明』の中でもこうしたトリッキーな要素は大切にしていて、いつか「空城の計」もエピソードの中で描きたいと思います。
心理トリックを使った面白い計略でしたね。史実だと孔明より先に趙雲が漢中争奪戦の際に曹操軍に対して使ったと記録されていて、劉備から「お前は肝っ玉の塊だな」と褒められる逸話も残っているんですよ。
※『三國志 真戦』にて「空城の計」の使用が可能。他のプレイヤーは主将の情報のみがわかり、部隊全体のレベルや能力は判断できない。強そうに見えるが実力が伴わない部隊を使って相手部隊を追い払ったり牽制ができる
勉強になります。渡邉先生のほうはいかがでしょうか?
私は曹操と袁紹による「官渡の戦い」の前哨戦として知られる「白馬の戦い」を圧倒的に推したいと思います。あの戦いは両軍が完全に「孫子」の兵法をなぞっていたお手本のような戦いなんですよ。
興味深いお話ですね。ぜひ詳しくお聞かせいただけますか?
※『三國志 真戦』の事件機能では三国志史上の重要な出来事が時系列的にまとめられている。また、事件に関係する戦法を入手することも可能
陳寿が描いた『三国志』には戦争の具体的な記述って実はあまりなくて、基本的に政治的な話が中心なんです。赤壁の戦いだって詳細は省かれていて、どうやって劉備・孫権軍が曹操軍を破ったのか記録されていません。

ですが、白馬の戦いに関してはあまりにも見事に詳細が描写されていて、1800年ほど前の戦いが手に取るようにイメージできるんです。
白馬の戦いというと、黄河を挟んだ向こう側にある白馬県(現在の河南省にある地域)の城が袁紹軍に包囲され、曹操軍が計略を巡らせて黄河を渡ることで救援に成功する流れで合っていましたでしょうか?
そうですね。この戦いでのポイントは、曹操も袁紹も軍略に優れた知識人を数多く抱えていて、誰もが「孫子」を熟読して理解しているわけです。ですから両軍共にハイレベルな用兵を行っているわけですが、その中で曹操軍は鮮やかに袁紹軍を破ってみせたところにあると考えています。
強者同士が雌雄を決する戦いですか。それは見ごたえがありますね……!

孫子や韓非子など過去の戦略に学んだ孔明

孔明といえば天才軍師のイメージで知られていますが、実際のところ兵法家としての実力はいかほどだったのでしょうか?
私もそこは気になっているんですけど、「石兵八陣」などは創作ですよね?
たしかに創作ですね。石兵八陣にまつわる史跡は中国に何箇所かありますが、それをベースに物語を創ったのか、逆に物語をベースに史跡が作られたのか、どちらが先なのかは定かではありません。

でも、『パリピ孔明』で石兵八陣を見た時、「攻めてるなあ」と思いましたよ。まさか序盤も序盤で盛り込んでくるとは、と(笑)。
※『三國志 真戦』のPKシーズン「群雄割拠」では、6つの勢力から一つを選んで天下統一を目指す。劉備勢力では敵軍を確率で混乱状態にする「石兵八陣」を建設することができる
いちばんインパクトのあるものを使いたかったんです。そうしないと連載で人気が出ないなと考えていました。

ただ、最近はネタ探しに苦労するようになってきて悩ましいです。ぜひ渡邉先生にお力添えをいただけないかお願いしたいくらいです……。
ぜひぜひ、それはもう(笑)。
たしかに孔明だけのエピソードだけでなく、「韓非子(紀元前3世紀に韓非が書いたとされる思想書)」や「孫子」のような三国志以前の時代にまつわるお話も出てきますね。
いいんですよ、ちゃんと辻褄が合っていて自然な流れだと思います。韓非子も孫子も孔明は読んでいますし、孔明が劉禅に韓非子を勧めるエピソードだってありますから。

『パリピ孔明』で英子の祖母たちの前で孔明が韓非子を引用しながら周囲を説くシーンがありますが、こういった場合、「論語」のような簡単なもののほうが用いられやすいと思います。

しかし、四葉先生はあえて韓非子を持ってくるわけですから「只者じゃないな」と舌を巻いていました。
いやいやいや恐縮です……(笑)。
こうした三国志エピソードを盛り込みつつ整合性のあるストーリーを考えるのは大変だと思いますが、いつもどのように考えていらっしゃるんですか?
基本的にはネットや本などを調べながら、「これならいけそうだ」とアイデアを探しています。内容に間違いがないように、編集部などでも監修してもらいながらエピソードは考えていますね。

ただ、石兵八陣のように計略をエピソード内に盛り込む場合は、事前に計略を先にストーリーの中に置いた上であらすじを考え、そこにキャラクターを配置していくイメージです。パズルみたいな感覚で組み合わせていって、最後に孔明が気持ちよく活躍できるように整えていく感じですね。

未だ謎の多い孔明の「八陣」

ちなみに素朴な疑問ですが、渡邉先生は三国志研究の対象に戦術なども含まれるのでしょうか?
もちろんです。私は若い頃から「八陣(孔明が戦で用いたとされる8つの陣形)」に興味があって、ずっと研究しようと取り組んでいたんですよ。

でも、「八陣」を完全に理解するには、孔明の兵法に影響を与えた「孫子」や「呉子」などの兵法書すべてに目を通す必要があって、あまりに壮大過ぎて嫌になっちゃった経緯がありました。

ただ、私たち研究家は世の中の出来事を研究に反映し、何かを学んでいくことが社会的な使命のひとつだと考えています。近年思うところがあって「孫子」を取り出し、兵家を研究し直していていました。
そうだったんですか。
あらためて大好きな孔明の「八陣」の資料を調べ直してみたところ、孔明の八陣にどんな意味があるのか明確にわかってきました。実はこれから本を出そうと準備しているところなんですよ。
なんと。
孔明の兵法の中で、後世に名前を残して継承されているものって「八陣」だけなんですよね。

今回発表する内容はこれまでの作品の八陣の解釈とまったく異なるものになる予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。

外交家、医師、道士など…孔明が持つさまざまな顔

孔明は兵法家だけでなく、他にもさまざまな顔を持っていますよね。
たしかに赤壁の戦いだけを見ても、劉備と孫権の間で同盟を結ばせる外交家としての一面や、東南の風を吹かせて劉備・孫権軍を勝利に導く気象予報士のような一面もあります。
※『三國志 真戦』PKシーズン「赤壁の戦い」では、「火攻」と「風向き」システムが導入される。風を利用し、火炎を操り孔明のように相手に火攻めを仕掛ける
孔明は外交能力も極めて高かったと思います。それは元々外交家として訓練している面もありますが、中国全土に一族を持つ諸葛一族の人脈的なネットワークによるところも大きいでしょうね。

当時、他国に親族がいることは非常に重要な意味を持ちます。他国の有力者に一族や自分の手の者がいて、裏でいろいろと工作をしているから君主などの要人と会談が実現するわけです。私が北京大学の一番偉い人と会えるのは、事前にいろいろな調整をやってくれる人がいるから、と同じ理屈ですね。
なるほど。最初のほうでお話いただいた、孔明の経済力にも通じるお話ですね。同じように曹操や袁紹なども国の有力者を代々輩出してきた一族の出身ですし、そういう人物だからこそ大きな勢力となっていったこともうなずける気がします。
もう1つ、孔明が東南の風を吹かせるエピソードについてですが、これは日本人が親しんでいる孔明のビジュアルにも関係があります。
孔明のビジュアルというと、『パリピ孔明』の中で向井理さんが着ていたあの衣装のことですか?
そうです。孔明が身につけている「羽扇(うせん。手にしている扇)」とか、「綸巾(りんきん。帽子)」とか、「鶴氅(かくしょう。上着)」というのは、道士の基本的な衣装なんです。

孔明は後世の創作の中で、道士になったり医者になったりして活躍するのですが、たとえば13〜14世紀の元の時代に作られた『三国志平話』では、完全に神仙(仙人)として描かれています。
なるほど、孔明って道術だけじゃなく医学もできるのか……。それはちょっとネタに使えるかもしれません。
本当ですか(笑)。ではもう少し説明しますと……。

孔明が道術を使うシーンは『三国志演義』だと単純に剣を出して祈る程度ですが、神仙としての孔明はもっと本格的で、「叩歯(こうし)で邪を払い、北斗七星の形をなぞりながら歩く「禹歩(うほ)」によって周囲に結界を作り出します。そして「発爈(はつろ)」のポーズを取ることで神を下ろすことができると考えられているんです。
※『三國志 真戦』ではシーズンに応じて限定武将も登場する。PKシーズン「赤壁の戦い」では若い頃の孔明も登場し、その当時の戦略もスキルとして所持している
わぁ、『パリピ孔明』っぽい! これは使えますね……。たしか発爈のポーズって、『レッドクリフ』でも孔明役の金城武さんがやっていましたよね?
よく観ていますね。金城武さんが孔明の役作りのためいろいろと見て回った際に、北京で京劇の「借東風」という出し物でこのポーズをやったことに由来するそうです。

京劇の講釈師はなぜそのポーズをするのか理由を知らなかったそうですが、私が調べてみたところ、ある奇門遁甲の本に「孔明が使った道術」を説明している項目があって、そこで描かれている挿絵にこのポーズがあるんですよ。
スゴい、そこまで調べ上げているとは……。私もその本を読んでみたいので、後ほどタイトルを教えていただけますでしょうか。
ぜひぜひ。後ほどメールしますね(笑)。

志は胸にあるか。今こそ三国志を学ぶ意義とは?

いろいろな知識を教えてくださりありがとうございます。そろそろお時間となりますが、お二人は今の時代において、あらためて『三国志』を学ぶ意義について、どのように考えていますか?
難しい質問ですね。私も渡邉先生にぜひ教えを乞うて良いでしょうか?
そうですね……。私は日本のみなさんに「志を立てて欲しい」と思います。

曹操は晩年に「老驥櫪に伏すとも志千里に在り(英雄は老いても志高く意気盛んである、の意)」という詩を残していますが、孔明も「大一統」という天下統一をすることで漢の再興を果たす志を掲げていました。結局は実現できず死んでいくわけですが、その志があるからこそ劉備が訪れるまで誰にも仕えなかったわけですよね。

他にも三国志には無数の登場人物が出てきますが、その一人ひとりに「この人はどうしてこういう生き方をしているんだろう?」と想いを巡らせてほしいと思います。そうすることで、きっと「自分はどうなんだろう?」と自分の志を見つめ直すことができるのではないでしょうか。

現代社会は忙しく、それだけに「本当は何をしたいのか?」と自分を見失いがちです。そういう日常からジャンプできる機会として、三国志に触れていただきたいなと願っています。

三国志の識者は日本の在野にたくさんいる

最後に、このたび『三國志 真戦』の企画で行われる『三國志 真戦』×三国志检定 三国志最強頭脳決定戦についても触れたいと思います。本イベントでは今回お話いただいたような専門性の高い問題も出るのでしょうか?
私もチャレンジしたいと思っていましたが、それはちょっと難易度が高すぎるといいますか、私には少々荷が重いですね(苦笑)。
今はまだ監修している最中なので問題内容をお伝えできませんが、マークシートと記述のどちらも予定しています。

ただ、出題される難易度は以前行われた「三国志検定」と同じように何段階かあって、三国志が好きな人なら答えられる内容から、研究者レベルの内容までバリエーションを持たせて構成したいと準備しています。
なるほど、それなら腕試しにチャレンジしてみる価値がありますね……。しかし研究者レベルとなると、渡邉先生のような学術的知識を持った方々が解くような問題ということですよね。解答できる人はそこまでいるのでしょうか?
三国志学会の中にもたくさんいますが、日本には私よりも詳しい有識者がゴロゴロといるんですよ。うち(早稲田大学)で教えている院生2人は、間違いなく私よりも詳しいと思いますよ。
そうなんですか!? 日本にも孔明のように三顧の礼を待っている在野の賢人がまだまだいらっしゃるんですね。日本の三国志シーンは奥が深いです……。私も乗り遅れないよう向学のため参加させていただきます(笑)。
およそ10年前に開催した伝説の検定試験「三国志検定」とのスペシャルコラボで、総額100万円の賞金をゲットするチャンスでもあります!興味のある方はぜひご参加ください。
▼【予選大会】概要&エントリー
予選大会はオンラインで実施します。
・エントリー期間:4月28日(日)21:59まで
・エントリーURL:https://x.gd/BrKxb

・本試験【予選】:2024年4月19日(金)12:00〜4月28日(日)22:59終了までいつでも試験を受けられます。
・試験時間:約1時間(スタートから終了までの時間)

※4月19日(金)12:00〜4月21日(日)22:59の間にスタートした方のみ、決勝戦進出のチャンスがあります。それ以降は、ご自由にご参加いただけますが、決戦戦へ進出できない可能性がございます。
▼【決勝大会】概要
決勝大会は予選を勝ち抜いてきた上位8名により生放送で実施します。
・放送日時:5月18日(土)20:00〜
・出場者:予選大会上位8名

※決勝進出者8名は、東京で行われる三国志最強頭脳NO.1を決める決勝戦の生放送会場にご招待いたします。万が一ご参加いただけない場合、資格及び賞品は次の順位の方に譲渡されます。予めご了承くださいませ。
※スケジュールは変更になる可能性があります。詳細は『三國志 真戦』の公式Xにてご確認ください。
興味津々にさまざまな質問を投げかける四葉先生と、どんな質問も淀みなく答えていく渡邉先生による特別対談は、まるで音楽のセッションを楽しむかのように、終始和やかな雰囲気の中で進められた。

日本における三国志カルチャーを担うキーパーソン2人だけに、三国志への理解を深めるのはもちろんのこと、きっと実りの多い語らいだったに違いない。

また、取材の中で渡邉先生が語った「白馬の戦い」のような、戦力の拮抗したユーザー同士による息詰まるバトルは、全世界8000万ダウンロードを突破した人気スマートフォンゲーム『三國志 真戦』の中でも大いに楽しむことができる。

同ゲームは三国時代を生きる君主となって、盟友と共に洛陽のゴールを目指すシーズン1を皮切りに、三国志の歴史上のエピソードをなぞりながら多彩なシーズンを遊ぶことができる。仲間プレイヤーと共に戦略を練りながら、いかにして攻略していくかが重要なポイントとなっており、ロマンに満ちた三国時代を追体験できることだろう。また、2024年3月に最新PKシーズン「樊城の戦い」がスタートした。
※『三國志 真戦』のPKシーズン「樊城の戦い」では、待望の武将、「樊城水攻・SP関羽」が登場
『三國志 真戦』運営はゲームだけでなく、三国志そのものの価値を伝えることにも重きを置いている。ゲーム内で三国志の歴史を再現し、学ぶ要素を充実させることで楽しみながら三国志の知識を得られるようにしている。例えば、三国志知識を職場で活用する「ビジネス能力診断」などのイベントも開催した。

5月19日にリリース3周年を迎える『三國志 真戦』。3周年を記念して『三國志 真戦』×三国志検定 三国志最強頭脳決定戦のほか、ゲーム内特典や豪華プレゼントがたくさんもらえるキャンペーンも予定されているそうだ。その中、今回のクイズ大会を記念するため、テーマサーバー「冠前絶後」が開設され、テーマサーバーならではの特典をもらえると同時に、クイズイベントテーマーサーバーしか参加できないイベントも用意されるそうだ。ゲームをダウンロードし、サーバーに参加して三国志好きたちと三国志談義を楽しもう。
詳細は公式Xで順次発表される。
渡邉先生は三国志の英傑たちの姿からから志を立てることの意義を説いた。成功の実感が得難い現代において、悲運に見舞われても志に生きた英傑たちの想いが我々に響いてくる。四葉先生は『パリピ孔明』で三国志を明るい物語にしようとしていると述べた。『パリピ孔明』が表現する底抜けの明るさや知恵者が成功していく爽快感もまた、現代の閉塞感に明るい息吹を与えてくれている。このようにさまざまな解釈を許す三国志の懐の深さは、現代でも我々に力を与えてくれる。

四葉先生も出場の意欲をのぞかせていた『三國志 真戦』×三国志検定 三国志最強頭脳決定戦。渡邉先生が問題監修を務める。きっと日本全国に点在する孔明のような在野の人々が集結し、優勝という志を胸に秘めて、熱い戦いを繰り広げてくれることだろう。このクイズ大会を通じ改めて三国志を学ぶことで、現代を生き抜く新しいヒントも見えてくるかもしれない。今回の大会で優秀な成績を収める人物はどのような人物なのか。その点にも興味が絶えない。

研究という形、漫画という形、ゲームという形、クイズという形、現代でも様々な方法で三国志の想いを伝える人たちがいる。参加する方法は多様だ。自分にあった方法を選択し、ぜひ三国志の物語を体験してみてほしい。
四葉夕ト(よつば・ゆうと)
小説・ライトノベル作家・漫画原作者。2016年に第4回ネット小説大賞を受賞してデビュー後、数多くの小説作品を執筆。2019年からは講談社の「コミックDAYS(後に週刊ヤングマガジンへ移籍)」で『パリピ孔明』の原作を担当。同作は2022年にアニメ化、2023年にテレビドラマ化を実現。2024年3月には劇場アニメ、5月からは舞台化も予定している。

渡邉義浩(わたなべ・よしひろ)
1962年1月4日生まれ。東京都出身。古典中国を研究分野に、数多くの学術論文を執筆。特に日本における三国志研究の第一人者として知られ、著作のほかテレビ出演なども多数。2023年、フジテレビ系放送のドラマ『パリピ孔明』では監修にも関わる。現在は早稲田大学常任理事・文学学術院教授および大隈記念早稲田佐賀学園理事長・校長を務める。

『三國志 真戦』

『三國志 真戦』は、Qookka Entertainment Limitedがコーエーテクモゲームスの監修の下で開発したスマートフォン向けゲームアプリです。
三国時代を生きる君主となって、武将の育成や自国の強化を行いながら、領土を拡大していくシミュレーションゲーム。
VIPシステムがなく、知略が物を言う、本当に楽しめる公平な戦場。
シーズンが進むごとに新しい内容が追加され、新仕様や新武将を使った遊び方が可能に!歴史が動いた戦いを追体験できる。

▼ゲームダウンロード
https://sangokushi.onelink.me/VoHu/xj70wux4

▼公式情報サイト
公式サイト:https://sangokushi.qookkagames.jp/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/ShinSen_SGS
公式Discord:https://discord.gg/shinsen

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