世界を魅了する回転寿司〜くら寿司、驚きの戦略



東京・原宿のビルに入居する「くら寿司」原宿店。店内はカラフルなちょうちんなど和のテイストで演出されている。「白木造り」で統一された客席はのれんつきのボックスシートで、半個室スタイルだ。


原宿ということでメニューにはオリジナルのクレープが。タッチパネルで注文すると、自動的に生地を焼きあっという間に完成。「“揚げシャリ”入りサーモンクリームチーズ」などという新感覚メニューもある。


この店は回転寿司文化を世界に発信するために増やしているグローバル旗艦店。佐藤可士和がプロデュースし、国内5店舗のほか台湾にも出店している。海外の客からは「すごい」「おいしい」という感想が。誕生して66年、回転寿司はここまで進化を遂げたのだ。

【動画】回転寿司戦争は絶品グルメ化へ

今や7000億円市場となった回転寿司。熾烈さを増すのは大手3社「スシロー」「はま寿司」「くら寿司」の戦いだ。

中でもトップ「スシロー」が力を入れるのは、最新技術を駆使した徹底的な効率化。提供スピードを早めるため、寿司が自動的に最短ルートを流れるシステムから、注文した席に商品が振り分けられる“引き込みレーン”まで独自開発。厨房の寿司作りのロボット化も、極限まで進めてきた。


一方、大手回転寿司で常識破りの戦略に出ているのが「くら寿司」。鹿児島・姶良市にある「くら寿司」姶良店で客をうならせる白身魚は、脂がたっぷり乗った「おなが」と呼ばれる鹿児島の地魚だ。さらに濃厚な旨味の高級魚の「炙りくろむつ」も鹿児島産。これは地魚をその地元の店だけで提供する「地魚地食」という取り組みだ。

週末、鹿児島港で水揚げされた地魚を「くら寿司」のバイヤーが買い付けていた。今までは量が少なければ諦めていた珍しい魚を次々に買い付けていく。

「産地の人が知っているおいしい魚は量が少なくて、全国チェーンで販売する仕組みしかないと、販売が難しかった。少量の魚でも販売できるのがコンセプトです」(商品本部 天然魚担当・大濱喬王)

地元からも「鹿児島の天然魚を『くら寿司』で食べられるのは嬉しいです」(「鹿児島魚連」営業部長・福浦孝喜さん)と歓迎されている。「地魚地食」はすでに全国で開始。「くら寿司」は画一的だった大手の回転寿司を一変させていた。

地方から東京に大攻勢!〜グルメ回転寿司の裏側



この10年、回転寿司業界では新勢力も急拡大してきた。首都圏を中心に88店舗を展開する「銚子丸」もそのひとつ。客を引きつけるのは寿司そのものの魅力だ。

店内で始まったのは、いけすに泳ぐマダイとの格闘。その場で調理し、鮮度抜群の寿司をお値打ち価格で提供するのがスタイル。こうして圧倒的なネタの力で拡大するのがグルメ回転寿司だ。


国内91店舗と拡大中のチェーン店は埼玉発祥の「がってん寿司」だ。自慢は恒例の「おすすめタイム」で、この日は長崎産のノドグロが登場。白身のトロとも言われるノドグロは高級店では数千円はする。だがこの日は特別に仕入れた“おすすめ品”として2貫400円で提供した。

大盤振る舞いの裏には「がってん寿司」の地道な努力がある。足しげく朝の魚市場に通うのは「がってん寿司」のバイヤーだ。時間はすでに取引のピークを過ぎ、閑散とした状態に。実はこの時間帯こそ彼らの勝負時。しまいかけた業者の前で足を止めた。売れ残っている高級魚を狙っているのだ。交渉の結果、ノドグロをセリ値より2割ほど安く買えた。こんな地道な活動で、絶品のネタを低価格で提供しているのだ。


東京駅前の複合ビル「KITTE丸の内」で行列を作るのは、北海道からやってきた「回転寿司 根室花まる」。その特徴は未体験の味の数々だ。

「こまい子醤油漬け」は「こまい」という魚の卵を、醤油漬けにしたもの。「たらばがに外子」はカニの卵。職人が握り始めたのはカニのお腹の肉を使った珍味「たらばふんどし」だ。

見たことのないネタの多くは根室産の魚だ。根室周辺はオホーツク海へ流れ込む暖流と太平洋からの親潮が混じり合う特殊な海域。「根室花まる」では、そこで取れた魚をふんだんに使い、他の回転寿司にはない魅力を作り出しているのだ。


2013年に東京に初出店。現在では立ち食い業態などと合わせ全国20店舗で根室の魚のおいしさを伝えている。

横浜市青葉区にも週末には1日およそ700人が訪れるという人気のグルメ回転寿司が。石川・金沢市で創業、全国22店舗の「金沢まいもん寿司」だ。価格は一番安い皿で165円。高いものは1540円になる(取材時)。それでも客は「ちょっと奮発しても、おいしい魚が食べたい」と言う。

客を魅了する秘密は北陸から仕入れる驚きの味わいだ。例えばカニ漁の解禁と共に買い付けたのは1000杯の香箱ガニ。中から丁寧に身を取り出し、味噌から卵まで丸ごと全てを味わえる寿司を作り出していた。


人々の心をつかむため努力が回転寿司のとんでもない進化を生み出していた。

徹底調査で外食の格闘を見つめ続ける外食レジェンド「すかいらーく」創業者で「高倉町珈琲」会長・横川竟(86)はスタジオで、回転寿司業界の現状をこう語る。

「『元禄寿司』が回転寿司を始めて、特許が切れてから一気に広がりました。なぜお客さんにウケたか。「明朗会計」だからです。いくつ食べたか計算でき、懐に合わせて食べることができる。その便利さから、もう少し違う価値に移り始めたということです」

鳥貴族は大幅値上げの成功?〜外食の命運を握る原料高



横川が76歳で開業、現在39店舗を展開する「高倉町珈琲」。毎週開かれる商品開発会議では、イベリコ豚のグリルプレートに、客目線にこだわる横川の厳しい指摘が飛ぶ。おいしいものをお値打ち価格で出したい。しかし今、外食を襲うのは厳しい原材料の高騰だ。

「平均20%ぐらい上がっています。原料が上がった物をいつ売価に転嫁するか。時期も早くやると評判を悪くする」(横川)

2023年1月、「マクドナルド」は8割の商品の値上げに踏み切った。長年、100円を守り続けてきたコーヒーも120円になった。

「付加価値をつけることでお客様にこの価格でも納得いただけるのではないかと」(「日本マクドナルド」ナショナルマーケティング部・亀井理華部長)

一方、安さが生命線の「サイゼリヤ」は「非常に厳しい。ただ値段は上げない」(松谷秀治社長)と言う。値上げで客離れが起きないか、ギリギリの攻防が続いている。

「この30年間、値下げをして生きてきた。“値上げ技術”を持っていない。それが今の外食経営者の最大の問題です」(横川)

良い店があると聞けば飛んでいき、膨大な数の外食企業を調査し続けてきた横川。訪れたのは、マークし続けてきたという居酒屋チェーン「鳥貴族」渋谷宇田川町店だ。

全国に630店を構える焼き鳥がメインの居酒屋チェーン「鳥貴族」。大きいサイズが自慢の「もも貴族焼」は柔らかい国産鶏に特製の甘ダレがからむ名物だ。横川は「ネギが柔らかい」となぜかネギの品質を絶賛し始めた。

「1年中柔らかいネギが提供できるかが決め手になると思います。『うまい』は肉だけではダメ。コロナ前に比べて100%を超えている店は日本の外食で10社ぐらいしかない。その中の一つが『鳥貴族』。商品力があるんです」(横川)

実際、「鳥貴族」はコロナが明けた今、競合他社が羨むほどの好調ぶりだ。何よりも業界を驚かせているのが全品均一料金の360円。かつては税抜きで280円均一が売りだった。その激安価格から大幅に値上げしたにもかかわらず、客離れが全く起きていないのだ。


「品質を落とすよりは値段を上げることでお客に理解を求めたら、お客さんは『それでいいよ』と言った。だから売れている。お客さんとの価値からくる信頼関係がある」(横川)

開店前の店をのぞくと、手作業でその日使う鳥の串打ちが行われていた。


多くの居酒屋チェーンが外注に頼る中、この串打ちに毎日5時間を費やすという。丁寧な手焼きにもこだわる。冷凍の輸入肉ではない新鮮な国産鶏肉のおいしさを、最高の焼き加減で届けるためだ。

独自のこだわりを貫き「鳥貴族」を作り上げた「鳥貴族ホールディングス」社長・大倉忠司は、思い切った値上げに踏み切った裏にはこんな思いもあったという。

「海外出店のためアジアやアメリカを頻繁に視察する中、日本は売価も賃金も安いなと。諸外国と価格や賃金を合わせていかなければ日本の将来は暗い。“顧客第一”は他のステークホルダー、特に社員やスタッフに皺寄せがいっていた。価格改定を認めていただけるブランドにしていくことが大事だと思っています」(大倉)

ユニーク珈琲店も登場〜外食若手トップたちの格闘



ユニークな新サービスで人気を呼んでいるのが22店舗を展開する「猿田彦珈琲」。こだわりの珈琲で客をつかんできたが、東京・世田谷区の下北沢店では夜7時になるとムーディーな照明が点灯。カウンターにはウイスキーやウォッカが並び、看板には「猿田彦バー」の文字が掲げられた。夜はバーに一変するのだ。上質なコーヒーで作った特製カクテル「コーヒーマルガリータ」(900円)も楽しめる。


客足が落ち込む夜の時間帯に仕掛けた「珈琲バー」。そんなユニークな発想で「猿田彦珈琲」を率いるのが、代表・大塚朝之(42)だ。「頭の中は99%コーヒーの素材と焙煎のことばかり考えています」と言う。最近は世界中のコーヒー農園を訪ねて行う極上のコーヒー豆の買い付けに力を入れている。

「スタバばかりになっていくのは面白くないと思っているので、僕らが存在価値を示したい」(大塚)

大塚が去年整備したのが、本格的なマシンでコーヒーを淹れる練習ができるトレーニングルームだ。


「猿田彦珈琲」のバリスタは去年、「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ2023」でトップ3を独占。成果が出始めている。

「会社としてはヒーヒー言っている10数年で、それが生きがい、やりがい、楽しさなので、ずっと続けていけば何かができると思っています」(大塚)

「物語コーポレーション」社長の加藤央之(37)はさらに若い。率いるのは全国に318店舗を展開する「焼肉きんぐ」。業界では後発だったが、テーブルからタッチパネルで注文する食べ放題の新たな業態で急拡大。焼肉チェーンの売上高トップに躍り出た。

2020年、創業者から社長を託された加藤は店舗を回り、徹底した改善活動を続けていた。道路の案内看板の会議でも「この角度でいいのか」などと、驚くほど細かい議論が行われていた。

店舗からメニュー、接客まで、会社一丸となって客をつかむ策を考え続けていた。

「どんどん外食の世界も成熟して、お客様の期待値が高まっている。各社も頑張っているので、どうやって選んでいただける店にするかを、全方位でやっていくことに尽きるんじゃないですか」(加藤)

若い世代の外食経営者たちが熾烈さを増す時代に、全力で挑んでいた。

※価格は放送時の金額です。

〜村上龍の編集後記〜
昔の話だ。横川竟、15歳、金はないが時間があった。実家で「おれは何をやるべきか」。必ず消費してなくなるものがいい。それは食べもの。桜を7本植える。1本が今も残り「竟桜」と呼んでいる。築地の乾物問屋「伊勢龍」へ。門前払いでも引き下がらず。「商売は嘘をつくな。いいものを売れ。余分に儲けるな」。その後のビジネス人生の原点となる。「すかいらーく」1978年、株価がSONYを超えた。2013年、八王子高倉町に「高倉町珈琲」をオープン。外食のすべてを見てきた。トレンドは作るが、追わない。

<出演者略歴>
横川竟(よこかわ・きわむ)1937年、長野県生まれ。1970年、すかいらーく国立店開業。2006年、すかいらーくCEO就任。2008年、すかいらーくCEO解任。2014年、高倉町珈琲創業。

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