[アジアカップ グループステージ第2節]日本 1−2 イラク/1月19日/エデュケーションシティ・スタジアム
右肩上がり継続中の日本にとって、チャレンジャーとして真っ向勝負を挑める欧州や南米勢との対戦は心地良い。だがワールドカップでのコスタリカ戦同様に、チャレンジされる側に立場が回ると途端に心許なくなる。
1−2で敗れたイラク戦で、わずかな緩みが気になったのは冒頭のシーンだ。
日本の右サイドで先にボールへのコースに入った菅原由勢が、背中でアリ・ジャシムをブロックする。ところが、ぎりぎりまで粘ったアリ・ジャシムが回り込んでボールを残し、アイメン・フセインに繋いだ。ボールがタッチラインを割るコンマ数秒前に力を抜いた菅原のセルフジャッジは、ドイツやスペインが相手なら起こり得ただろうか。
逆にイラクにとって、アジアカップは現実的なワールドカップであり、日本へのチャレンジは決勝戦を意味したかもしれない。自陣での日本の圧力を避け、最前線のフセインへのロングボールを徹底し、アタッキングサードではアリ・ジャシムやユーセフ・アミンらが野心的に仕掛けた。
前半で2失点し、ゲームプランが最悪の形で崩れた森保一監督には、早急な3枚替えが必要だった。
浦和でポジションを勝ち取れなかった鈴木彩艶は、ようやくシント=トロイデンで公式戦のキャリアを積み重ねているが、当然、先行投資の意味合いが強い。もちろん日本がワールドカップで優勝するには、鈴木クラスの資質を持った選手の大化けが必要なので積極起用は支持するが、こうして序盤に精神的な傷を負った場合には歯止めをかけられる存在が不可欠だ。
だが森保監督は、あまりにGKの選考にギャンブルが過ぎたために代えられなかった。右SBの菅原も同じだ。持ち味の攻撃面での貢献は否定しようもない。しかし、失地を回復しようと繰り返し長駆フルスプリントを繰り返す反面、守備面では致命的な穴を開けてしまうが、そこで毎熊晟矢への交代には踏み切れていない。
さらには、前半70パーセントもボールを支配したゲームに浅野拓磨はミスマッチだった。カタール・ワールドカップでは、ドイツ戦でのゴールばかりがクローズアップされ、コスタリカ戦での空回りが忘れられている。
要するに一見層が厚そうな日本代表も、とりわけGKも含めた守備のポジションに、悪い流れを断ち切るためのカードを持っていないことになる。これでは指揮官が公言する「全員で戦う」チーム作りが順調に進んでいるとは言えない。
結局、森保監督が後半頭から切ったカードは谷口彰悟から冨安健洋への1枚のみ。しばらく2列目の配置換えで様子を見てからカードを切っていくのだが、修正の遅れが逆転の機会逸失に繋がったことは否めない。
【PHOTO】日本代表のイラク戦出場16選手&監督の採点・寸評。全員が及第点以下の厳しい評価。最低点は守備者の2人
後半もイラクは、54分にスルーパスで巧妙に菅原の内側を抜け出したユーセフ・アミンが倒され、68分にはモハナド・アリが圧倒的なキープ力からゴールを脅かす決定機があったので、どちらかが3点目になっていれば完全に試合は決着していた。
日本は前半で15本、後半は20本のクロスを送り、計13本のCKは5人のキッカーが蹴り分けたが、ようやく得点に繋がったのはアディショナルタイムに入ってからだった。
クロス多用でもターゲットが浅野では難しく、逆サイドまで振っても崩せない。セットプレーでの無策も含めて手詰まりは明白だった。
31年前の「ドーハの悲劇」は、日本目線では土壇場でワールドカップを逃した出来事として記憶されているが、むしろ本当に悲劇を体験したのは、参加国中最強の評価が高かったイラクが、米国大会を目ざしたための逆風ジャッジの連鎖で敗退したことだったかもしれない。
改めて今回もイラクの個々の選手たちは、資質面でも技術面でも日本に劣っていなかったし、この勝利を番狂わせと呼ぶことはできない。もしイラクが環境面で恵まれていたら、アジアでは突出したサッカー強国になる潜在力は秘めている。
ラウンド16で韓国戦が濃厚な日本は、勝ち上がれば茨の道となる。それは強化の場としては最適だが、シーズン中の選手たちのコンディションを考えれば最悪の事態である。
取材・文●加部究(スポーツライター)
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