政権が相手でも忖度や遠慮は一切なし。「日刊ゲンダイ」の第一編集局長が、日本経済を世界の三流にした元凶・アベノミクスや、戦争を近づけた「安保法制」と「解釈改憲」、さらには噓だらけの「モリ・カケ・桜」などに切り込んだ『安倍晋三vs日刊ゲンダイ 「強権政治」との10年戦争』より一部を抜粋、編集してお届けする。
指名されないゲンダイ記者
政治の節目に行われる首相の記者会見は、首相官邸の記者クラブ(内閣記者会)に所属していないメディアや登録済みのフリーランス記者も参加できる。ただ、コロナ禍以降、記者クラブ以外の記者は、抽選により毎回10人ほどに限定されている。
日刊ゲンダイは「日本雑誌協会(雑協)」に加盟しており、雑協を通じてほぼ毎回、参加を申し込んでいるが、抽選に当たるのは2回に1回。抽選に当たって出席しても、一度も質問できたことはない。どんなに挙手を続けても、司会を務める内閣広報官が指名してくれないのだ。
記者会見は「予定調和」だ。まず幹事社が質問し、記者クラブの全国紙や東京キー局の記者が複数人指名された後、海外メディア、地方紙、インターネットメディア、フリーランスと続き、最後に再び全国紙で終了する。幅広く質問を受けているように見えて、実際はパターン化されている。雑協の記者が質問できることはほとんどなく、ましてやゲンダイ記者は絶対に指名されない。どんな質問が飛ぶかわからないから怖いのだろうか。
正直、首相の記者会見はテレビやネットで視聴できるので、質問できないのにわざわざ出席するのは時間の無駄だが、参加しなければ権力側の思うツボだ。「常に見ているゾ」という意思表示のためにも、参加申し込みを続けている。
ある日、30代のゲンダイ記者が首相会見終了後に内閣広報官に話しかけようとしたら、広報官は無視して去っていったという。そこまで嫌わないでも……、と苦笑するしかない。
自民党議員・職員の懐の深さ
政権に厳しいスタンスを取るゲンダイ記者は自民党議員に煙たがられそうだと思うかもしれないが、実はそうでもない。自民党議員は案外、懐が深い。長く政権与党であるため、幅広い有権者を代表している意識が強いベテランになればなるほど分け隔てがない。かつての自民党には、権力は批判されて当然、との認識もあった。
それは自民党職員も同様で、政局や選挙取材などでいつも私に貴重な視点を与えてくれたのは、党本部や東京都連の職員だった。そこは組織を超えた人間同士の付き合い。いろいろと勉強させてもらった。
だが一方で、2012年末からの第2次安倍政権時代に自民党は劣化が進んだのではないか、という思いも持っている。庶民生活を顧みず、野党を軽視し、唯我独尊になっているのではないか。
政権発足から半年後の2013年8月19日発行のゲンダイ1面で、政治ジャーナリストの泉宏氏がこうコメントをしていた。
「佐藤内閣から40年政治を見てきましたが、いまは内閣も自民党内も『物言えば唇寒し』みたいになっている。つまり、誰もトップに逆らわない。こんな異様な状態は初めてです。かつては閣内にいても、首相に対し言うべきことはしっかり言う大臣がいた。『私は賛成できない』と辞任した閣僚もいました。それなのに、いまは情けないの一語です」
「自民党の3分の2は安倍さんのやり方に本音では反対ですよ。しかし、高支持率に加えて、野党がだらしないから、安倍政権は今後、最長5年8カ月の長期で続く可能性がある。だからみな、安倍さんに睨まれたら冷や飯を食わされる、と黙ってしまう。それでどの派閥も長いものに巻かれろになっているのです」
実際に、その通りになった。最長5年8カ月どころか、2期6年だった自民党総裁の任期を3期9年まで延ばし、7年8カ月の憲政史上最長の政権を築いた。政高党低と一強政治で、安倍首相は〝絶対的存在〟になり、その結果、自民党内の活力が大きく失われた。
文/小塚かおる
安倍晋三 VS. 日刊ゲンダイ 「強権政治」との10年戦争 (朝日新書)
小塚 かおる (著)
2023/10/13
\979
288ページ
ISBN:978-4022952318
安倍首相――「帰りに『日刊ゲンダイ』でも読んでみてくださいよ。これが委縮している姿ですか」(国会答弁から)
「日刊ゲンダイ」の辞書に
忖度と遠慮という言葉はない。
安倍政権の「やりたい放題」は許さない!
「ゲンダイ」の第一編集局長が
「強敵」との戦いのすべてを公開。
厳正な「歴史法廷」で首相の大罪を追及・総括する!
日本経済を世界の三流にした元凶、アベノミクス。
戦争を近寄せた「安保法制」「解釈改憲」。
噓だらけの「モリ・カケ・桜」――。
5つの大罪と、大マスコミの責任を問う!
〈目次から〉
第1章 失敗したアベノミクス――世界から取り残された日本
第2章 戦争を「身近なもの」にした大罪--こうして日本は軍事大国へ
第3章 破壊された民主主義の根幹--権力私物化の果てに
第4章 社会「分断」の暴挙--高齢者を切り捨て、女性を軽んじる
第5章 失われた自民党の矜持--終わりの始まり
第6章 メディアを壊したのは誰か――これでいいのか大マスコミ
外部リンク集英社オンライン