子どもに聞かれて返答に窮することも多い“勉強の正体”について解説します(写真:Komaer/PIXTA)

新型コロナウイルスがなくなったわけではないが、今年の夏休みはマスクなしで外を元気に遊びまわる子どもを見る機会が増えた。コロナ禍突入以降の抑制された夏休みを考えれば、“勉強そっちのけ”の子どもが多くなるのは必然だろう。

しかし現実は、小中学生の子を持つ親の立場なら、勉強もちゃんとしてほしいと不安に思うのは当然のこと。「自ら進んで勉強する」子どもの姿を見たくない親はいないはずだ。

この記事では、新刊『勉強の面白さってなんだろう』を監修した、花まる学習会代表・高濱正伸氏に、学校や塾で勉強に向き合う子ども(小学校高学年〜中学生)を持つ親世代に向け、「勉強とはいったい何なのか?」「本当に役に立つのか?」といった、子どもに聞かれて返答に窮することも多い“勉強の正体”についてわかりやすく解説してもらった。

親として「勉強する理由」を子どもに伝えられるか?

「なんで勉強しなきゃいけないの?」「勉強って、なんの役に立つの?」――子どもは誰しも一度はそんな疑問を抱くもの。子を持つ親なら何かしらの形でそのような主旨の問いを子どもから受けたことがあるのではないでしょうか。

ただ、これはとても難しい問いであって、100%正しい答えは存在しません。でも確実にいえるのは、「勉強は自分の人生を豊かにするもの」だということです。

子どもにも親にも、「勉強は点を取るためのもの」と思っている人は多い、それは事実でしょう。偏差値が高い学校への道はいい点を取ることで開けていくものですし、学歴が高いほど何かと有利になりやすいのも確かです。

でも、「勉強をする理由」が、単にテストでいい点を取るためとか、受験に合格していい学校に入るためだけかというと、いずれも正解ではありません。


(図版:山中正大・梔図案室)

「勉強」は、自分の知識や世界を広げてくれる手段でもあります。新しく手に入れた知識を駆使し、それによって、できることや選択肢を増やしていく。それは必ず、自分の人生に彩を与えてくれます。

子どもがこれから学んでいくことは、どんな学びであっても無駄なことは一つもありません。たとえその知識が直接的に役に立たなかったとしても、理解しようとした姿勢や自ら考えて行動した経験は、必ず何かの形で生かされるはずです。

今後、わが子に「やりたいこと」ができたとき、勉強こそがその道に進むための足掛かりになるかもしれません。何か新しいことにチャレンジするときに、それまで積み重ねてきた学びが支えとなるでしょう。ピンチに陥った際も、たくさん知識があればそれを元にして苦境を切り抜けられるかもしれません。

つまり、意味のない勉強なんて一つもないのです。すぐに使える知識ではなくても、勉強に向き合って得たことや実体験は、いずれ何らかの形で実を結ぶはずです。

重要なのは「いい学校」に行くことではない

「勉強するのはいい学校に入るためだけではない」と前述しましたが、もちろん、努力して志望校に合格するのは素晴らしいことです。ただ、「受験に合格するのが勉強のゴールではない」ということは、社会に出た大人として、十分ご存じのはずです。

たしかに、偏差値の高い学校に行けばレベルの高い授業が受けられるかもしれません。優秀な生徒が多いので、知的な刺激もたくさんあるでしょう。

でも、世間が考える「いい学校」がわが子にとっての「いい学校」とは限りません。重要なのは「どこで学ぶか」ではなく、「何を学んで、その学びをどう将来に生かすか」なのです。

今の日本の社会では、学歴が高ければ就職時の選択肢は広がりますし、大学を出なければつけない職業もあります。たくさん勉強すれば子どもの未来の選択肢が広がるというのは確かで、次の図が示すように「学歴が高い人ほど賃金の高い職業につきやすい」のは事実でしょう。


学歴別賃金(出典:厚生労働省「令和4年 賃金構造基本統計調査」)

でも、世の中には高卒や専門学校卒、短大卒、大卒、大学院卒などさまざまな学歴の人がいて、学歴とは関係なく、自分のやりたい仕事を日々こなして幸せな生活を送っている人もいます。子どもには、「学歴は大事だけれど、学歴だけがすべてではない」ということを、日頃からそれとなく伝えていかなければなりません。

人間は、生きている限り学び続ける生き物です。生まれるとすぐに家庭を中心に学習を始め、やがて学校に通って学びを進めていきます。

学校を卒業して社会に出ても、学びは終わりません。今度は仕事に関わる学習や、豊かな人生を送るための学びを続けることになります。

もし、テストや受験が勉強のゴールだとしたら、それが終われば勉強も終わってしまいます。でも、学びは国語や算数などの教科だけに限られるわけではありません。子ども自身が興味を持っていることをとことん追求する中で気づいたことや、そこから得た知見から発展して、より深まっていくものです。

「学び」は、私たち一人ひとりの生き方そのものに深く関わっています。子どもが学校で学べることは限られています。だからこそ、子ども自身が生涯にわたって学び続けられる力を身につけておくことが大切なのです。


(図版:山中正大・梔図案室)

いくつになっても好奇心を持ち続ける

「学び」を続けるモチベーションを維持する秘訣は、「いくつになっても好奇心を失わないこと」でしょう。学校の勉強や日々の生活などいろいろなところに好奇心のアンテナを張って、「もっと知りたい」「もっと学びたい」という気持ちを持ち続けることです。

わが子だけではなく、親であるあなた自身も、「勉強したい」と思えばいくらでもできます。子どもも親も、好奇心を持って身のまわりの物事を見つめ、学ぶことの楽しさをぜひ見つけていってください。


以上、この記事では、小中学生の子どもを持つ保護者の皆さんに向け、学校や塾で日々勉強に向き合う子どもに対し、「勉強とは何なのか」を伝えるためのヒントをざっと解説しました。

大人である私たちからすれば当然のことなのかもしれませんが、子どもは親の顔色を見ながら「勉強する意義」を見誤り、勉強というものの本来の楽しさを見失っていることも少なくありません。だからこそ、親である私たちは「勉強」というものの意義をしっかり子どもに伝えていかなければならないのです。

無限の可能性を秘めるわが子のためにも、保護者として、そして大人として、「勉強」というものの本質をあらためて考えてみるべきではないでしょうか。今年の夏は久しぶりに外での活動が多くなりました。それは大いに素晴らしいことですが、勉強は机上で行うことばかりではなく、人生がある限りさまざまな場面で続いていきます。「勉強=受験」だけではないということを、今こそわが子に伝えておきたいものです。

(高濱 正伸 : 花まる学習会代表)