こんなジェイムス・ブレイク(James Blake)が聴きたかった――初期からのファンはそのような興奮を隠しきれなくなるに違いない。ブレイクによる2年ぶりのニューアルバム『Playing Robots Into Heaven』(9月8日リリース)は、久々に彼のエクストリームなトラックメイカーとしての才能が余すところなく発揮された作品だ。
アルバム前半のDJユースの楽曲群から立ち昇るのは、汗と熱気にまみれたダンスフロアの匂い。アルバム単位でここまで強いクラブカルチャーとのコネクションを感じさせるのは、それこそデビュー作以来ではないだろうか。だがもちろん、これはただの原点回帰とは違う。「Loading」などに搭載された、簡潔だがフックのあるボーカルメロディは、過去5作でソングライティングの実力を磨いてきた成果も感じさせる。『Playing Robots Into Heaven』は今のブレイクだからこそ作ることができた、ひとつの到達点だ。
2023年8月16日(金)の大阪単独公演、そして8月18日(金)に幕張メッセにて開催されるソニックマニアでは、キャリア屈指の傑作を作り上げたばかりのブレイクによる脂の乗り切ったパフォーマンスを是が非でも体験してほしい。
―つい先ほどアルバムの音源が届きました。まだ2回通して聴いたばかりなので第一印象に近いですが、あなたのキャリアを通して1、2を争う傑作だと感じました。
ジェイムス:ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
―何よりもまず鮮烈だったのは、『Playing Robots Into Heaven』ではあなたのエクストリームなトラックメイカーとしての側面が前面に押し出されていることです。あなたとしてはどのようなアルバムにしたいというビジョンがありましたか?
ジェイムス:完全に自由な作品を作りたかった。それは曲の構成にも言えることで。自分のDJセットでかける曲からの影響が大きかったね。で、今回は、初期の頃の作品以降あまり見せてこなかった自分のプロデュース面を見せたいと思っていて。ボーカル作品では、そういうぶっ飛んだ音作りを意図的に抑えてきた部分があって、それが恋しいと思ったのかもしれない。
―前作の『Friends That Break My Heart』(2021年)はあなたのシンガーソングライターとしての側面が最も強く打ち出された作品でした。ソングライティングを突き詰めたアルバムを一度作り上げたことは、今回のアルバムの方向性に影響を与えましたか?
ジェイムス:やり尽くしたと思ったし、同じことを繰り返す必要はないと思ったんだ。だから今回は、どんなアイディアでも自由に試してみることができた。決まった歌の構成やテーマにはめ込まなきゃいけないっていう縛りは一切なくて。だから今作は、作る過程の中で少しずつ形ができていったね。実際、アルバムの大半の曲が、モジュラーシンセがきっかけで生まれたんだ。ジャムセッションに近い制作過程だった。
―あなたにはトラックメイカー、シンガーソングライター、DJ、ポップ/ラップミュージックのプロデューサーといった様々な顔があります。新作は、そういったあなたの多面性がもっとも総合的に表現されたアルバムだとも感じました。
ジェイムス:そういう部分はあったと思う。そういう様々な側面を探求できたのはよかったね。さっきも言ったように、縛りが一切なかったから、これまで培ったいろんなテクニックを使うことができたんだ。『Friends That Break My Heart』では、歌を書く上でのスキルを作りながら学んでいたという感覚だった。でも今作では、やるべきことを達成するためのスキルは全て身についていて、わかっていた。だから正直、気持ちも楽だったんだ。「こんなに簡単にアルバムができちゃっていいの?」って思ったくらい。「これをプロの仕事って呼んでいいの?」ってね。
―では、前作よりも楽しんで作れました?
ジェイムス:そうだね。ほんの少しだけ今回のほうが楽しめたかな。違うタイプの表現だからね。『Friends That Break My Heart』の中の幾つかの曲で見せている感情表現を、今作で見せることはできない。違うタイプの音楽だから。今回のほうがゲームみたいだった。
―先ほど自分のDJセットの曲から影響を受けたという話がありましたが、アルバム前半には、フロア志向のダンストラックが並んでいます。どれも強烈なフロアバンガーですし、「Tell Me」なんかはほとんどハードテクノです。少なくともアルバム単位でこういったサウンドを明確に打ち出したことはなかったと思いますが、なぜいまフロア志向のサウンドを目指したのですか?
ジェイムス:これまでの作品でテクノっぽいサウンドに一番近い曲は2ndアルバム(2013年作『Overgrown』)の「Voyeur」だったんじゃないかな。あと「I Hope My Life」も(2016年作『The Color in Anything』収録)。でも、あれはどっちかというとハウスだけど。これまでも何度か目指したことはあるけど、今回はダンスフロア志向のサウンドにより強くコミットしている。いいタイミングだと思ったんだ。僕がやろうと思えばできるとみんな思っていたと思うし、それを聴きたいと思っている人がいるのもわかっていた。それを見せる時が来たっていうことだね。
―フロア志向のサウンドを打ち出すにはいいタイミングだったというのは、あなたのキャリアの変遷から考えてもそうですが、パンデミックを経てクラブやライブが復活したこともある程度は関係していますか?
ジェイムス:もちろん。その可能性を広げられるとも思った。EP『Before』(2020年)の時にも感じたんだけど、あのEPを作ったときに、こういうサウンドを求めている人たちが大勢いることを思い出させられたんだよ。求めている人たちがいるんだから、だったらこれをさらに突き詰めようって思ったんだ。
―1stアルバム『James Blake』(2011年)のサウンドは、ポストダブステップが全盛だった当時のロンドンのクラブシーンに根差していました。その比較で言うと、ニューアルバムのダンストラックのサウンドは何に根差していると言えますか?
ジェイムス:特定のシーンに根ざしてはいないんじゃないかな。そこが面白いところでもあるんだけど。特定のシーンじゃなくて、僕のエレクトロニックミュージックへの愛情と、僕が好きな様々なエレクトロニックミュージックに根ざしているんだと思う。
―では、1stがブリアルとジョニ・ミッチェルの間にある何かだとすれば、ニューアルバムは何と何の間だと言えますか?
ジェイムス:そうだなぁ……すぐに思いつかないな。例えば……うわっ、何も思い浮かばないよ(笑)。今、思いつく名前を出すと、エイフェックス・ツインだったり、あとは……ポーティスヘッドとかかな……。でも、他の影響もあるからなぁ……。UKエレクトロニックミュージックの要素は絶対にあると思う。
神聖なフィーリング、クラブカルチャーへの情熱
―アルバム後半は徐々に落ち着いたトーンに変わっていきます。特に印象的だったのは、シンプルなピアノのループをバックに歌われる「If You Can Hear Me」でした。まだ歌詞を受け取っていないのでちゃんと聴き取れていないのですが、この曲は父親に語り掛けるような内容ですよね?
ジェイムス:そうだよ。
―このタイミングで父親のことを歌おうと思った理由を教えてください。
ジェイムス:実は面白い背景があって、この曲を書くきっかけになったのが、映画『アド・アストラ』(2019年)用に曲を書いてくれと言われたことだったんだ。映画を見せてもらって、それ向けに曲を幾つか書いたんだけど、結果的に映画にはクラシック寄りの音楽が使われることになって。で、僕としてはそのときに作った曲を他の作品に流用することにして、これもそのひとつというわけ。
―ああ、なるほど。『アド・アストラ』は父と息子の物語ですもんね。
ジェイムス:元々映画用に書いたのはドミニク・メイカー(マウント・キンビー)と一緒に作ったピアノのループで、歌はずっと後になってから書いたものではあるんだけど。映画の中で、宇宙の遥か遠くで孤立している主人公が初めて父親とコミュニケーションをとるシーン用だったんだ。主人公は二度と再会できない父親に何年かぶりに通信できてメッセージを送る。なんて美しいシーンだろうと思った。個人的に父親と息子は特別なつながりがあると思っていて、そういう関係性を描いたシーンはいつだって感動的だと感じる。だからこの曲の歌も、それに感化されて、自分の父親との経験と重ねて書いたんだ。
―歌詞の面では、『Assume Form』(2019年)は感動的なラブレターのようなアルバムであり、『Friends That Break Your Heart』はロマンティックなリレーションシップ以外の人間関係について歌ったアルバムでした。今回のアルバムは全体として何について歌った作品だと言えますか?
ジェイムス:今作は、歌詞の内容よりも音の制作過程こそが曲と曲を繋ぐものではあるんだけど、僕が歌っている歌に関して言えば、それをつなげるものは、第一人称で歌っているのはラブソングだったり、愛する人を支えたいという思いだったりで、僕のこの数年間の実体験をもとにしている。ただ、アルバム全体に一貫した歌詞のテーマがあるわけじゃないんだ。
―では、新作がダンスフロア向けのサウンドになったことは歌詞の内容にも影響を与えましたか?
ジェイムス:そうだね。ダンスミュージックを作る際は、歌詞の内容も変わってくる。ダンスフロア向けには、違う歌詞の感覚が求められる。大きなサウンドシステムから流れる爆音でも、共感できるテーマじゃなきゃいけない。変に入り組んだ内容だと伝わらない。もちろん、深読みすれば隠されたメッセージが実はあるものもあるだろう。でも実際の歌詞は、シンプルで、効果的に、すぐにわかるものじゃなきゃいけない。ダンスフロア向けの曲の歌詞を書く時は、そういうことも念頭に入れておかないといけないんだ。
―アルバム最後の「Playing Robots Into Heaven」は、どこか物悲しく、教会音楽のような神聖さも感じさせるインストです。この曲名をアルバムタイトルに冠した理由を教えてください。
ジェイムス:この曲「Playing Robots Into Heaven」は、今作向けに書いた曲で、最初に満足できた曲だったんだ。モジュラーシンセを使って最初に試みた実験から生まれたもので。実は自分のインスタにこの曲ができたときの動画を投稿しているんだ。2、3年前の話だけど、そのときに書いた写真のキャプションが「天国にロボットを送る演奏をするオルガン奏者(原文:The organist who plays robots into heaven.)」だった。この曲のサウンドを聴いて、そう感じたから。それから2年経って、アルバムをまとめる段階になったとき、いろんな曲が出来上がっていたけど、「これこそがアルバム名だ」と確信したんだよね。アルバムの制作過程が、様々な機械を使って、スピリチュアルなフィーリングを生み出すことだったから、ピンと来たんだ。
―最近はLAやロンドンでCMYKというクラブイベントを主催していますよね。いま新たにクラブイベントを始めようと思った理由を教えてください。
ジェイムス:昔、1-800 Dinosaurというクラブナイトをやってたことがあって、それ以来、またクラブイベントをやりたいとずっと思っていたんだ。クラブイベントを主催することで、コミュニティができる感覚になる。同じ顔ぶれが集まり、いろんな人と出会い、オーディエンスが自然とできる。何年もやっていなかったから、またやりたいと思って。それと、今回のアルバムとも関係していて、アルバムの曲を試しに聴かせる定期的な場がほしいなと思ったんだ。言うならば、CMYKのお客さんが今作のA&R的存在だね。
@jamesblake
―クラブミュージックのシーンで、いまあなたが注目している動き、もしくはアーティストはいますか?
ジェイムス:ブラジルのクラブミュージックが今一番面白い。イキイキしていて、楽しい、という点でね。当然、これまでの一世を風靡してきたダンスミュージックのジャンルはどれもドラッグと密接なつながりがあったわけで。それは世の常だから。ハウスもそうだったし、テクノやドラムンベースやジャングルにしたってそう。文脈から生まれるものだと思っている。最高のダンスミュージックというのは、文脈があって、一つのコミュニティから生まれる。それに世界が注目して、みんながその素晴らしい音楽を人づてに知るようになるわけで。
ソニックマニアの展望、AIやTikTokにまつわる懸念
―来日が目前に迫っています。ソニックマニアや大阪単独公演でのライブはどのような内容を期待していいですか?
ジェイムス:全てが混ざったものになるだろうね。まだ新作からの曲はやらないけど、「Hummingbird」といった最近のものから、昔のものまで全部を網羅した内容になる。特に最初の2作からの曲はたくさんやるよ。特に2作目。それに、新作のヒントになるような演出もある。アルバムに影響を与えたダンスミュージックを披露するつもりなんだ。まあ、ベストなセットリストを期待していてほしいね。
―あなたは2020年に『Covers』というカバーEPをリリースしていますし、最近のライブでもカバー曲をよく披露しています。あなたにとってカバーをやることはどんな意味がありますか?
ジェイムス:まず、何も自分で書く必要がないのは助かる(笑)。曲作りに何年もかけずに済んだ曲が歌えるのは楽でいい。あと、自分が大好きな曲を歌える喜びがある。その作品の物語の一部に自分もなれる、っていう。一生愛し続けてきた曲をステージで歌うことができるのが何よりも嬉しいね。
『Covers』にはフランク・オーシャン、ビリー・アイリッシュ、スティーヴィー・ワンダー、ジョイ・ディヴィジョンなどのカバーを収録
―ソニックマニアには、フライング・ロータス、サンダーキャット、オウテカ、ムラ・マサ、シャイガール、グライムス、ア・トライブ・コールド・クエストのアリなども出演します。タイミングが合えば観てみたいアーティストはいますか?
ジェイムス:正直、今挙げてもらったアーティストはほとんど観てみたい。サンダーキャット、グライムス。凄くいいライナップだよね。素晴らしいアーティストと同じステージに立つことができて光栄だよ。みんな知性を感じるミュージシャンばかりだし。素晴らしい発想を持った人たちだと思う。
―昨今の音楽を取り巻く状況についても幾つか訊かせてください。昨年あなたは、AIによってデザインされた安眠アプリ「Endel」とのコラボで、サウンドスケープ作品『Wind Down』をリリースしましたよね。AIと音楽の可能性についてはどう考えていますか?
ジェイムス:まず僕自身は音楽制作にAIは使ってない。今作で僕が使っているのは、生成技術であって、似て非なるものだからね。人工知能を使って独自の音楽を作るのではなく、僕自身がプログラミングを行なっている。もしかしたら、初期段階のものとも言えるのかもしれないけど、プログラミングをしたものから音楽を生成しているわけで、僕の想像をはるかに超えるものができるようなAIの領域にはまだまだ達していないね。
―現時点ではそうだとしても、AIの今後の可能性についてはどう考えていますか?
ジェイムス:AIに対する僕の姿勢は、創造的観点からは興味をそそられるけど、職業的観点からは脅威だと思ってる。なぜなら、配信で経験したのと同じような問題が起こり得るから。つまり、AIを推進している会社とレコード会社が手を組むことで、彼らは金銭的に潤うかもしれないけど、アーティストは何も得にならない。配信で起きたことがまさにそれ。だから、その点は心配だね。可能性として何が起こるかというと、AIアプリを使って、すぐに配信サービスにアップロードできる音楽を瞬時に生み出すことができるようになるわけで、配信サービスには著作権で保護されていない音楽が溢れることになる。つまり、配信サービスの利益が増し、アーティストの音楽が徐々に排除されてしまうことになる。
―現実的に十分起こり得る問題ですね。
ジェイムス:あと、「その人っぽさ」がAIの生成に使われるなら、その分の印税をアーティスト本人はきちんと受け取るべきだと思う。グライムスも言ってたよね、「私とAIの曲を作りたいなら、それは構わないけど、利益はシェアして」って。彼女は間違っていないと思う。ただ、全てのアーティストが配当を得られるわけじゃない。なぜなら、ゆくゆくそれが横行すると、その中で誰に似せて使ったかをトラッキングするのは不可能になるから。アーティストにきちんと印税が払われないと、収集がつかなくなってしまうことが懸念される。音楽で食べていくのは、今でもただでさえ厳しいのに、今後さらに厳しくなってしまう。そこが心配だね。
―ハリウッドでは今、AIの利用を巡って脚本家や俳優がストライキをしていますが、アーティストには彼らのような組合がないですからね。
ジェイムス:その通り。僕たちには代理人がいるわけじゃない。レコード会社とマネージャーがいるだけで、僕たちの権利を守るためにマネージャーが頑張ってくれることを願うけど、アーティスト次第だから。もう一つの懸念点は、ゴミみたいな音楽がシーンに溢れてしまうこと。これはもう既に起きてしまっているよね。
―あなたがビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムに参加したように、2010年代はアメリカのメインストリームを舞台に様々なジャンルや国籍のアーティストたちのクロスオーバーが起こった時代でした。2020年代はラテン音楽やK-POPやアフロビーツの台頭が象徴するように、ポップのグローバル化が進行しています。あなたは現在のメインストリームのポップミュージックの動きをどのように捉えていますか?
ジェイムス:いろんな文化が溶け合っているという点で、創造性の部分では凄く面白いことが起きていると思う。インターネットのおかげで、離れていても伝わるようになって、様々なカルチャーが注目されるようになったのは素晴らしい。と同時に、今の音楽の多くが鈍感化して無感情になっていると思う。音楽配信による残念な副作用だね。単純に供給過多になってるんだ。新しい音楽に対する需要も高過ぎて、常にいいものが生まれるのは不可能だよ。その結果、大半がインスピレーションを感じられないものになってしまっている。しょうがないんだけどね、それが資本主義だから。
―いい音楽を見つけるのが以前より難しくなったと感じていますか?
ジェイムス:配信が音楽を聴く上での主要プラットフォームになってしまった以上、その中で競うために音楽を作らないといけなくなったことに加え、TikTokのせいで人々の集中力が実質なくなってしまったことで、作る側の人間にとっては、自分が作り得る最高の音楽を作ることが難しくなってしまったね。残されたのは、ツギハギのような音楽ばかりだ。音楽で食べていかなきゃいけないわけだから。売れるという目的を果たすためだけに作ったものばかりだよ。今でも素晴らしい音楽はたくさん存在するし、素晴らしいアーティストもたくさん活動している。昔のほうがよかったと言っているわけじゃない。ただ、今は世に出ている音楽の数が膨大で。毎日100万曲が新しくSpotifyにアップロードされてるんだから。とにかく多すぎるよ。全部聴ける人間なんていないし、需要があるから供給しているに過ぎない。人々の集中力の欠如は深刻な問題だね。
―いま話してもらったのが、音楽を取り巻く構造的な変化のマイナスの側面だとすれば、プラスの側面としては何が挙げられますか?
ジェイムス:プラスの面で言うと、自分たちの音楽を聴いてもらえる間口が広がったこと。インターネットの今のような発展がなければ、聴く機会がなかったかもしれない人たちが大勢いたと思うから。TikTokのようなプラットフォームを通して、素晴らしい音楽と出会えるようになった。僕自身、TikTokがなければ知ることもなかっただろう、素晴らしいパフォーマーたちの存在を知ることができたし。ただ、TikTokで見つけたパフォーマーたちっていうのは、たいていの場合、配信ビジネスにまだ乗っかっていない人たちで、彼らが配信サービスに曲を載せて、その世界で競うのに何が必要かを知ってしまった途端、作る音楽に悪い影響が出てしまうケースがほとんどだね。そういう矛盾が現状あるのは確かなんだ。でも、僕はいつだっていい音楽を探していて、それを見つけられている限りハッピーだよ。
―今日はどうもありがとうございました。日本でのライブ、本当に楽しみにしています。
ジェイムス:僕も待ちきれないよ。もの凄く楽しみにしている。
―日本は凄く暑いんで、覚悟しておいてくださいね(笑)。
ジェイムス:OK(笑)、覚悟しておくよ。どうもありがとう(笑)。
SONICMANIA
8月18日(金)幕張メッセ
公式サイト:https://www.summersonic.com/sonicmania/
SUMMER SONIC EXTRA
ジェイムス・ブレイク大阪公演
2023年8月16日(水)Zepp Osaka Bayside
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/james-blake-ssextra/
ジェイムス・ブレイク
『Playing Robots Into Heaven』
2023年9月8日リリース
アルバム前半のDJユースの楽曲群から立ち昇るのは、汗と熱気にまみれたダンスフロアの匂い。アルバム単位でここまで強いクラブカルチャーとのコネクションを感じさせるのは、それこそデビュー作以来ではないだろうか。だがもちろん、これはただの原点回帰とは違う。「Loading」などに搭載された、簡潔だがフックのあるボーカルメロディは、過去5作でソングライティングの実力を磨いてきた成果も感じさせる。『Playing Robots Into Heaven』は今のブレイクだからこそ作ることができた、ひとつの到達点だ。
2023年8月16日(金)の大阪単独公演、そして8月18日(金)に幕張メッセにて開催されるソニックマニアでは、キャリア屈指の傑作を作り上げたばかりのブレイクによる脂の乗り切ったパフォーマンスを是が非でも体験してほしい。
―つい先ほどアルバムの音源が届きました。まだ2回通して聴いたばかりなので第一印象に近いですが、あなたのキャリアを通して1、2を争う傑作だと感じました。
ジェイムス:ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
―何よりもまず鮮烈だったのは、『Playing Robots Into Heaven』ではあなたのエクストリームなトラックメイカーとしての側面が前面に押し出されていることです。あなたとしてはどのようなアルバムにしたいというビジョンがありましたか?
ジェイムス:完全に自由な作品を作りたかった。それは曲の構成にも言えることで。自分のDJセットでかける曲からの影響が大きかったね。で、今回は、初期の頃の作品以降あまり見せてこなかった自分のプロデュース面を見せたいと思っていて。ボーカル作品では、そういうぶっ飛んだ音作りを意図的に抑えてきた部分があって、それが恋しいと思ったのかもしれない。
―前作の『Friends That Break My Heart』(2021年)はあなたのシンガーソングライターとしての側面が最も強く打ち出された作品でした。ソングライティングを突き詰めたアルバムを一度作り上げたことは、今回のアルバムの方向性に影響を与えましたか?
ジェイムス:やり尽くしたと思ったし、同じことを繰り返す必要はないと思ったんだ。だから今回は、どんなアイディアでも自由に試してみることができた。決まった歌の構成やテーマにはめ込まなきゃいけないっていう縛りは一切なくて。だから今作は、作る過程の中で少しずつ形ができていったね。実際、アルバムの大半の曲が、モジュラーシンセがきっかけで生まれたんだ。ジャムセッションに近い制作過程だった。
―あなたにはトラックメイカー、シンガーソングライター、DJ、ポップ/ラップミュージックのプロデューサーといった様々な顔があります。新作は、そういったあなたの多面性がもっとも総合的に表現されたアルバムだとも感じました。
ジェイムス:そういう部分はあったと思う。そういう様々な側面を探求できたのはよかったね。さっきも言ったように、縛りが一切なかったから、これまで培ったいろんなテクニックを使うことができたんだ。『Friends That Break My Heart』では、歌を書く上でのスキルを作りながら学んでいたという感覚だった。でも今作では、やるべきことを達成するためのスキルは全て身についていて、わかっていた。だから正直、気持ちも楽だったんだ。「こんなに簡単にアルバムができちゃっていいの?」って思ったくらい。「これをプロの仕事って呼んでいいの?」ってね。
―では、前作よりも楽しんで作れました?
ジェイムス:そうだね。ほんの少しだけ今回のほうが楽しめたかな。違うタイプの表現だからね。『Friends That Break My Heart』の中の幾つかの曲で見せている感情表現を、今作で見せることはできない。違うタイプの音楽だから。今回のほうがゲームみたいだった。
―先ほど自分のDJセットの曲から影響を受けたという話がありましたが、アルバム前半には、フロア志向のダンストラックが並んでいます。どれも強烈なフロアバンガーですし、「Tell Me」なんかはほとんどハードテクノです。少なくともアルバム単位でこういったサウンドを明確に打ち出したことはなかったと思いますが、なぜいまフロア志向のサウンドを目指したのですか?
ジェイムス:これまでの作品でテクノっぽいサウンドに一番近い曲は2ndアルバム(2013年作『Overgrown』)の「Voyeur」だったんじゃないかな。あと「I Hope My Life」も(2016年作『The Color in Anything』収録)。でも、あれはどっちかというとハウスだけど。これまでも何度か目指したことはあるけど、今回はダンスフロア志向のサウンドにより強くコミットしている。いいタイミングだと思ったんだ。僕がやろうと思えばできるとみんな思っていたと思うし、それを聴きたいと思っている人がいるのもわかっていた。それを見せる時が来たっていうことだね。
―フロア志向のサウンドを打ち出すにはいいタイミングだったというのは、あなたのキャリアの変遷から考えてもそうですが、パンデミックを経てクラブやライブが復活したこともある程度は関係していますか?
ジェイムス:もちろん。その可能性を広げられるとも思った。EP『Before』(2020年)の時にも感じたんだけど、あのEPを作ったときに、こういうサウンドを求めている人たちが大勢いることを思い出させられたんだよ。求めている人たちがいるんだから、だったらこれをさらに突き詰めようって思ったんだ。
―1stアルバム『James Blake』(2011年)のサウンドは、ポストダブステップが全盛だった当時のロンドンのクラブシーンに根差していました。その比較で言うと、ニューアルバムのダンストラックのサウンドは何に根差していると言えますか?
ジェイムス:特定のシーンに根ざしてはいないんじゃないかな。そこが面白いところでもあるんだけど。特定のシーンじゃなくて、僕のエレクトロニックミュージックへの愛情と、僕が好きな様々なエレクトロニックミュージックに根ざしているんだと思う。
―では、1stがブリアルとジョニ・ミッチェルの間にある何かだとすれば、ニューアルバムは何と何の間だと言えますか?
ジェイムス:そうだなぁ……すぐに思いつかないな。例えば……うわっ、何も思い浮かばないよ(笑)。今、思いつく名前を出すと、エイフェックス・ツインだったり、あとは……ポーティスヘッドとかかな……。でも、他の影響もあるからなぁ……。UKエレクトロニックミュージックの要素は絶対にあると思う。
神聖なフィーリング、クラブカルチャーへの情熱
―アルバム後半は徐々に落ち着いたトーンに変わっていきます。特に印象的だったのは、シンプルなピアノのループをバックに歌われる「If You Can Hear Me」でした。まだ歌詞を受け取っていないのでちゃんと聴き取れていないのですが、この曲は父親に語り掛けるような内容ですよね?
ジェイムス:そうだよ。
―このタイミングで父親のことを歌おうと思った理由を教えてください。
ジェイムス:実は面白い背景があって、この曲を書くきっかけになったのが、映画『アド・アストラ』(2019年)用に曲を書いてくれと言われたことだったんだ。映画を見せてもらって、それ向けに曲を幾つか書いたんだけど、結果的に映画にはクラシック寄りの音楽が使われることになって。で、僕としてはそのときに作った曲を他の作品に流用することにして、これもそのひとつというわけ。
―ああ、なるほど。『アド・アストラ』は父と息子の物語ですもんね。
ジェイムス:元々映画用に書いたのはドミニク・メイカー(マウント・キンビー)と一緒に作ったピアノのループで、歌はずっと後になってから書いたものではあるんだけど。映画の中で、宇宙の遥か遠くで孤立している主人公が初めて父親とコミュニケーションをとるシーン用だったんだ。主人公は二度と再会できない父親に何年かぶりに通信できてメッセージを送る。なんて美しいシーンだろうと思った。個人的に父親と息子は特別なつながりがあると思っていて、そういう関係性を描いたシーンはいつだって感動的だと感じる。だからこの曲の歌も、それに感化されて、自分の父親との経験と重ねて書いたんだ。
―歌詞の面では、『Assume Form』(2019年)は感動的なラブレターのようなアルバムであり、『Friends That Break Your Heart』はロマンティックなリレーションシップ以外の人間関係について歌ったアルバムでした。今回のアルバムは全体として何について歌った作品だと言えますか?
ジェイムス:今作は、歌詞の内容よりも音の制作過程こそが曲と曲を繋ぐものではあるんだけど、僕が歌っている歌に関して言えば、それをつなげるものは、第一人称で歌っているのはラブソングだったり、愛する人を支えたいという思いだったりで、僕のこの数年間の実体験をもとにしている。ただ、アルバム全体に一貫した歌詞のテーマがあるわけじゃないんだ。
―では、新作がダンスフロア向けのサウンドになったことは歌詞の内容にも影響を与えましたか?
ジェイムス:そうだね。ダンスミュージックを作る際は、歌詞の内容も変わってくる。ダンスフロア向けには、違う歌詞の感覚が求められる。大きなサウンドシステムから流れる爆音でも、共感できるテーマじゃなきゃいけない。変に入り組んだ内容だと伝わらない。もちろん、深読みすれば隠されたメッセージが実はあるものもあるだろう。でも実際の歌詞は、シンプルで、効果的に、すぐにわかるものじゃなきゃいけない。ダンスフロア向けの曲の歌詞を書く時は、そういうことも念頭に入れておかないといけないんだ。
―アルバム最後の「Playing Robots Into Heaven」は、どこか物悲しく、教会音楽のような神聖さも感じさせるインストです。この曲名をアルバムタイトルに冠した理由を教えてください。
ジェイムス:この曲「Playing Robots Into Heaven」は、今作向けに書いた曲で、最初に満足できた曲だったんだ。モジュラーシンセを使って最初に試みた実験から生まれたもので。実は自分のインスタにこの曲ができたときの動画を投稿しているんだ。2、3年前の話だけど、そのときに書いた写真のキャプションが「天国にロボットを送る演奏をするオルガン奏者(原文:The organist who plays robots into heaven.)」だった。この曲のサウンドを聴いて、そう感じたから。それから2年経って、アルバムをまとめる段階になったとき、いろんな曲が出来上がっていたけど、「これこそがアルバム名だ」と確信したんだよね。アルバムの制作過程が、様々な機械を使って、スピリチュアルなフィーリングを生み出すことだったから、ピンと来たんだ。
―最近はLAやロンドンでCMYKというクラブイベントを主催していますよね。いま新たにクラブイベントを始めようと思った理由を教えてください。
ジェイムス:昔、1-800 Dinosaurというクラブナイトをやってたことがあって、それ以来、またクラブイベントをやりたいとずっと思っていたんだ。クラブイベントを主催することで、コミュニティができる感覚になる。同じ顔ぶれが集まり、いろんな人と出会い、オーディエンスが自然とできる。何年もやっていなかったから、またやりたいと思って。それと、今回のアルバムとも関係していて、アルバムの曲を試しに聴かせる定期的な場がほしいなと思ったんだ。言うならば、CMYKのお客さんが今作のA&R的存在だね。
@jamesblake
―クラブミュージックのシーンで、いまあなたが注目している動き、もしくはアーティストはいますか?
ジェイムス:ブラジルのクラブミュージックが今一番面白い。イキイキしていて、楽しい、という点でね。当然、これまでの一世を風靡してきたダンスミュージックのジャンルはどれもドラッグと密接なつながりがあったわけで。それは世の常だから。ハウスもそうだったし、テクノやドラムンベースやジャングルにしたってそう。文脈から生まれるものだと思っている。最高のダンスミュージックというのは、文脈があって、一つのコミュニティから生まれる。それに世界が注目して、みんながその素晴らしい音楽を人づてに知るようになるわけで。
ソニックマニアの展望、AIやTikTokにまつわる懸念
―来日が目前に迫っています。ソニックマニアや大阪単独公演でのライブはどのような内容を期待していいですか?
ジェイムス:全てが混ざったものになるだろうね。まだ新作からの曲はやらないけど、「Hummingbird」といった最近のものから、昔のものまで全部を網羅した内容になる。特に最初の2作からの曲はたくさんやるよ。特に2作目。それに、新作のヒントになるような演出もある。アルバムに影響を与えたダンスミュージックを披露するつもりなんだ。まあ、ベストなセットリストを期待していてほしいね。
―あなたは2020年に『Covers』というカバーEPをリリースしていますし、最近のライブでもカバー曲をよく披露しています。あなたにとってカバーをやることはどんな意味がありますか?
ジェイムス:まず、何も自分で書く必要がないのは助かる(笑)。曲作りに何年もかけずに済んだ曲が歌えるのは楽でいい。あと、自分が大好きな曲を歌える喜びがある。その作品の物語の一部に自分もなれる、っていう。一生愛し続けてきた曲をステージで歌うことができるのが何よりも嬉しいね。
『Covers』にはフランク・オーシャン、ビリー・アイリッシュ、スティーヴィー・ワンダー、ジョイ・ディヴィジョンなどのカバーを収録
―ソニックマニアには、フライング・ロータス、サンダーキャット、オウテカ、ムラ・マサ、シャイガール、グライムス、ア・トライブ・コールド・クエストのアリなども出演します。タイミングが合えば観てみたいアーティストはいますか?
ジェイムス:正直、今挙げてもらったアーティストはほとんど観てみたい。サンダーキャット、グライムス。凄くいいライナップだよね。素晴らしいアーティストと同じステージに立つことができて光栄だよ。みんな知性を感じるミュージシャンばかりだし。素晴らしい発想を持った人たちだと思う。
―昨今の音楽を取り巻く状況についても幾つか訊かせてください。昨年あなたは、AIによってデザインされた安眠アプリ「Endel」とのコラボで、サウンドスケープ作品『Wind Down』をリリースしましたよね。AIと音楽の可能性についてはどう考えていますか?
ジェイムス:まず僕自身は音楽制作にAIは使ってない。今作で僕が使っているのは、生成技術であって、似て非なるものだからね。人工知能を使って独自の音楽を作るのではなく、僕自身がプログラミングを行なっている。もしかしたら、初期段階のものとも言えるのかもしれないけど、プログラミングをしたものから音楽を生成しているわけで、僕の想像をはるかに超えるものができるようなAIの領域にはまだまだ達していないね。
―現時点ではそうだとしても、AIの今後の可能性についてはどう考えていますか?
ジェイムス:AIに対する僕の姿勢は、創造的観点からは興味をそそられるけど、職業的観点からは脅威だと思ってる。なぜなら、配信で経験したのと同じような問題が起こり得るから。つまり、AIを推進している会社とレコード会社が手を組むことで、彼らは金銭的に潤うかもしれないけど、アーティストは何も得にならない。配信で起きたことがまさにそれ。だから、その点は心配だね。可能性として何が起こるかというと、AIアプリを使って、すぐに配信サービスにアップロードできる音楽を瞬時に生み出すことができるようになるわけで、配信サービスには著作権で保護されていない音楽が溢れることになる。つまり、配信サービスの利益が増し、アーティストの音楽が徐々に排除されてしまうことになる。
―現実的に十分起こり得る問題ですね。
ジェイムス:あと、「その人っぽさ」がAIの生成に使われるなら、その分の印税をアーティスト本人はきちんと受け取るべきだと思う。グライムスも言ってたよね、「私とAIの曲を作りたいなら、それは構わないけど、利益はシェアして」って。彼女は間違っていないと思う。ただ、全てのアーティストが配当を得られるわけじゃない。なぜなら、ゆくゆくそれが横行すると、その中で誰に似せて使ったかをトラッキングするのは不可能になるから。アーティストにきちんと印税が払われないと、収集がつかなくなってしまうことが懸念される。音楽で食べていくのは、今でもただでさえ厳しいのに、今後さらに厳しくなってしまう。そこが心配だね。
―ハリウッドでは今、AIの利用を巡って脚本家や俳優がストライキをしていますが、アーティストには彼らのような組合がないですからね。
ジェイムス:その通り。僕たちには代理人がいるわけじゃない。レコード会社とマネージャーがいるだけで、僕たちの権利を守るためにマネージャーが頑張ってくれることを願うけど、アーティスト次第だから。もう一つの懸念点は、ゴミみたいな音楽がシーンに溢れてしまうこと。これはもう既に起きてしまっているよね。
―あなたがビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムに参加したように、2010年代はアメリカのメインストリームを舞台に様々なジャンルや国籍のアーティストたちのクロスオーバーが起こった時代でした。2020年代はラテン音楽やK-POPやアフロビーツの台頭が象徴するように、ポップのグローバル化が進行しています。あなたは現在のメインストリームのポップミュージックの動きをどのように捉えていますか?
ジェイムス:いろんな文化が溶け合っているという点で、創造性の部分では凄く面白いことが起きていると思う。インターネットのおかげで、離れていても伝わるようになって、様々なカルチャーが注目されるようになったのは素晴らしい。と同時に、今の音楽の多くが鈍感化して無感情になっていると思う。音楽配信による残念な副作用だね。単純に供給過多になってるんだ。新しい音楽に対する需要も高過ぎて、常にいいものが生まれるのは不可能だよ。その結果、大半がインスピレーションを感じられないものになってしまっている。しょうがないんだけどね、それが資本主義だから。
―いい音楽を見つけるのが以前より難しくなったと感じていますか?
ジェイムス:配信が音楽を聴く上での主要プラットフォームになってしまった以上、その中で競うために音楽を作らないといけなくなったことに加え、TikTokのせいで人々の集中力が実質なくなってしまったことで、作る側の人間にとっては、自分が作り得る最高の音楽を作ることが難しくなってしまったね。残されたのは、ツギハギのような音楽ばかりだ。音楽で食べていかなきゃいけないわけだから。売れるという目的を果たすためだけに作ったものばかりだよ。今でも素晴らしい音楽はたくさん存在するし、素晴らしいアーティストもたくさん活動している。昔のほうがよかったと言っているわけじゃない。ただ、今は世に出ている音楽の数が膨大で。毎日100万曲が新しくSpotifyにアップロードされてるんだから。とにかく多すぎるよ。全部聴ける人間なんていないし、需要があるから供給しているに過ぎない。人々の集中力の欠如は深刻な問題だね。
―いま話してもらったのが、音楽を取り巻く構造的な変化のマイナスの側面だとすれば、プラスの側面としては何が挙げられますか?
ジェイムス:プラスの面で言うと、自分たちの音楽を聴いてもらえる間口が広がったこと。インターネットの今のような発展がなければ、聴く機会がなかったかもしれない人たちが大勢いたと思うから。TikTokのようなプラットフォームを通して、素晴らしい音楽と出会えるようになった。僕自身、TikTokがなければ知ることもなかっただろう、素晴らしいパフォーマーたちの存在を知ることができたし。ただ、TikTokで見つけたパフォーマーたちっていうのは、たいていの場合、配信ビジネスにまだ乗っかっていない人たちで、彼らが配信サービスに曲を載せて、その世界で競うのに何が必要かを知ってしまった途端、作る音楽に悪い影響が出てしまうケースがほとんどだね。そういう矛盾が現状あるのは確かなんだ。でも、僕はいつだっていい音楽を探していて、それを見つけられている限りハッピーだよ。
―今日はどうもありがとうございました。日本でのライブ、本当に楽しみにしています。
ジェイムス:僕も待ちきれないよ。もの凄く楽しみにしている。
―日本は凄く暑いんで、覚悟しておいてくださいね(笑)。
ジェイムス:OK(笑)、覚悟しておくよ。どうもありがとう(笑)。
SONICMANIA
8月18日(金)幕張メッセ
公式サイト:https://www.summersonic.com/sonicmania/
SUMMER SONIC EXTRA
ジェイムス・ブレイク大阪公演
2023年8月16日(水)Zepp Osaka Bayside
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/james-blake-ssextra/
ジェイムス・ブレイク
『Playing Robots Into Heaven』
2023年9月8日リリース
外部リンクRolling Stone JAPAN