大谷翔平はポストシーズンの舞台に立つことなくオフを迎え、ロサンゼルス・エンゼルスからFAとなり、その直後に2年ぶり2度目のMVPを受賞する──。

 これらの予想のうち、ポストシーズンとFAに関してはそのとおりにならない可能性も、わずかに残っている。ここからエンゼルスは白星を積み重ね、9年ぶりにポストシーズンへたどり着くかもしれない。大谷はFAとなる前に、エンゼルスと延長契約を交わすかもしれない。

 ただ、大谷がMVPに選ばれる可能性は、100%と言ってもいい。


2年ぶり2度目のMVP受賞は間違いなし

 今シーズンのア・リーグに、大谷と肩を並べる打者はいない。8月13日を終えた時点で、40本塁打、66長打、286塁打、74四球に、出塁率.407、長打率.661とISO.356、OPS1.068は、いずれも単独トップだ。7三塁打は1位タイ、132安打と83打点は3位、打率.305は4位に位置し、盗塁も16を数える。

 なお、ISOの計算式は「長打率−打率」だ。「塁打÷打数」の長打率と違い、単打で数値が上がることはない。

 大谷はDHなので、登板時以外は守備につかない。だが、投げてはリーグ6位の防御率3.17や2位の奪三振率11.4などを記録している。

 今シーズンの大谷は「リーグ最高の打者+リーグ屈指の先発投手」ということだ。レギュラーシーズンは、すでに70%が終わっている。仮に大谷が残る試合のすべてに欠場しても、MVPの受賞は揺るぎそうにない。

 ベースボール・ライターズ・アソシエイション・オブ・アメリカ(BBWAA/全米野球記者協会)の投票によりMVPを決めるようになった1931年以降、受賞2度以上の選手は28人を数える。

 最多は、バリー・ボンズの7度(1990年、1992年@ピッツバーグ・パイレーツ/1993年、2001年〜2004年@サンフランシスコ・ジャイアンツ)。あとは、3度が10人と、2度が17人だ。

【MVP満票受賞は過去19人】

 現役選手では、マイク・トラウト(エンゼルス)の受賞3度(2014年、2016年、2019年)が最も多く、ほかにはミゲル・カブレラ(2012年〜2013年@デトロイト・タイガース)とブライス・ハーパー(2015年@ワシントン・ナショナルズ/2021年@フィラデルフィア・フィリーズ)が2度ずつ選出されている。

 今年受賞すると、大谷はMVP2度以上の29人目となる。ナ・リーグの受賞者も2度目なら、大谷とその選手が29人目と30人目、あるいは30人目と29人目だ。

 ナ・リーグでMVPのファイナリストとなりそうな選手のうち、ロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)は未受賞だが、ロサンゼルス・ドジャースのフレディ・フリーマンとムーキー・ベッツは過去に受賞している。フリーマンはブレーブス時代の2020年、ベッツはボストン・レッドソックス時代の2018年に選ばれた。

 MVP2度以上は30人近くいるものの、このなかでも大谷は特筆すべき存在となり得る。メジャーリーグ7年目を迎える前に2度目のMVPを手にした選手は、トラウトら6人しかいない。大谷は、今シーズンがメジャーリーグ6年目だ。

 2年前、MVPの投票権を持っていた30人の記者は、いずれも大谷を1位に挙げた。満票による選出は、大谷が19人目だ(時代によって投票者の人数は異なる)。19人とも満票の受賞は1度ずつ。大谷が今年も満場一致で選ばれれば、史上初の満票2度となる。

 大谷以外にも、満票でMVPに選ばれたことのある現役選手はふたりいる。トラウトとハーパーがそうだ。トラウトの1位票は、2014年が30人中30人、2016年が30人中19人、2019年は30人中17人。ハーパーは、2015年が30人中30人、2021年は30人中17人だった。

 もっとも、今年はトラウトもハーパーも、1位票どころか得票自体が皆無だろう。どちらも長期欠場に加え、スタッツも例年の水準に及ばない。たとえばOPSは.862と.808だ。ホームランはふたり合わせても大谷より15本少ない。

【サイ・ヤング賞も狙える?】

 その一方で、大谷が満票でMVPとなる可能性は、こちらも100%に近いのではないだろうか。

 大谷自身のパフォーマンスとスタッツもさることながら、今シーズンのア・リーグには62本塁打を記録した昨シーズンのアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)のような、大谷のライバルとなる選手が見当たらない。

 大谷に次ぐ本塁打リーグ2位は、31本のルイス・ロバートJr.(シカゴ・ホワイトソックス)だ。ホームランの本数だけでなく、大谷とロバートJr.のOPSは180ポイントの差がある(.001=1ポイント)。こちらの2位に位置するヤンディ・ディアズ(タンパベイ・レイズ)にも、大谷は153ポイントの差をつけている。

 コリー・シーガー(テキサス・レンジャーズ)とジャッジのOPSは大谷とあまり変わらないものの、ふたりとも打席数は大谷の3分の2に満たない。シーガーは規定打席に達するかもしれないが、ジャッジは届きそうにない。もし、シーガーが首位打者を獲得し、OPSも大谷を上回ったとしても、出場の少なさを踏まえると、MVP投票でシーガーを1位とする記者がいるとは考えにくい。

 また、ひとりだけ突出している投手もいない。リーグ1位の防御率2.69を記録しているネイサン・イオバルディ(レンジャーズ)は、先月下旬から故障者リストに入っている。防御率2点台はほかに2.75のゲリット・コール(ヤンキース)しかいないので、今後の推移次第では大谷のサイ・ヤング賞も現実味を帯びてくるかもしれない。

 そもそも、投手のMVPは少ないうえ、近年はその傾向が強く、2014年のクレイトン・カーショウ(ドジャース)を最後に途絶えている。その後、2015年〜2022年のMVP投票で1位票を得た投手は、二刀流の大谷を除くと2018年のジェイコブ・デグロム(当時ニューヨーク・メッツ/現レンジャーズ)しかいない。それも、1票に過ぎなかった。

【2020年に起きた世紀の凡ミス】

 この時は、デグロムを1位とした記者がいたため、クリスチャン・イエリッチ(ミルウォーキー・ブルワーズ)は惜しくも満票の受賞を逃した。今年の大谷がイエリッチと同じ結果になるとしたら、記者が間違って違う選手に票を投じた場合くらいだろう。

 そんなミスはあり得ないと思うかもしれないが、3年前のMVP投票では、こんなことが起きている。その記者は、トレイ・ターナー(当時ワシントン・ナショナルズ/現フィリーズ)を10位とするつもりで、オンライン投票の際に、ラストネームのイニシャルが同じ「T」の違う選手をクリックしてしまったという。

 ターナーの代わりに10位票の1ポイントを得たのは、今シーズンの途中まで大谷とチームメイトだったライアン・テペラ(当時シカゴ・カブス)だ。クローザーではなく、防御率も4点近いテペラの得票が話題になり、記者のミスが発覚した。