[画像] 10人相手にボールを回されたエルサルバドル戦のシステム。数的優位でなければ、もっと深刻な問題になったかもしれない

[キリンチャレンジカップ]日本 6−0 エルサルバドル/6月15日/豊田スタジアム

 6月15日に行なわれたキリンチャレンジカップ2023、日本代表対エルサルバドル代表は、日本が6−0で勝利を収めた。

 大勝は良いが、開始3分で試合が壊れたのが惜しい。エルサルバドルはDFロナルド・ロドリゲスが、ペナルティエリア内で手を使って上田綺世を倒し、DOGSO(決定的得点機会の阻止)で一発退場。残り87分を10人で戦うことになった。

 日本はこれで得たPKを上田自身が決め、この時点で谷口彰悟が決めた先制ゴールと合わせて、10人の相手を2−0でリード。開始3分で勝敗がほぼ決まってしまい、テストマッチとしては物足りない内容だった。

 もっとも、主審のアンドリュー・マドレイがレッドカードを示したのは当然であり、そこに不服を言うのはお門違いだろう。むしろVARが導入された試合で、エルサルバドル側が明らかに退場処分につながるような稚拙なファウルに及んだことが解せない。緩慢なコントロールミスを含め、試合への集中力を欠いていた。対戦相手に不満が残っているのが正直なところだが、それは兎も角。
 
「1試合1試合、明確なチャレンジをする」と宣言した森保一監督は、この試合に4−1−4−1のシステムで臨んだ。三笘薫と久保建英を左右のウイングに置き、インサイドハーフに旗手怜央と堂安律を並べる新しい布陣を用いている。

 左サイドでは三笘、旗手、森下龍矢が、右サイドでは久保、堂安、菅原由勢が、それぞれ3人ずつでサイドを攻略する。単純なドリブルだけでなく、三笘や久保が中へ入って旗手や堂安が飛び出したり、森下や菅原がオーバーラップしたりと、いくつかの形を見せた。

 それによって、1トップの仕事が絞られていたのが印象的だ。サイドや中盤に厚みがあるため、上田あるいは65分から出場した古橋亨梧ら1トップが、起点作りのために大きく動き回る必要がない。クロスへ合わせる部分、相手CBとの駆け引きに集中していた。大迫勇也のような万能の起点となるFWが早々望めない以上、理にかなった一つのやり方だ。
 
 一方で、相手がゴール前を固めて、上田らがクロスに合わせるのが困難になると、今度は手前、ペナルティアーク付近のスペースが空いてくる。左サイドの三笘と旗手は右利き、右サイドの久保と堂安は左利きだ。逆足サイドに配置された彼ら4人が、中へ侵入しながらシュートを打つ。ゴール前で誰がどのスペースからフィニッシュに行くのか、狙いが見える配置であり、機能性があった。

 ただし、このシステムが攻撃だけでなく、攻守に渡って耐え得るのかどうか、この試合では保証できない。守備時は4−1−4−1から堂安を上げ、4−4−2に形を変えたが、プレッシングがはまらず、10人の相手にボールを回される場面が目についた。

 4−4−2で相手にボールを回されると、両サイドの三笘と久保、少なくとも一方の立ち位置が低くなりがちに。これまで伊東純也が右サイドに入った時は、伊東が走力を生かして最終ラインのカバーまでを広範囲に行ない、そこから長駆で飛び出す左高右低のアシンメトリックなバランスを保っていた。しかし、三笘と久保ではそうもいかない。この2人はどちらも高い位置に残したい選手だ。
 
 後半は守備型が少し変わり、4−3−3で高い位置からプレスをかけるようになった。相手CBへの寄せはインサイドハーフの堂安ではなく、久保や三笘(後半開始から中村敬斗)が高い位置を取って行なうようになった。両ウイングがショートカウンターで機能しやすい守備型であり、日本は後半からプレスの勢いを増した。

 ただ、この4−3−3は中盤3人がバランスを取るのが難しい。特に堂安は人に、相手ボランチに釣られる傾向が強く、久保と上田の間をのぞくパスコースを遮断できず、ビルドアップの起点を作られた。この点も相手が10人でなければ、もっと深刻な問題になったかもしれないが。

 様々なトライはした。しかし、攻撃の狙いは面白くても、攻守としてバランスが成立しなければ、11人の強敵には勝てない。20日、より難しいペルーとの対戦はどのように臨むのだろうか。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)

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