立憲民主党の支持率が低空飛行を続けている。フリージャーナリストの宮原健太さんは「党内からも『何をしたい党なのか見えない』という声が上がっている。世論に訴える政策や立ち位置が見えない状況では、党勢回復は望めない」という――。
写真=時事通信フォト
衆院本会議に臨む立憲民主党の泉健太代表(手前)。奥右は小沢一郎氏。奥左は枝野幸男前代表=2023年4月14日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■「150議席を取れなければ辞任する」とぶち上げたが…

立憲民主党が崖っぷちに立たされている。

4月の統一地方選では議席数を維持したものの、衆参5補選では全敗を喫し、報道各社の世論調査によると、政党支持率で日本維新の会を下回る結果が続いている。

こうした中、泉健太代表は「(次期衆院選で)150議席を取れなければ辞任する」と宣言したが、とても現実的な数字とは思えない。立憲所属の衆議院議員は現在97人。あまりにも現状とかけ離れた目標に、党内からも当惑の声が上がった。

なぜ、立憲は今のような状況になってしまったのか。

筆者は、維新との国会内共闘が中途半端に終わってしまうなど、軸が定まり切らなかったことに一因があると考えている。

どういうことか。立憲のこれまでの動きを振り返りながら分析をしていきたい。

■党内議員「何をしたい政党なのか見えない」

「自民党の一部と同じような政策の新自由主義や、あるいは自助ばかりを強調する政治や、核共有を検討するような政治の方向は対立軸にならない。改めて、私たちこそが、この立憲民主党の歩む道こそが、自民党に代わり得る政権勢力の国民が望む選択肢である」

5月10日、立憲民主党本部で泉代表は、党所属の国会議員が集まる両院議員総会で声を張り上げた。この「核共有を検討するような政治」は維新を指しており、これまで国会内で共闘していた関係から対決姿勢へ大きく舵を切った瞬間となった。

筆者撮影
5月10日に立憲民主党本部で開かれた両院議員総会で冒頭あいさつをする泉健太代表 - 筆者撮影

総会は泉代表の冒頭あいさつ以外は非公開で行われた。終了後、蓮舫議員が報道陣の取材に応じ、「質疑の中で『立憲民主党が何をしたい政党なのか見えない』という声が3分の2くらいから出た」と会の様子を説明した。蓮舫氏自身も「何をやったのか、何にしがみつきたいか、何を発信したいか、自分で今日夜持って帰ってしっかり考えてくれ」と泉代表に問いかけたという。

筆者撮影
5月10日に立憲民主党本部で開かれた両院議員総会後に党本部前で報道陣の取材に答える蓮舫氏 - 筆者撮影

■そもそもスタート時点からすれ違っていた

「何をやったのか」……。

最近の立憲の動きで最も大きかったのは維新との国会共闘だろう。

2021年衆院選、2022年参院選と維新は議席を大きく伸ばし、逆に議席を減らし続けてきた立憲にとっては脅威となっていた。

そこで、2022年、臨時国会が始まる前の9月、立憲は維新に国会内で共闘することを持ち掛けた。当時大きく問題となっていた旧統一教会問題など6項目で連携を深めることで合意。両党はこの問題で被害者救済法案を共同提出するなど成果を上げた。

これまでいがみ合ってきた両党が手を組んだ理由は、表向きには政権と対峙(たいじ)するために野党第1党と第2党が共に行動することでスケールメリットを活かすということがあったが、立憲側には、ゆくゆくは選挙協力につなげていきたいという思惑もあった。

「維新は勢力を伸ばしてきたとはいえ、衆院選で選挙区を勝ち抜く地力は、関西圏以外はまだない。こうした中で両党が各選挙区で候補者を乱立させるよりも、候補者を調整して一本化させたほうが互いにプラスになる。そこまで維新との関係を持っていけるかどうかだ」と、このころから立憲幹部は話していた。

しかし、ここにズレがあった。維新は選挙協力までは考えておらず、あくまで立憲と組んだ方が国会で与党と対峙する上で存在感を発揮することができると考え、共闘を受け入れていた。

このように、立憲と維新の共闘はスタート時点から同床異夢の微妙な関係にあったと言えるだろう。

■政策の隔たりも大きかった

そもそも、立憲と維新は政策的にも隔たりが大きい。

維新の主な政策は「身を切る改革」というスローガンに代表される、無駄を徹底的に削減するなどの行財政改革だ。対して立憲は、医療や介護、保育などのベーシックサービスを拡充するという立場をとっている。維新の政策を「さらなる格差の拡大や行政機能の低下などを惹起しかねない」(2022年参院選総括)と批判してきた。

多少荒っぽくなってしまうが、維新が「小さな政府」に近い考え方であるのに対し、立憲は「大きな政府」寄りの社会像を持っていると言えるだろう。

もちろん、政策の違いを埋める努力をしなかったわけではない。ことしの通常国会からは共闘するテーマを限定せず、重要政策についても意見交換を重ねていくことで合意した。

立憲が批判してきた「身を切る改革」をテーマにしたプロジェクトチームも両党で立ち上がった。旧公務員宿舎は、政府が使用をやめてから10年以上放置してしまっている休眠財産として問題になっていたが、これを合同で視察、国会の予算委員会で立憲の渡辺創衆院議員が「未利用の国有地は売却や貸し出しで資産化するべきではないか」と提言するなどした。

筆者撮影
2月7日に立憲と維新が立ち上げた「行政改革・身を切る改革プロジェクトチーム」が東京都新宿区戸山の休眠財産となっている旧公務員宿舎を視察した様子 - 筆者撮影

■「サル発言」を受けた維新は…

このように、通常国会前半まで関係を深めていった立憲と維新だが、立憲の小西洋之参院議員が衆院の憲法審査会について「毎週開催はサルがやること」などと発言したことを期に、改憲議論に前向きな維新が共闘を「凍結する」として暗雲が立ち込める。

ことし4月に行われた統一地方選では、維新が地方議員の議席数を約400から774まで伸ばすという大躍進となった。これを受け、馬場伸幸代表は次期衆院選で「289ある全選挙区に候補者を立てる」と宣言した。

勢いをつける維新に対抗する形で、立憲でも若手・中堅から泉代表に「競合も辞さず戦う覚悟と決意を鮮明に示すべきであり、最低でも200以上の選挙区で与党に対抗できる強力な候補者を擁立すべき」と提言がなされ、両党の候補者擁立合戦が始まった。こうして共闘関係は終焉(しゅうえん)を迎えた。

筆者撮影
5月8日に国会内で立憲の若手・中堅議員らが泉代表に「競合も辞さず戦う覚悟と決意を鮮明に示すべきであり、最低でも200以上の選挙区で与党に対抗できる強力な候補者を擁立すべき」などと書かれた提言書を手渡しする様子 - 筆者撮影

■「維新の躍進をアシストしただけではないか」

立憲と維新の共闘は、最初に思い描いていた選挙協力まで到達することなく、中途半端に終わってしまった。

小西氏のサル発言がなくとも、統一地方選で議席を伸ばした維新は立憲との共闘から離れ、独自路線を強めていたと思うが、そんな維新にとってはこの発言が渡りに船となったのは間違いない。

維新との共闘について、立憲内では「国会論戦で維新に後ろから球を撃たれずに済んだだけでも効果はあった」と評価する声もある。一方で、若手議員からは「共闘は国会での維新の存在感を強めて、統一地方選の躍進に向けてアシストしただけだったのではないか」と嘆く声も聞かれた。

筆者も、維新と共闘するならば、選挙協力まで持っていけるよう、統一地方選後も縁を切られないほどに関係を深め切ったほうが良かったのではないかと思う。こんなことを言っても後の祭りではあるが、そこまでの関係に持っていけないというのであれば、共闘など働きかけずに、自党の政策やスタンスに磨きをかけることに全力をかけていたほうが良かったのではないか。

写真=iStock.com/istock-tonko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

■反対なのにフィリバスターを発動できなかった

例えば、外国人の収容・送還のルールを見直す入管法改正案についての問題がある。この法案を巡っては、自民、公明、立憲、維新、国民民主で修正協議が行われ、立憲が、難民認定手続きの公平性を担保するため、第三者機関による審査などを加えるよう求めていた。ところが、与党が示した修正案では審査について「検討」を付則に記すのみにとどまったため、立憲のみが反対に転じた。

このようなケースでは、法案採決の日程を遅らせて世間の関心を高めるため、法務委員長の解任決議案や大臣不信任案を提出するなどの議事妨害、いわゆる「フィリバスター」を発動するのが立憲の定石だ。

ところが今回は、共闘関係にある維新が修正案に合意したため、衆議院ではフィリバスターを発動できず、あっけなく法案が可決されてしまった。廃案を訴える大規模デモが国会で行われたのは、法案が参議院に送られた後となり、参議院では委員長解任決議案が提出されたが、山場を作るのが後手に回った印象を受ける。

2021年の通常国会では同法案についての自民と立憲の修正協議が決裂し、その後は立憲が法務委員長の解任決議案をすぐさま提出した。世論の盛り上がりを受けて最後に廃案に追い込んだ当時と比べると対照的だ。

■立憲本来の姿勢を取り戻すべき

与党に厳しく対峙し、問題がある法案は廃案に追い込むまで徹底的に戦うというのが従来の立憲の戦い方だったはずだ。それが、維新との共闘に注力するばかりに、元来の力が発揮できなかった。

「立憲民主党が何をしたい政党なのか見えない」……。党内でこうした当惑の声が上がった要因はこの点にあるのではないだろうか。

結局、立憲と維新の関係は元のもくあみとなってしまったわけだが、終わってしまったことは後悔しても仕方がない。

国会会期末が近づき、解散総選挙がささやかれる中、改めて立憲が訴える政策とは何なのか、他党との違いは何なのかを改めて問い直し、磨き上げ、早急に国民に示す必要があるだろう。

徳俵に足がかかった立憲が、土俵際で力を発揮できるか。党の姿勢が問われている。

----------
宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で首相官邸や国会、外務省などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者YouTuber宮原健太」でニュースに関する動画を配信しているほか、「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしても活動している。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。
----------

(ジャーナリスト 宮原 健太)