「美味しそうに隣でご飯を食べていてください」
「海で泳ぎたいので、砂浜で犬の面倒を見ていてください」

そんなちょっと変わったサービスを提供するサイトが、太っている人が好みのタイプという人たちの間で少しずつ流行りつつある。

※本記事では「デブをかっこよく」という「デブカリ」のポリシーに基づき「デブ」をポジティブな言葉として使用しています。

そのサイトの名前は「デブカリ」。体重100キロ以上の”エリート”たちを1時間2000円からレンタルすることができる。

年齢、性別、地域もバラバラで、「歌えるデブ」や「とにかく明るいデブ」、「ただのデブ」など、ポップなキャッチコピーが付けられている彼らはレンタル先でどのような仕事をしているのか。

多数のレンタル経験があることで「金のデブ」の称号を持つ、体重200キロの「重たいのにアクティブなデブ」であるゆりん氏(35)。同じく体重110キロの「イイ顔が得意なデブ」であるあまやん氏(39)に「デブカリ」のサービスの実態を聞いた。

ゆりん氏「高校生の頃の体重は30キロでした。過激なダイエットにハマってしまって激ヤセしたんです。その反動で過食症になってしまって、20歳の頃には80キロになってました。それから順調に増えていって、数年前に200キロの大台に乗せました。デブカリは‘22年の春、ツイッターで知りました。条件は100キロ以上ということでしたが、200キロの私は重すぎて逆に無理かもと思っていましたが、無事登録させていただきました」

あまやん氏「僕も中学生の頃はラグビー部で鍛えていたのでスリムでしたね。高校に上がって運動をやめてから徐々に太っていきました。ただ、90キロ台で長らく高止まりしていて、100キロを超えたのはつい5年前なので、”デブ界”では新参者です。僕は結構早くにデブカリを知って、サービス開始の2ヵ月後の‘21年6月に登録させていただきました。僕はかねてから”デブ”を売りにした仕事をできないものかと考えていたので、デブカリはまさに渡りに船でした」

無事デブカリに登録できたものの、自分をレンタルしてくれる人なんか現れるのだろうか。半信半疑だったものの、意外にもその出番は早かったという。

あまやん氏「登録から1ヵ月後、初めての依頼はパーティへのゲスト出演でした。ある会社の女性社長が大層な”デブ好き”らしく、社内で開催する彼女の誕生日パーティで、サプライズで登場してほしいというものでした。初っ端からマニアックな依頼が来たなと思いましたが、やるからには本気。会場には最高の笑顔で登場しました。パーティは最高に盛り上がって、僕もすごい充実感を感じました。日常生活でデブは肩身が狭いんです。電車で座っているだけで隣の乗客に舌打ちされることも少なくない。それがあの日は、まるで芸能人が来たかのような歓声と拍手で迎えられて、そこにいるだけで皆を笑顔にできる。”デブ”の可能性を感じました」

ゆりん氏「私は登録してから3週間後に依頼が舞い込みました。名古屋からの男性で、お食事デートをしたいということでした。レンタル時間は5時間ほどで、高級焼肉店でご馳走になりました。この方に限らず、新幹線や飛行機で地方からはるばるいらっしゃる方も少なくないです」

すぐさま売れっ子となった二人だが、依頼内容は対照的だ。

あまやん氏「僕の場合は”デブ”という役割の依頼が多いですね。たとえば、バラエティ番組の企画で、ボートにデブを10人乗せたらウォータースライダーで何mの水しぶきが上がるのか、という検証に協力しました。ほかには、屋台やお祭りの出店からの依頼も多いです。焼きトウモロコシの出店から、『店先でひたすら美味しそうにトウモロコシを食べ続けてくれ』という『サクラ』の依頼もありました。『招きデブ』の効果なのか、おかげさまで店には行列ができました。」

ゆりん氏「私は一対一のデートの依頼が多いです。依頼主は男性が多いですが、女性の場合は『気になる飲食店に一緒に行きたい』という方が多いです。食事以外では一緒に映画を見に行ったりしています。私くらいの大きさになると、映画館のプレミアムシートにも収まらないので、いつもソファー席で見ています。リピーターも多くて、地方から月一でいらっしゃる方もいます。デブカリを通じてデブを必要とされている方が意外と多いことを知り、”デブ”でいることに対してポジティブになりました」

デブカリに登録され続けるためには体重を100キロ以上にキープし続けなければならない。そんなサイトに登録していることもあってか、「太り続けなければいけない」というプレッシャーがかかっているという。

あまやん氏「デブカリは体重100キロ以上が売りのサービスなので、体重を落とさないように金曜のお昼はしゃぶしゃぶ食べ放題に行くのがルーティーンになっています。僕のマックスは120キロですが、今は110キロほど。体重100キロを超えてくると、10キロくらいはかんたんに上下します。特に僕はサウナ店勤務なので、油断するとすぐに100キロを切ってしまうので、太り続けなければならないというプレッシャーがスゴイです」

ゆりん氏「わかります。体重10キロは犖躡広瓩任垢茲諭世の中の人は2、3キロくらいで『太った』『痩せた』と騒いでいますが、”デブ”になると一日で10キロくらい体重が上下します。私は一日三食というよりは、お腹がすいたらその都度食べるという生活をしています。ご飯はお米だったら2合は食べています。1合未満は食べていないのと一緒です。パンも麺類も何でも好きですが、野菜などいわゆるヘルシーな食材はほぼ食べないですね。立ち上がったときにヒザや足の裏に痛みが走ったら、体重が10キロ以上増えているサイン。そのときには気休めで野菜を食べたりしつつ、その後にジャンクフードやお菓子を食べています。私は”デブ”のなかでは小食だと思いますが、高カロリーの食材と、200m先でもタクシーを使うような動かない生活で体形を維持しています」

一方で健康面の不安は常につきまとう。「痩せたい」と思うことはないのだろうか。

ゆりん氏「どこに行っても痩せろと言われるんですよね。お医者さんは10年寿命が縮むと。でも実は血液検査の結果は毎回いいんです。血糖値やコレステロール値も正常値で、体重以外は健康体。今後も健康でいられるかはわかりませんが、痩せたら仕事がなくなってしまう。いつまで”デブ”を続けていくか、葛藤する気持ちは正直あります」

あまやん氏「僕は『デブに定年なし』だと思っています。たとえば高カロリーのものを食べていても、野菜を人の倍の量食べればプラスマイナス0になるんじゃないか。病気にならない程度にふくよかな体形を維持する道を模索しています。今、興味があるのは商品開発ですね。デブカリメンバーで考案した高カロリー弁当とか、1000kcal超えしかないレストランとか、”デブ”を活かした仕事はまだまだあると思います。引き続き”デブ”の可能性を追い求めていくつもりです」

独特の仕事や価値観を持つデブの世界。より詳しく知りたい読者は試しにデブカリを試してみるといいだろう。

取材・文:芳賀慧太郎