保護者の「おもしろい!」という思いが、子どもが理科好きになるきっかけになります(写真:metamorworks/PIXTA)

子育てをしているとたくさんの悩みの壁にぶつかるでしょう。とくに、「勉強」の問題がちらつくと、その悩みはより複雑になっていきます。先行き不透明なこれからの時代では、どんな生き方を選んでも「学び続ける姿勢」が求められます。この姿勢を育むためには、親のかかわり方が重要だといいます。

「自ら学び続ける子に育てる」にはどうしたらいいのでしょうか? 『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIX(サピックス)だから知っている 頭のいい子が家でやっていること』より一部を抜粋のうえ本稿では、「理科」ができるようになる子の習慣についてお届けします。

親自身の「好き」や興味関心を子どもと共有する

皆さんは、自然や科学の不思議に興味があるでしょうか?

珍しい植物につい足を止めて見入ってしまう、宇宙についてのドキュメンタリーは時間を忘れて観てしまう、科学館は子どもよりも楽しんでいる。そんな好奇心のある保護者は、子どもと一緒に理科を楽しむことができます。

理科に限ったことではありませんが、そもそも自分が興味のないことを他者にすすめても、なかなかうまくはいかないものですよね。

保護者の「おもしろい!」という思いが、子どもが理科好きになるきっかけになります。

SAPIX小学部で理科を教えている森本洋一先生は、「理科が好きな子を育てたいならば、まずはお父さんお母さんが理科に興味をもつことが大事」と言います。

たしかに、一番身近で大好きなお父さんお母さんが興味をもっているものであれば、子どもも一緒に覗き込みたくなるものでしょう。
 
しかし、大人は日々の忙しさのなかで、自分が何に関心をもっているのかを忘れてしまっているかもしれません。

まずは少し立ち止まって、自分の興味に目を向けてみてはいかがでしょうか。「自然が好きだからキャンプが楽しいかもしれない」「そういえば星が好きだった。久しぶりにプラネタリウムに行ってみたいな」と気づくこともあるでしょう。こうした「好き」を子どもと共有していくことが学びの第一歩となります。

ここでは、理科を学ぶことで育まれる力や、理科を楽しめる子どもにするために家庭でどうアプローチすればいいのかを森本先生にお伺いしました。

博物館や科学館などのミュージアムへ行くべき?

× 子どもの学びになりそうなミュージアムへ行く
○ 自分(保護者)が興味のあるミュージアムへ行く

⇒子どもと一緒に「準備」すると学び効果アップ

親子で博物館や科学館などのミュージアムへ行くことも、理科に興味をもつきっかけになります。ただ、ここでも大事なことは、まずはお父さんとお母さんがミュージアムでの展示内容に興味をもつことです。

「お母さん、この企画展に興味があるんだけれど付き合ってくれない?」と子どもを誘ってみましょう。大人が興味を抱けないものを、子どもに押しつけるのは逆効果です。
 
博物館や科学館に行く際には、事前に興味関心を抱ける準備をしましょう。「予習」だと考えると身構えてしまいますが、遊びに行く予定の博物館のホームページを眺めたり、「どこに興味をもったのか」を保護者が話したりするだけでも子どもの関心が違ってきます。関連する絵本や図鑑を眺めてみるのもいいですね。

事前に準備をしておくと、実際に足を運んだ際に印象に残りやすくなります。

ただ、実際に行ってみると、子どもは博物館や科学館を全然楽しめないかもしれません。ときにはそんな子どもの姿をみて、「好きだと思ったのになー」とがっかりしてしまうこともあるでしょう。

1回ミュージアムに行っただけで結果を求めるのはNG

しかし、子どもとはそういうものです。発達段階に合わなかったのかもしれませんし、まだ興味につながるほどの知識を子どもがもっていなかったのかもしれません。

だから、そこまで重く受け止めず、「まあ、私が楽しかったからいいか」「もう少し大きくなったら、もう1回行ってみようかな」くらいの気持ちでとらえられるといいですね。そういった意味でも、まずは大人が楽しむことが大事なのです。

遠い場所にあるミュージアムの場合には、何度も足を運ぶことは難しいかもしれませんが、可能であれば、同じミュージアムへ何回か行ってみるのがおすすめです。そのほうが、子どもの印象に残りやすくなります。

博物館や科学館に1回行っただけで、すぐに結果を求めるのはよくありません。初回のタイミングでは、「何かおもしろいことないかな」と探しに行くくらいの気持ちで見学してみましょう。

理科に関係する本や図鑑をどうやって読ませる?

△ 自分(保護者)は読んでいない本や図鑑を子どもにすすめる
〇 子どもが理科に興味がなくても本や図鑑を家に置いておく

⇒テレビや本で理科への好奇心につながる環境をつくる

正直なところ、何が子どもの理科への関心をくすぐるかはわかりません。そのため、大切なことは理科につながる仕掛けをちりばめた環境をつくることです。

例えば、自然科学系のニュースやドキュメンタリー番組を観ながら、ご家庭で話してみるのもいいでしょう。

環境問題は学校でもよく取り上げられ、入試問題にも頻出します。また、世界では若い環境活動家が登場し、子どもたちの関心が向きやすいトピックでもあります。

また、動物のドキュメンタリーや宇宙についての特集などもテレビでよく放映されていますよね。一緒に楽しみながら、「どこがおもしろかった?」「じゃあ、調べてみようか?」「お母さんはここが印象に残ったな」とコミュニケーションを取ってみてください。

ほかにも、子どもが手に取れるところに図鑑を置いておいて、「調べたいな」と思ったときにさっと開けるようにしておくといいですね。

理科に関係する本を図書館で借りてきて、家に置いておくのも一つの手です。お父さんお母さんが読んで、「ねえ! これ、とってもおもしろかったよ!」と伝えれば、子どもは多かれ少なかれ関心を向けるはずです。

本をすすめる際に注意したいのは、保護者がその本を読んでおくことです。すすめた本に関する話題を共有できないと、子どもが関心をもちにくいでしょう。

家庭で理科に関係する事柄に触れる機会が多いほうが、子どもが理科の分野に関心をもつ可能性が高まるのは事実です。

とはいえ、なかにはまったく興味が向かない子もいるでしょう。関心のなさそうな子も、何がきっかけになって理科が好きになるかはわかりません。あきらめずにいろいろなトライをしてみてください。

何度かお話ししてきましたが、興味関心はすぐに育つものではないことを念頭に置いておきましょう。もしかしたら、興味がでるタイミングがちょっとズレていただけかもしれません。

中長期のスパンで考えて、子どもがさまざまな事柄に触れ、考えられるような家庭環境をつくっていきましょう。

植物や動物のお世話をまかせきりにするのはNG

植物や動物に興味をもたせるには?

× 植物や動物のお世話を子どもにまかせきりにする
〇 植物を置いたり動物を飼ったりすることを保護者が楽しむ

⇒昆虫を捕まえて数日間飼ってみる方法も

家族で植物を育てたり動物を飼ってみたりすることも、理科への好奇心を育むきっかけになります。

その際、子どもに植物や動物のお世話をすべてまかせきりにしてしまうと、子どもにとって「面倒くさいこと」になってしまいかねません。

やはりここでも、お父さんお母さんが楽しんで動物を育てたり植物の成長を観察したりする姿をみせるのが大切です。

気軽に自宅に置けるのは植物なので、ぜひトライしてみてください。「新しい芽がでてきたね」「かわいい蕾ができた」などと観察しましょう。

もしくは、家庭菜園もいいですね。育てた野菜を食卓に並べて、お父さんお母さんが「おいしいね! これはうまくできた!」と喜んでいたら、子どもも興味をもつはず。子どもが「今度は一緒にやってみたい」と思える保護者の振る舞いが大事です。

また、動物を飼いたい気持ちはあるものの、ペットとして犬や猫を飼うのが難しいご家庭も多いでしょう。

その場合には、自宅周辺で昆虫などを捕まえて、数日から1週間飼って観察してみる方法もあります。「あとで、もとの場所に返してあげようね」という約束をして、子どもと一緒に生物と過ごす時間を楽しんでみましょう。

ただし、外来種は捕まえて飼ってはいけないものもあるので注意してください。事前に調べておきましょう。

植物や動物と一緒に暮らすことで、生物がずっと身近な存在になります。

虫を観察していると、「何を食べるかな?」「水はどのくらい必要だろう?」「葉や土も入れたほうがいいかな?」「虫も寝るのかな?」「元気がない原因はなんだろう?」などたくさんの疑問が生まれます。

そうした気づきや疑問をすくい上げていくことが、理科が好きになる種をまくことにつながっていくのです。

料理は「生物分野や化学分野」と深い関わりがある

生物や化学分野の学びを身近に感じさせるには?

× 料理などのお手伝いは極力させない
〇 月に2回ぐらい「料理デー」をつくり、子どもと一緒に料理を楽しむ

⇒中学入試では料理に関する問題が頻出する

子どもと一緒に家事をする機会はありますか?


最近ではキッチンに立ったことがない子が増えてきました。子どもの仕事は勉強と遊びだけと決めてしまって、お手伝いをする時間が減っているのかもしれません。

料理を手伝う機会がないと、キッチンに置いてあるものを知らないままになってしまいます。

例えば「みりん」の存在を知らない子は、少なくありません。何に使うもので、どんな味がして、どのような効果があるのか。料理をしていれば自然に学んでいくことも、現代の子どもたちは知る機会が少なくなっています。
 
お手伝いには、たくさんの学びがあります。洗濯をする際には、いろいろな種類の洗剤を使い分けていますよね。漂白剤や中性、アルカリ性、合成界面活性剤不使用のものなど、それぞれ仕組みや用途が違います。例えば、「アルカリ性の洗剤は、どうして○○の効果が期待できるのか」という視点は、まさに理科そのものです。
 
家事のなかでも料理は、理科の生物分野や化学分野などと非常に深い関わりがあります。そのため、料理は理科に興味をもったり知識を広げたりするのにうってつけの体験です。

ただ、毎日子どもと一緒に料理をすることは難しいですよね。そこで、例えば「今日は料理デーだ!」と月に2回ぐらいのイベントにして実施してみてはいかがでしょうか。1品だけ「チャレンジ料理」として子どもと一緒につくるのもおもしろいでしょう。

家事をイベント化することで、子どもは特別感を覚え、忘れがたい経験になるという効果があります。

中学入試においても料理の問題は頻出します。

鮭の切り身が、鮭全体のどの部位に当たるのかを問う問題、料理後の野菜の状態とスーパーで販売されている加工前の野菜とを紐づける問題、旬の食材を答える問題など、多様な出題がなされます。加工や調理済みの状態しか見たことがない子どもは、こうした問題に太刀打ちできません。

コロナ禍になり、子どもと一緒にスーパーへ足を運ぶのが難しい時期がありました。毎回でなくてもいいので、子どもが食品の売られている状態をスーパーで見る機会を設けてあげるのもいいですね。その際、旬の食材なども確認することができます。

(佐藤 智 : ライター・教育コラムニスト)