パワハラ防止法以降、パワハラは減少したといいますが、嫌な人がいなくなったわけではありません(写真:mits/PIXTA)

改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が施行され、大企業は2020年6月から、中小企業は22年4月から「ハラスメントへの防止措置」が義務づけられました。この結果、一時期と比べると、職場での「パワハラ」は減ってきましたが、完全になくなったわけではありません。「パワハラ」と認定されるまではいかなくとも、どの職場にも、必ず1人は「嫌な人」がいるものです。

弁護士の後藤千絵さんは、離婚や相続などの家事事件を中心に相談を受ける弁護士。近年は家族間の「モラハラ」だけでなく、職場やコミュニティでの「モラハラ」に関する悩み相談が増えていることから「職場の嫌な人による嫌がらせ行為」に悩む人たちのために、自分を守る「言葉の護身術」を考案しました。『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)から一部をご紹介します。

前々回の記事では、「職場の嫌な人」の7つのタイプについて紹介いたしました(7つのタイプについてこちら

手柄を自分のものにする上司

さて、上司に手柄を横取りされたことがある人は、少なくないでしょう。せっかく下準備から根回しまで一生懸命やって成功したのに、「俺がやった」とばかりに上に報告する上司は、少なくありません。

残念ながら世の中には「手柄は自分のもの、失敗は部下のせい」という最低の上司がいるのです。

このような上司は、「もっとほめて! もっと認めて!」という承認欲求が高い「かまってちゃん」タイプに多いようです。こんな上司の下にいる限り、いつまでたっても、あなたの努力が日の目を見ないこともありえます。どうすればいいでしょうか?

《実例》
Nさんの上司Oさんは、「手柄を横取りする」典型的な嫌な上司でした。Nさんが1人で開拓した新規取引先に対して、Oさんは何のフォローもしませんでした。そのくせ、最後の契約のときだけは同行し、上にはあたかも自分が新規開拓したかのように報告をしたのです。

また、とくに質のいい優良な取引先だと判断すると、Nさんが担当だったにもかかわらず、なかば強引に自分を担当者にすることもありました。Oさんの手柄の横取りは、ある意味徹底していました。Oさんは、すべてそのやり方でのし上がってきたのです。

《言葉の護身術》
「この件、貸しですよ」と、軽く釘を刺す

Nさんとしては、Oさんに手柄を横取りされてばかりでは、面白くありません。そこでNさんが考えたのが「一言釘を刺しておく」という方法です。

釘を刺すといっても、上司であるOさんに「僕の手柄を横取りするのはやめてください」などと、相手をあからさまに責めるのは得策ではありません。

この場合、冗談ともとれるような軽いノリで言うことがポイント。決して上司に対し、敵意をむき出しにしてはいけません。たとえば「この件、貸しですよ〜」「今度、おごってくださいね」「忘れませんからね」などと、あっさりと一言だけ釘を刺しておくのです。

冗談を言うような軽いノリではありますが、その言葉に込められた真意は、「いつまでも黙っていませんよ。覚えていますよ。あんまりなめないでくださいね」というシビアなもの。そのアピールによって、Oさんに無言のプレッシャーを与えたわけです。

Nさんからそう言われたOさんは、「何のことだ?」などととぼけていましたが、Nさんが「またまた〜、とぼけないでくださいよ!」と返すと、それ以上は反論してこなかったといいます。Oさんも心の中では、Nさんの手柄を横取りし、自分の功績にしているのは十分にわかっているのです。

Nさんが「いつまでも黙っていませんよ」とアピールしたことで、少なからず脅威に感じたのでしょう。それ以来、たまにおごってくれたり、いい案件を回してくれるようになったそうです。

このように、手柄を横取りするようなやっかいな上司には、一言釘を刺しておく言葉の護身術がかなり有効です。

「いつまでも黙っていませんよ」「あんまりなめないでくださいね」とアピールすることで、上司が好き放題するのをやめさせる抑止力になります。ただ、相手は上司ですから、深追いは禁物です。あくまで一言だけにとどめておきましょう。

上司から失敗を押しつけられたら?

上司や先輩から、失敗を押しつけられそうになった人は少なくないでしょう。あからさまに押しつけられることもあれば、知らないうちに自分のせいになっていて愕然としたという人もいると思います。

世の中には、失敗を他人に押しつけても全然へっちゃらで、罪悪感のかけらもない人がいます。

そんな人に失敗を押しつけられたままでは、腹が立ちますよね。そんな時には、泣き寝入りをしないで、毅然と抗議をすべきです。ここでは、そんな場面で有効な「言葉の護身術」を紹介します。 

《実例》
Cさんの上司Dさんは「手柄は自分のもの、失敗は部下のせい」という最低の上司でした。Cさんは、「Dさんが転勤するまで、我慢我慢!」と呪文のように唱えて、何とか日々の業務をこなしていたのですが、どうにも我慢できない事件が起こってしまいました。

Dさんは大きな取引先相手の仕事で失敗し、役員から大目玉を食らってしまったのですが、Cさんにすべての責任を押しつけようとしてきたのです。卑劣なDさんに心底怒りを覚えたCさんは、自身の無実をはらすべく証拠を集め、社長に直談判のメールをして潔白を証明することを決心しました。

《言葉の護身術》
上司にとって、言われたらゾッとする言葉とは何でしょうか?
実は、Cさんはそうした言葉を上司のDさんに投げつけたのです

「Dさん、僕のこと、あんまりなめないでくださいね」「泣き寝入りは絶対にしませんので!」「僕はしつこいんですよ。絶対にあきらめませんから、覚悟しておいてください」

本気でぶつかることも、ときには必要

Cさんから立て続けに発せられたそれらの言葉を聞いて、Dさんは絶句をしたそうです。そして、しばらくしてから、「俺はおまえのせいにしたつもりはなかったんだ……」と言い訳がましく、弁解をしたといいます。

しかし、Cさんは、「Dさんの言葉には誠意が感じられないんです」と一蹴しました。


その後、Dさんは観念したのか、すべてを認め部長に報告をしたようです。Dさんは地方に左遷され、Cさんはおとがめなし。Cさんの潔白が証明されたのです。

Cさんの覚悟を決めた反撃の言葉を聞いて、Dさんは真っ青になっていたそうです。Cさんが本気で投げかけた言葉だったからに違いありません。

ほかに、上司にとって言われたらゾッとする言葉としては、「部長、担当役員に直訴します!」「あったこと全部、人事に言いますから」「社長に直談判をします」などのバリエーションがあります。

会社員にとって、上司や人事部を巻き込んで争う覚悟があると言われることは、絶体絶命のピンチです。

だからこそ、効果は絶大ですが、これらはかなりきつい表現になります。上司との関係を見極めながら、最終手段として、上手に使っていただきたいと思います。

(後藤 千絵 : 弁護士)