この記事をまとめると

■日産GT-Rは2007年の登場時「777万円」で販売されていた

■2023年1月に発表された2024年モデルでは1375万〜2915万円の価格帯となる

■国産車として見ればかなり高額ではあるが世界のライバルと比較すると妥当ともいえそうだ

出た当初はたった「777万円」で狙えたGT-Rの現在

 日産のスポーツフラッグシップ「GT-R」は、2024年モデルにおいて空力性能を見直すなど、遠目にもエクステリアで24年モデルと判別できるほどの大きな進化を遂げている。

 さらに注目したいのは、最新の車外騒音規制をクリアするために新構造マフラーを開発していること。そこまでしてGT-Rを続けるという日産の姿勢は、規制などの外的要因を理由にスポーツカーを止めてしまうメーカーへのアンチテーゼともいえよう。

 もっとも、次なる大きな規制としては「AEBS(衝突被害軽減ブレーキ)」の義務化が待っている。こちらは継続生産車であっても2025年内には対応することが求められており、いよいよGT-Rにとって現行のR35型のままでは存続するのが危機的となるかもしれない。

 それはさておき、2024年モデルのGT-Rは、国産車としては驚くべき高価な価格帯となっている。標準系グレードのメーカー希望小売価格は1375万〜2138万700円。パフォーマンスアップしたNISMOグレードに至っては2865万600〜2915万円なのだ。

 2007年10月にR35型GT-Rが初登場したときのメーカー希望小売価格は、エントリーグレードで777万円だった。当時の消費税は5%で、現在は10%という違いはあれど、ユーザーの感覚的にはGT-Rの価格は標準グレードでも1.8倍、最上級バージョンでみると3.7倍になったといえる。

 たしかに最高出力でいえば、最初期のGT-Rでは353kW (480馬力)/6400rpmだったのに対して、最新のGT-Rでは419kW(570馬力)/6800rpmとなり、NISMOにおいては441kW(600馬力)/6800rpmとなっている。

 パフォーマンスこそがスポーツカーの価値だとすれば価格アップも理解できる。とはいえ、パワーアップの度合いを計算すれば、初期モデルとNISMOを比べても1.25倍であり、価格の上がり幅は納得できないというユーザーもいることだろう。

2倍の価格になっても世界中から求められる声は年々増加中

 そもそも、GT-Rは16年以上に渡り、基本的なアーキテクチャは変わっていない。

 前述したように、最新モデルでは空力性能を向上させているしパワーも上がっている。モノコックボディについても2017年モデルでCピラーの形状が見直されたように改良は進んでいる。

 しかしながら、VR38DETT型3.8リッターV6ツインターボをフロントに置き、リヤにGR6型デュアルクラッチ6速トランスミッションを配するというパワートレインの基本構成は変わっていない。

 一般論でいえば、同一のアーキテクチャでここまで価格が上がってしまうというのは信じがたい部分もある。部品という意味での「原価」がそれほど上がっているとは考えづらいからだ。もっといえば、ロングセラーモデルであればもろもろの金型などが減価償却を迎え、帳簿上のコストも下がっている面があるだろう。

 実際、GT-Rとほぼ同時期にレクサスIS Fというハイパフォーマンスバージョンが登場している。5リッターV8エンジンと8速スポーツATを組み合わせたIS Fの当時価格は766万円で、GT-Rとほとんど同じ価格帯だった。

 そして、2022年にISにふたたび5リッターV8エンジンを積んだ「IS500 F SPORT Performance」が復活したが、その価格は850万円となっていた。これは、IS F比で1割増しといったイメージだ。似たようなハードウェアのスポーツモデルとして考えれば、レクサスの値付けは妥当だ。

 つまり、GT-Rが商品企画の本質を変えずに進化していたとすれば、NISMO版は別としても、標準グレードは1000万円くらいにとどまっているはずなのだ。

 逆にいえば、16年間の歴史においてこれほどまでにGT-Rのメーカー希望小売価格が上がっているというのは、商品企画、ターゲットユーザーが変化したと考えるべきだろう。もっとも、それは悪い意味ではない。

 ご存知のように、GT-Rの初期コンセプトを象徴するキーワードは「マルチパフォーマンス・スーパーカー」というものだった。「誰でも、どこでも、どんな時でも最高のスーパーカーライフを楽しめる」ためにトルクスプリット4WDや2ペダルのトランスミッションを採用したという面もあるだろう。

 しかしながら、この初期コンセプトに掲げられた「誰でも」の条件としては、スーパーカーを購入できる資金力が大前提なのも事実だろう。

 国産スポーツカーとして地道に進化させるのであれば、いまのGT-Rは1000万円程度の価格帯を狙うべきかもしれないが、日本を含めて世界的に富裕層が増加している(格差が大きくなっている)ことを鑑みれば、V6エンジンのマルチパフォーマンス・スーパーカーとしては2000万〜3000万円が妥当な価格帯ともいえる。

 あくまで想像というか妄想であるが、現在のGT-Rはスーパーカーの購入層をターゲットに商品企画を進めているのだろう。対象となるのは2000万円以上をクルマに出せるユーザーであり、そうした目の肥えたユーザーが欲しくなるような品質感やストーリーがGT-Rには求められる。言い方を変えれば、GT-R NISMOは3000万円を出したくなるようなスーパーカーをリーズナブルな価格で提供しているクルマといえるのかもしれない。