黒田博樹氏は1997年4月25日の巨人戦で、プロ初登板を完投勝利で飾った

 日米通算203勝を挙げたレジェンド右腕、黒田博樹氏は1996年ドラフト2位で広島に入団した。日本を代表する投手となり、世界へと羽ばたいて成功を収め、最後は古巣でプレーという野球人生を送ったが、入団時に1軍バッテリーコーチだった道原裕幸氏(現・大野寮長)は「彼の1軍デビュー戦の1球目がずっと頭にある」と振り返る。対戦相手の巨人1番打者・仁志敏久氏が初球に手を出さなかったら、と思うことも度々だという。

 1997年4月25日の巨人戦(東京ドーム)が黒田氏のデビュー戦だった。結果は初登板、初先発、初勝利、初完投の初づくし。広島が6-1で勝利したが、この試合、道原氏は「全体的に不安だった。黒田は初めて投げるし、コントロールは大丈夫だろうか、ストライクが入るだろうかって心配していた」という。そうした“負のムード”が一変したのが初回先頭打者の場面だった。「いきなりカーンと打ってくれてセカンドゴロ、ああよかったぁ、助かったぁって思いましたからね」。

 道原氏は「あの時、あのボールを仁志が見逃して、粘ったりして、それこそ四球を選んで出塁したりしていたら、どうなったかわからないですよ」と話す。たかが1球ではない。あれがあったからリズムに乗れた。勝利投手になっていなかったら、黒田氏の野球人生も「変わったかもしれないですよね」とまで口にする。それほどまでに重要な1球だった。道原氏は今でもそう思っている。

広島入団当時、前田健太は「朝食を一生懸命食べていた」

「入団した時から1位の澤崎(俊和投手)は即戦力だが、将来は黒田の方がいいだろうって言われていたと聞いていた。そう考えたら、その通りになりましたよね」。スカウトたちの見立ても当たったわけだが、どうしても最初の1球を思い出してしまう。もっとも、そういうところをうまく乗り越えたのも実力のうちということか。

 黒田氏同様にカープからメジャーに渡ったのが2006年高校生ドラフト1巡目指名の前田健太投手(ツインズ)だ。「彼の場合は最初から投げて良し、打って良し、守備も良し。これはいい、1軍で使えるんじゃないかって2軍の監督にだったかな、言ったことがありましたよ。でも、これは翌年から使う。もうちょっと待つと言っていた。上の方も我慢したんでしょうね」。前田は2年目の2008年に9勝2敗。当初の育成計画通りに進行させて大正解だった。

「前田健太がルーキーの時、僕は2軍バッテリーコーチだったから、(2軍の)大野寮にも早い時間から行っていたけど、朝飯でお茶漬けを食べていたのも覚えてますね。朝食は絶対食べなければいけないのがルールですから、一生懸命食べてましたよ」と道原氏。「今の選手にも言いますよ。マエケンも朝はちゃんと食べていたぞってね」。メジャーリーガーの若かりし頃の話は“教材”にもなっているわけだ。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)