3大会14年ぶりに侍ジャパンが3度目の優勝を決めた2023 WORLD BASEBALL CLASSIC(2023 WBC)。準決勝のメキシコ戦で、それまで不調だった村上宗隆が放った渾身のサヨナラ打といい、決勝のアメリカ戦で、大谷翔平がマイク・トラウトから三振を奪い優勝を決めたブーメランのようなスライダーといい、名場面に事欠かない素晴らしい試合ばかりだった。大いに盛り上がった今大会だが、テレビや関連製品の売り上げにはどう影響したのか。全国2300店舗の家電量販店やネットショップの売り上げを集計するBCNランキングで明らかになった。

 オリンピックやサッカーワールドカップなど、大きなスポーツイベントで売り上げの拡大を期待されるのがテレビだ。現在はコロナ禍特需の反動減による前年割れに苦しんでおり、回復への起爆剤が欲しいところ。果たして2023 WBCで売り上げは伸びたのか? 結果は、振るわなかった。期間中の販売台数前年比は、78.0%に終わった(曜日を合わせるため今年3月9日木曜日〜3月22日水曜日と昨年3月10日木曜日〜3月23日水曜日の販売台数で比較、以下同)。2023 WBC優勝でも、テレビは反転攻勢のきっかけをつかめなかった。

 年々大型化しているテレビ。2月現在で平均画面サイズは43.4。「決勝戦をきれいな画面で」と思い立って販売店に買いに出かけても、その日に大きなテレビを持ち帰るのは車で行っても大変だ。さらにコロナ禍で自宅時間が増え特需が発生。「すでにテレビを買い替えてしまった」というユーザーも多いだろう。そして、いわゆる「テレビ離れ」。「テレビがなくてもスマートフォンやタブレット、PCで動画コンテンツを楽しめるからそれでいい」とする消費者が増えているようだ。現在進行中のスポーツ大会で、応援するチームの好調を理由にテレビを買いに走る、という現象は起きにくくなっている。

 とはいえ、侍ジャパンが全勝優勝を飾った2023 WBC。売上が急増した製品もある。Googleクロームキャストだ。テレビにつなぐとネット動画を楽しめる。大会期間中の販売台数前年比は95.7%とマイナスだったが、準々決勝ラウンドに突入した16日のイタリア戦以降は、前年比で114.1%と2桁増を記録した。テレビは同期間で76.4%に終わっているだけに、大きな伸びだといえる。日次の販売推移を見ても前年比で3割以上の大幅増を記録した日が3日もあった。

 WBCの日本戦は全試合地上波で生中継されたが、ストリーミング配信のamazon prime videoでも生中継された。クロームキャストなど対応機器をテレビにつなげば、リアルタイム視聴に加え後から見返すことも可能だ。中国、韓国、チェコ、オーストラリアと一次ラウンドで快進撃を続けた侍ジャパン。それまで見逃した試合も振り返りつつ、生でも楽しもうと考えた視聴者が多かったのではないだろうか。名場面は何度でも繰り返し見たい、そんなニーズにもストリーミング配信は応えてくれる。

 ビデオリサーチの調べでは、2023 WBC 日本戦全7試合の生中継を地上波放送で視聴したのは延べ9446.2万人。昨年のサッカーワールドカップでは全41試合で延べ9327.7万人だったことから、2023 WBCでは地上波は健闘したといえるだろう。しかしテレビ本体の売り上げは増えなかった。テレビへの接続が前提の安価なデバイスとはいえ、ストリーミング用途の製品は売り上げが伸びた。視聴者の目線はオンラインにシフトしている。テレビを筆頭に、コンテンツ視聴機器の活性化には、オンラインを主、放送波を従とする大胆な製品戦略の転換が必要になってくるだろう。(BCN・道越一郎)