WBCの熱狂の陰で、ウクライナへの電撃訪問を果たした岸田文雄首相。帰国後は侍ジャパンのメンバーと官邸で面会するなどご機嫌だ。だが、岸田氏の外交姿勢に関して、姿勢を疑われるような事実も発覚した。首脳同士の絆を強め、両国の関係強化を促すために、実は極めて重要な役割を持つ、贈り物についてだ。ジャーナリスト・小倉健一氏が解説する。

「必勝」「岸田文雄」の署名入りしゃもじとともにウクライナ入国

 岸田文雄首相がウクライナの首都キーウを訪問した際、ポーランド南東部プシェミシルの駅からキーウ行きの列車に乗り込む首相をとらえたNHKの映像に、日本政府関係者がうまい棒の段ボール箱を運び込む様子が映っていた。産経新聞(3月23日)によれば「箱の中身は、首相の地元・広島県の宮島で作られた50センチ大の「しゃもじ」だという。しかも、ゼレンスキー氏宛てに『必勝』の文字と『岸田文雄』の署名入り。しゃもじは『敵を召し(飯)取る』との意味で、験(げん)担ぎにも使われている。首相はロシア相手に勝利できるよう、ゼレンスキー氏にエールを送った」のだという。

 地元のしゃもじ。ゼレンスキー大統領は、お米をよそう物品が足りていなかったのだろうか。しゃもじの他の用途としては、高校野球の甲子園球場の応援席で、それこそ、地元広島県の高校の応援団がしゃもじを鳴らして応援をしていたのを記憶しているが、ゼレンスキー大統領がそのような用途で用いるとも思えない。これには自民党内からも「千羽鶴を被災地に送るようもので、これって受けとる人によっては、ただのゴミなのでは」と疑問の声があがっている。

 いったい、なんのつもりでプレゼントをしたのだろう。

外交辞令として重要な贈り物…小泉時代は弓で心をつかみ、菅(義偉)時代には「あつ森」も検討

 外交儀礼としての贈り物については、これまで日本の首相は、細心の注意を払って用意をしてきた。そのすべてが明らかになっているわけではないが、たとえば、小泉純一郎政権の時に総理大臣首席秘書官を務めた飯島勲氏はこんなことを明かしている。

「小泉元首相と米国のブッシュ元大統領の親密な関係には、この毎回のプレゼント交換も重要な役割を果たしたと考えている。私にとって一番思い出深い贈り物は、小泉首相の地元、神奈川県の鶴岡八幡宮で用意した弓だ。読者の皆さんも、小泉元首相時代の日米首脳会談というと、米国の大統領の別荘であるキャンプデービッドを訪問して2人でキャッチボールを披露した初訪米の印象が強いかもしれない。しかし、史上最高の日米関係といわれる小泉・ブッシュの絆をつくったのは、2001年9月の2回目の訪米でのこの弓だと考えている」

 ブッシュ元大統領は1994年にテキサス州知事に立候補したが、メディアでの下馬評は低く、苦戦を余儀なくされていた。そんなときに、ブッシュ元大統領の知人が日本の明治神宮で勝利祈願をした破魔矢を贈ったという。ブッシュ元大統領は毎日その破魔矢に願をかけ、見事テキサス州知事に当選した。

「私はバイデン大統領のことを調べて、とっておきの情報を入手していた。大統領は孫の影響で日本のゲーム『あつまれ どうぶつの森』にハマっているという。実は、菅(義偉)首相にも、寝る前の短い時間でいいからゲーム機を触ってみてくれと伝えたのだが、訪米前にチャレンジしてくれただろうか。お堅い苦労人だと思われている菅首相がいきなり『あつ森大好きなんですよ』と話しかけたら、絶対に大統領の心をつかめたはずだ。実務家のベテラン政治家2人で『あつ森』について語り合う時間は、最高のプレゼントだと思う」(引用は『プレジデント』2021年6月4日)

地元の特産品をゼレンスキーに送ろうとする感覚…外交ではなく選挙対策か

 菅前首相からバイデン大統領へのプレゼントが実現したかどうかは確認できないものの、相手が好むものを徹底的に調べ上げて、用意周到にプレゼントをしていることがわかる。今回の岸田首相のプレゼントは、小泉元首相と同じく「勝つ」という趣旨の縁起物だということで選ばれたのだろうが、実際に、ゼレンスキー大統領が欲しいと考えていた可能性は、しゃもじの存在を知っているはずがないため、ゼロだ。

 渡されれば、マナーとして「Спасибі/Дякую」(ウクラナイ語で、ありがとう)とゼレンスキー大統領は言うのだろうが、結婚式の引き出物で新郎新婦の名前が大きく書かれたお皿や時計をもらうぐらいに不要なものだ。

「援助をあげるんだから歓迎されて当然だよ」ぐらいに、ウクライナを軽く見ている態度が透けて見える。そもそも「地元の名産品」というのも、センスが悪すぎる。外交を使った選挙対策ではないかと疑念を抱かせるようなことはしてはいけないと思う。ウクライナは今、必死でロシアと戦っているのだから、余計な疑念を持たれるようなことは厳に慎むべきだろう。

 地元の政治利用という意味では、G7サミットが開催される広島にも同じことがい言える。ロシアの核兵器使用、および、核兵器を使用するぞという脅しを容認しない姿勢を示すために「広島」という地を選んだというが、だったら長崎でもよかったはずだ。ここでもわざわざ自分の地元を選ぶということに、世襲政治家の特徴が極めて大きく出ている。現役の首相たる岸田首相が選挙に落ちることは考えられないが、息子の翔太郎氏、そしてその次の世代へと世襲政治を続けるには大きなアドバンテージとなったことだろう。

 話は、少し脱線するが、日本の政府専用機で、海外を訪れたときは買い物をしても免税されない。これはエアフォースワンには免税に必要なフライトナンバーがないためだとされている。翔太郎氏は、ロンドンの高級百貨店でネクタイを買ったというが、免税にならなかったネクタイを大量に購入したのだろうか。外国での国家公務員の買い物は厳しくチェックされているはずで、そのあたりの詳細がこれから明らかになることを望んでいる。翔太郎氏は、免税にならない高級ネクタイを大量購入したいのであれば、公務を抜け出さず、日本で時間のある時にゆっくりやったらよかった。閣僚以外にお土産を配ったのか否かは報道で明らかになっていないが、ロンドンで買ってきました!というのが、地元支援者の心に刺さるのだろうか。

日本経済崩壊の序曲…「重武装・増税路線」を突き進む岸田首相

 それにしても、広島でサミットを開催する一方で、岸田首相は、核共有について議論することも許さないという立場だ。その上で、防衛費を2倍にして大増税するのだという。

 岸田首相が敬愛してやまない、池田勇人元首相は、日本を高度経済成長に導いた首相だ。前任の岸信介元首相が「重武装・安保路線」だったのに対し、池田元首相は「軽武装・経済重視」路線へと転換させた。岸田首相がどう自身の政策を説明しようと、客観的にみれば、今の路線は、「重武装・増税路線」であろう。このままでは日本経済は疲弊するのは目に見えている。

 他方、核共有・保有などによって、安全保障におけるコストが安く上がるというのは、過去に多くの識者が指摘をしてきたことだ。「軍事専門家の間で常識になっているのは、核武装は国防という観点では最も安くつく」(産経新聞2022年5月8日)など、調べればいくらでも出てくるので、今回は詳しくは述べない。ただ、一発の核共有さえできれば、ロシアや中国の侵略的意図を削ぐことは明らかだろう。

 私もすぐに日本が核武装・核共有をできるとは思っていない。しかし、日本人の生命と財産を守るための方策をすべて俎上(そじょう)に載せて議論し、必要最小経費の安全保障とは何かを見極め、経済成長に全力を注ぐべきだろう。それを最初から議論もしないというのは、どういう見識なのだろうか。

「北朝鮮が撃つミサイル33発分で、飢える国民の食料代を賄える」(朝日新聞・2022年6月10日)という指摘もあるが、経済成長を描けず、増税議論ばかりを先行させる岸田首相は、笑っていられるのだろうか。日本経済崩壊の序曲がはじまっている。