WBC優勝記念連載「世界一の裏側」#2、山川穂高が語っていた本心

 野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」は3大会ぶり3度目の優勝を成し遂げた。大谷翔平投手(エンゼルス)ら一流選手の団結力で掴んだ世界一。「THE ANSWER」では米マイアミで行われた熱戦を現地取材。大会を通じて伝えきれなかった選手、監督の思いや現地でのエピソードを連載「世界一の裏側」として連日紹介していく。

 第2回は山川穂高の言葉に見た献身性。昨年パ・リーグ本塁打王(41本)に輝くなど西武では不動の4番も、WBCでは3試合7打席の出場に留まり、代打として準備することが主だった。栗山監督から「謝られた」という今大会。代打としては「僕が出ない展開の方がいい(笑)」と意外な本心もメディアに語っていた。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 米国との決勝戦、出場することなくベンチで優勝を見届けた山川は心から喜んでいた。

「めっちゃ嬉しかったし、この1か月間ずっとソワソワしていた。アウェーの状況の中で、皆で協力して優勝できたし、本当にこれ以上ないチーム。最初に掲げていた、最高のチームを作ることが出来たと思います」

 今大会、スタメン出場は11日の1次ラウンド・チェコ戦のみ。残りは代打待機だった。一塁は好調の岡本和真(巨人)、DHには大谷がおり、NPBで過去3度の本塁打王に輝いている山川ですらベンチで戦況を見つめなければならなかった。

 栗山監督には「凄い謝られた」と明かす。「『いろいろ迷惑かけてごめんね』と。多分、和真とのあれ(兼ね合い)もあるので」。この時期に打席数をこなせないことは、確かにシーズンに向けて調整が難しくなる一因となる。ただ、山川は「こっちはそんなつもりはないですし、この最高の瞬間の一員になれたのが一番良かった。栗山監督は本当に最高だと思います」と感謝と労いを口にしていた。

メキシコ戦後に語った「僕が出ない展開の方がいい」の本心

 日本が奇跡のサヨナラ勝ちを決めた準決勝のメキシコ戦、山川は2点を追う8回1死二、三塁の場面に代打で登場。レフトへ貴重な犠牲フライを放っている。決勝でもここぞの一打に期待をかけられていたが、メキシコ戦後に本人は「できたら、僕が出ない展開の方がいい(笑)」と思わぬ言葉を残している。

「(代打で山川が)出るということは、負けているということですからね。出ないで勝った方が、ちゃんといいゲーム。僕、出ない方が絶対良いっすよ(笑)。ホント、そうなんですよ。5点差くらい開いていたら絶対出ないし、負けているから代打がある。負けてない方が本来いいので」

 出場に飢えてもおかしくはない。でも、日本の勝利を考えれば、自分が代打で登場するシチュエーションは来ない方がいい。山川は本心からそう思っていた。一方で「(出番が)回ってきたらひっくり返しますよ。頑張って。その気持ちで頑張ります」と準備も怠ることはなかった。

「早くストレッチしたいんですよ」。練習にいち早く姿を現す理由はシンプルだ。「最高の準備をした状態で試合に入れば、いい結果が必ず出ると信じている。あたふたした状態で試合に入ると後悔することが多くて。準備して結果が出なくても、後悔することもない」。侍ジャパンでも西武でのスタイルを貫いた。

 献身的に侍ジャパンに貢献した31歳。「野球を続けていると、苦しいことも悔しいこともいっぱいありますけど、乗り越えれば最高の瞬間が味わえると改めて感じさせてもらえた」とWBCでの経験を回顧。「全国の野球少年、少女たちもこれを見て、どんどん日本の中で野球をやる人が増えればいいと思う」。最後の最後まで、野球への真摯な思いが溢れていた。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)