《学校から帰宅後、小学校中学年の男子児童2名がマンション内のエレベーターで女に「春休みはいつから?」と声をかけられたという事案が発生しました。児童は無視をして逃げ実害はありません》

【写真】子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成19〜28年)

《小学校低学年女子児童が公園のベンチに座っていた男から「何年生?」と声をかけられる事案が発生しました。女児は顔を知られたことが怖く、逃げました。警察へ連絡しました》

 これらはいずれも東京都内某所の地区の不審者情報である。
 
 春から新入学のお子さんを持つ保護者は、この時期になると地区情報アプリ(またはメール)に入会することになる。紙のお便りが廃止されつつある中で、便利なツールと受け止められている一方、不審者情報が保護者の間で“要らない情報”となっているという。

トンデモ通報の中身

 不審者情報とは、子どもを犯罪から守るべくその地区の警察や自治体、教育委員会などにより発信されている。地域を登録しておき、メールで届くものが多い。防犯に役立つようにも思えるが、小学1年生の子を持つAさんをはじめ、これらの不審者情報に疑問を持っている保護者は多い。

「娘が昨年から小学校に入学した際に、防犯アプリに登録したのですが、毎日のように不審者情報が送られてきます。学校の行事やお知らせなどの大切な情報もアプリで通知されるので、必ず確認するのですが、それがこのような内容だと呆れてしまいます。だってこれって不審者とはいえないですよね」(Aさん)

 と、その情報に疑問を呈する。子どもを持つ親にとって不審者情報は共有しておきたい。しかし、不審者の基準に違和感があるという。

「例えば冒頭の“春休みを聞いた女”というのは、そのあとに書かれている情報を見ると70歳から80歳の女、とありました。これは普通に孫に話しかける感じで春休みはいつ? と聞いただけだと思うんです。ベンチで何年生? と聞いた男というのも70歳から80歳男ということでした。

 隣に座ってきたから声をかけるというある種、安心させようとして声かけしたのでは、と思ってしまいます。違和感を覚えるのは、これらはいずれも子どもが親に報告し、親が学校なり警察なりに連絡している点です。私だったら子どもが怖がっていたら“怖くないよ、不審者じゃないよ”と伝えますが」(Aさん)

 過去1年以内に関東近郊の某地区に届いた小学生の子どもを持つ保護者への不審者情報を見てみるとーー。

《帰宅途中の高学年男子児童3名が「○○さんの家はどこですか?」と後ろから来た女に聞かれる事案が発生。男児ら3名は走って逃げて無事でした》

 道を聞いただけではないのだろうか。

《スーパー○○の踊り場で座っていた中学年女子児童2名に「何しているの?」と女から声をかけられる事案が発生。女児らは店員に助けを求めに行ったところ、女はすでにいなくなっていて無事でした》

 階段に座っているのを注意しようとしただけとも思える。

《○○公園にて「縄跳び忘れているよ」と低学年の男子児童が男から声をかけられ、肩をつかまれる事案が発生。男児は怖くなり逃げ無事でした》

 親切なだけでは……と、思わず突っ込まずにはいられない「不審者情報」が届いている。なぜこれらの情報が配信されるのか。元警視庁少年安全課の村田和子さんは、

「不審者情報はもちろん精査していて明らかに過剰な心配といえる通報は配信しないようにしています。例えば隣の家の女性から“こんにちは”と声をかけられたなどを不審者通報として流すと諍いを生む可能性もあります。

 ですが、児童をめぐる犯罪の多くは最初は声かけだったという事例があるので、一見何でもないようなことでも省けないというのが実情です。もちろん、例に上がっているようなものは過剰通報と言わざるを得ないのですが“子どもが怖がっている”と言われると排除できない」

 と内情を明かす。 

“不審者”にされないために

  不審者として身内が通報されたらーー。実際に'08年には埼玉県で、迷子を送り届けようとして逮捕されるという事件が起きている。

 他にも、'19年に元プロ野球選手の落合博満氏の長男で声優の落合福嗣氏は自分の子どもと公園で遊んでいただけで、周囲の母親から不審者通報された、と公表。

 この過剰ともいえる不審者通報はなぜ起こっているのか。

「近隣のコミュニティが減少しているからでしょうね」

 と、前出の村田さん。

「今は子ども会なども廃止の方向の地区が多いですし、両親も近所の人と話す機会が少ないのでしょうね。知らない人=怖い人と子どもは思ってしまいますから。

 顔見知りであれば声をかけても不審者ではないが、知らない人だから怖いと思ってしまう。また、家庭でも“知らない人とは話さないように”と教えられている。これは大事なことですが、一方で危険。子どもに安全か危険かを見極める目を持たせる教育をしてほしい」

 とし、

「残念ですが不審者にされないためには“安易に子どもに声をかけない”ことしか防ぐ方法はない」(村田さん)

 過剰な不審者情報が加速していく一方で、国内で子どもが巻き込まれる犯罪は減り続けている。令和3年の警察学書によると、13歳未満の子どもの被害件数は最も多かった平成23年が2万9784件だったのに対し、令和2年では8788件に減少している。

 これらは過剰通報が功を奏しているのだろうか。