日本一の漫才師を決める『M―1グランプリ2022』を制覇したウエストランド。視聴者、観客はもちろん、審査員すら虜にしたのは、井口浩之から放たれる忌憚なき毒舌の数々だった。

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いつの世も重宝される“毒舌芸能人”

 審査員を務めたダウンタウン・松本人志が、

「こんなちょっと窮屈な時代なんですけど、キャラクターとテクニックさえあれば、こんな毒舌漫才もまだまだ受け入れられるという夢を見ました」

 と評したように、コンプライアンスが叫ばれる時代でも、毒舌のニーズがあることを証明したウエストランドの功績は大きいだろう。

 振り返れば、ツービートや爆笑問題のように毒舌で頭角を現した芸人は少なくなく、テレビ番組においても、毒を吐くようなご意見番といわれるタレントは重宝されてきた。いつの時代も毒舌は、視聴者の娯楽として求められてきた側面を持つのだ。

 そこで週刊女性PRIMEでは、「あなたが好きな・嫌いな毒舌芸能人は誰ですか?」とアンケートを実施。20〜60代の女性1000人が選ぶ「好きな毒舌芸能人」と「嫌いな毒舌芸能人」は一体誰なのか? そして、「好き」と「嫌い」の差は何なのか─。

“愛”のない毒舌は視聴者からの反感が

 まずは「好き」「嫌い」の1位と2位、ツートップから見ていこう。「好き」の1位に輝いたのは、

「知識豊富で指摘することが的を射ている。相手に合わせて毒舌度合いを加減しているのが絶妙」(熊本県52歳)

「ズケズケ言っているようで愛がある」(兵庫県50歳)

 といったコメントが寄せられたマツコ・デラックス。「好きな司会者ランキング」をはじめ、今や“好きな〇〇ランキング”を行うと必ずといっていいほど上位にランクインするマツコが、ここでも絶対的な強さを見せつけた。

 続く2位は、マツコとともに『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)でMCを担当する有吉弘行。支持する声を見てみると、

「毒舌だけど真理をついているから納得してしまう」(東京都41歳)

「親密な関係からくる毒舌。逆に相手をおいしいほうへ持っていく感じに好感を持つ」(大阪府34歳)

 というように、「思わず笑ってしまう」「思わずうなずいてしまう」という意見が多かったのが印象的だ。

「マツコさんも有吉さんも毒づく対象に対して、愛情やリスペクトの気持ちがある」と語るのは、阪南大学国際コミュニケーション学部教授の大野茂さん。放送文化論を担当し、自身も16年間、NHKにディレクターとして在籍していた経験を持つ。

「好きな毒舌芸能人に選ばれた方々を見ると、総じて毒づきながらも、最終的には毒づかれた対象が持ち上げられたり、おいしくなっていたりする。とりわけ、マツコさんと有吉さんはそのスペシャリスト。

 対して、嫌いな毒舌芸能人に選ばれた方々を見ると、相手を下げてしまう……つまり、ののしる、マウントするといった傾向があるように感じます」(大野さん)

「嫌われる毒舌」に共通するのは“マウント”

 その言葉どおり、「嫌い」の1位に輝いたのは、

「悪口にしか聞こえないから」(埼玉県58歳)

「上から目線のしゃべりが苦手」(鹿児島県34歳)

 などの意見が散見された泉ピン子。「優しさや思いやりが感じられないから」といった意見も目立ち、“愛”のない毒舌は視聴者の反感を招くことが浮き彫りになった格好だ。

 そして、「嫌い」2位は少し意外な気もするがフワちゃんが選ばれた。

「見ていて不愉快になる失礼さがあるから見たくない」(埼玉県49歳)

「言葉遣いが悪く、敬語を使わないから」(千葉県50歳)

 タメ口や自由奔放さといったフワちゃん独自のキャラクター性が、40〜50代には「敬意を欠く」と映ったもよう。スマートさも毒舌には欠かせないというわけだ。

 では、ここからは「好き」部門の3位以下をチェックしていこう。まず第3位にランクインしたのは、

「あれだけ振り切って自分本位だと、むしろすがすがしい」(神奈川県60歳)

 などの票が集まった高嶋ちさ子。実は彼女、「嫌い」部門の8位にも選出されており、好き嫌いが分かれる毒舌キャラだということがわかる。

「タレント業とは別に、本業がある人は好感度を気にしなくていいので、コメントの切れ味が鋭い」とは、前出の大野さんの弁だ。

「高嶋さんはバイオリニストとして一流の腕前を持っていますから、テレビの仕事がなくなっても困らない方。そのため歯に衣着せぬ発言をしやすい。また、お父さまがビートルズを日本に紹介した人物ですから、お嬢さまでもある。

 テレビ朝日系の『ザワつく!金曜日』が人気を博しているのは、高嶋さん、石原良純さん、長嶋一茂さんの浮世離れした3人が物申すから面白いわけですよね。半面、ズケズケと言うがあまり『好きではない』という方も一定数いるでしょう」

一目置かれる「突き抜けた存在」

 そういう意味では、続く4位に選ばれたデヴィ夫人も同じかもしれない。

「バックボーン(人生経験)が違いすぎて、『この人はこうなのか〜』と納得せざるをえない」(福井県45歳)

 こうした意見が多くを占めるように、あまりに突出していると、「首を縦に振るしかない」と感じてしまう人は多いはず。例えば、大谷翔平選手のような非凡さを目にすると、誰もが脱帽ものだが、毒舌界においても“突き抜けた存在”は、一目置かれるというわけだ。

 そして5位以下は、ずらりと芸人たちが並ぶ。賛同する意見を見てみると、

「上沼さんは、大阪のおばちゃんの感覚を持っているから共感しやすい」(大阪府56歳)

「毒舌でも優しい人柄がわかる。ヒロミさんは奥さんである松本伊代さんを大事にされていることからも、人間としてしっかりされている方だと伝わってくる」(山形県49歳)

「毒舌が一瞬にして笑いになる。松本人志さんが話すと不快にならない」(東京都32歳)

 大野さんも、「芸人さんは話術が巧みですから、トークとして毒舌を成立させることができる」とその強みを分析するように、単なる毒舌で終わらないのは、さすが芸人といったところか。

 となると、芸人に交じって9位に選ばれたみちょぱの存在が際立つ。大健闘どころか、大殊勲だろう。

「ギャルだけどしっかり考えて物事を言っている。それに、言いにくいこともきっぱりと言い切るのがうまい」(兵庫県42歳)

「心(しん)があり他の目を気にしてないのがカッコいい」(山口県38歳)

 などなど、寄せられた意見を見ると、みちょぱへの支持は厚い。

「好き」のラインナップを見て、大野さんは「学校のクラスメートや会社の同僚に置き換えて想像するとわかりやすい」と言う。

「何か問題が起きたときに、自分が“好きな毒舌芸能人”がそばにいたら、シビアな話でも空気は重くならなさそうだと思いませんか? むしろ、『〇〇さんもっと言ってやってくださいよ』ではないですが、その芸能人たちに援護射撃を頼みたくなる。

 一方、“嫌いな毒舌芸能人”がそばにいると想像すると、プレッシャーに押しつぶされそう(笑)。縮こまってしまう雰囲気がありますよね」(大野さん)

いつの時代も求められるヒールキャラ

 実際、「嫌い」部門を見ていくと、3位が和田アキ子、4位が坂上忍、5位が宮根誠司というように、「このメンバーの中に交ざったら」と想像するだけで、息が詰まりそうになる……。

「アッコさんは、いつも上から目線なのが好きになれない」(広島県48歳)

「坂上さんは、意見が合わない人には露骨にイヤな態度に出ることがあったから」(京都府44歳)

「テレビで見ていて不快なほど宮根さんはパワハラ感がある」(大阪府36歳)

 視聴者から届いたコメントも手厳しいものばかりで、パワハラ感がある毒舌に対しては不快感をあらわにする視聴者が多いもようだ。6位に選ばれた爆笑問題・太田光と、7位のとろサーモン・久保田かずのぶに対しては、「自分勝手すぎる。人への配慮が足らない」という意見が大多数だった。

 とはいえ、「いつの時代もヒール(悪役)キャラは必要」と大野さんは補説する。

「過去には、『快傑熟女!心配ご無用』や『マネーの虎』といった上から目線でズバズバと物を言う番組が人気を博していた。誰かが叱られている、ダメ出しをされているという光景が、コンテンツとして成立していた時代があった」

 しかし、コンプライアンスという言葉が叫ばれるようになり、いつしか説教はパワハラとして解釈されるようになっていく。そうした時代の変化もあり、説教のイメージが強い毒舌キャラは、「嫌い」に属することがこのランキングからも見て取れるだろう。

「今の時代は、説教に合理的根拠がなければ、コンテンツとして成立しないように感じます。一流料理人が、経験や根拠に基づいて商品にダメ出しをする『ジョブチューン』(TBS系)を想像するとわかりやすい。彼らは技術的な背景があるからこそ物申せるし、私たちも納得する」(大野さん)

 裏を返せば、感情ありきで毒を放つのは、少なくとも視聴者の反感を買ってしまうということだ。説教が説教に映らないように、オブラートに包んでダメ出しや反論をすることが求められる。それゆえ、「ひろゆきさんや成田悠輔さんにスポットライトが当たるのでは」とも大野さんは付言する。

 たしかに、彼らが論破する様は、『快傑熟女!心配ご無用』でご意見番たちが一般女性に放言していた姿と変わらない気が─。大野さんが指摘するように、「いつの時代もヒールキャラは必要」なのだ。

「年々コンプライアンスが厳しくなっているため、ますます大胆なことは言えなくなっていくでしょう。でも、それでは面白くならないから、テレビマンは“ズバッと言える”“物おじしないで言える”といった毒舌キャラを求める。それは今後も変わらないと思います」(大野さん)

 そのうえで、大野さんはこう締めくくる。

「2つのランキングを見比べると、「嫌い」に選ばれている方々は、自身の“弱さ”を見せない人が多くいる印象です。一方、「好き」を見ると、マツコさんや有吉さんなどコンプレックスを隠そうとしない人が多い。

 弱さやコンプレックスを打ち明けられる人というのは、皆さんから共感を集めやすいし、愛のある毒になりやすい。他者に寄り添えるか否かも大きなポイントではないでしょうか」

 ウエストランドの毒舌漫才は強烈なインパクトで迎え入れられた。はたしてウエストランドは、「好き」と「嫌い」、どちらに向かっていくのか。願わくば、「舌は禍(わざわい)の根」にならないように──。

【好きな毒舌芸能人TOP10】

【第1位】マツコ・デラックス …… 179票

【第2位】有吉弘行 ………………… 126票

【第3位】高嶋ちさ子 ……………… 64票

【第4位】デヴィ夫人 ……………… 56票

【第5位】上沼恵美子 ……………… 43票

【第6位】ヒロミ …………………… 41票

【第7位】松本人志 ………………… 39票

【第8位】ビートたけし …………… 37票

【第9位】みちょぱ ………………… 35票

【第10位】バカリズム ……………… 33票

【嫌いな毒舌芸能人TOP10】

【第1位】泉ピン子 …………… 98票

【第2位】フワちゃん ………… 89票

【第3位】和田アキ子 ………… 85票

【第4位】坂上忍 ……………… 84票

【第5位】宮根誠司 …………… 68票

【第6位】太田光 ……………… 57票

【第7位】久保田かずのぶ …… 49票

【第8位】高嶋ちさ子 ………… 39票

【第9位】梅沢富美男 ………… 38票

【第10位】上沼恵美子 ……… 37票

大野茂(おおの・しげる)○1965年東京都生まれ。阪南大学教授(専攻:メディア・広告・キャラクターなど)。慶應義塾大学卒業後、電通でラジオ・テレビ部門を担当し、スペースシャワーTV、スカパー!に出向。NHKの制作ディレクターを経て現職

取材・文/我妻弘崇