“チュリ・ウルディン”のファンの特徴の一つが失望を味わった後の挽回力だ。大一番で敗北を喫しても、戦犯探しをするようなことはせず、イレブンとともに失望を共有し、すぐさま先を見据えて再び全力でチームを後押しする。

 エルチェ戦で、エスタディオ・アノエタはまさにその空気感を醸成していた。だからこそその光景を目の当たりにして、何とも言えない悔しさが私を襲った。もしかしてヨーロッパリーグでローマに勝てると信じる力が最も足りなかったのは監督と選手たちでなかったかという思いに駆られたからだ。

 もちろんローマの実力を肌で感じたのは他でもない彼ら自身だ。ファーストレグで終始、劣勢を強いられ、セカンドレグでは岩のように堅固な守備陣にことごとく攻撃を跳ね返され、ベスト8進出の夢は潰えた。

 選手たちは全力を尽くした。だからこそファンは3日後に行われたエルチェ戦で、選手たちを温かい拍手で迎えたが、それでも解せなかったことがある。セカンドレグでのタケ・クボ(久保建英)のスタメン落ちだ。キックオフの1時間前、スタメンにタケの名前がないという情報が飛び交った時、我々メディアもファンも耳を疑った。

 タケはここ数週間、負けが込むチームを尻目に、唯一好調を維持していた。そのチームで最も局面打開力に長けた切り札が2点のビハインドを背負った一戦(ファーストレグは0−2で敗戦)で先発を外されたのだ。立ち上がりからピッチ上で展開されたソシエダの単調な攻撃はそんな我々の嫌な予感を的中させるものだった。様々な局面に顔を出しながら、攻撃を加速させるタケの不在による影響は明らかだった。

 イマノル・アルグアシル監督は、相手の疲労が蓄積した勝負どころで起用しようと考えたのかもしれない。しかしタケが投入された71分、疲弊していたのは味方の選手で、もはやできることは限られていた。
 
 エルチェ戦で、アルグアシル監督が犯した大罪を再確認するのに30分もかからなかった。阿吽の呼吸を奏でるダビド・シルバとの連携から相手守備陣を翻弄。カナリア諸島出身者が魔術師なら、日本人はその愛弟子、あるいは後継者だ。惜しむらくは、またしても決定力を欠いたことだ。5分、9分、43分と立て続けにシルバのお膳立てからチャンスを得たが、いずれもネットを揺らすことはできなかった。

 しかしタケはいつもの戦士だった。シュートを外しても動じることなく、チャレンジし続け、それが後半のゴールに繋がった。開始早々の3分だった。またしてもシルバのパスからDFラインの裏に抜け出すと、左足でゴール右隅へと流し込んだ。

 その後、守備面で何度か献身的なカバーリングを披露。スタジアムから大きな拍手喝采が起こった。ヒーローは試合後、「もしあのゴールを決めなかったら、ドレッシングルームでシルバに殺されていたよ」とおどけた。ローマの敵将、ジョゼ・モウリーニョはタケがスタメン落ちしたことに今なおビックリしているに違いない。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸

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