転職で年収を上げるにはどうすればいいのか。人材コンサルタントの井上和幸さんは「転職で年収アップを実現している人たちは、みんな『いい表情』をしている。これは企業がぜひとも採用したいと考える人材の特徴にも合致している」という――。
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■不況下は「楽しそうで、ツイている」タイプが強い

先日、コロナ禍で打撃を受けている業界ながら、新たな販路を次々と立ち上げ、売り上げを伸ばすことに成功している経営者の方とお話をする機会がありました。

「長引くコロナ禍は御社にとっても本当にしんどいですよね」と私が水を向けると、その経営者は「コロナ禍がなければ、こんな(新たな)販路を作ろうなんて思いもしなかったですし、結果その分の売り上げもお客さまとのご縁もなかったですからね」と困難な状況の中でも前向きな姿勢を崩しませんでした。

先行きが不透明な時代だからこそ、企業や経営者が求める幹部・リーダーのタイプは「周囲に良いオーラを振りまいてくれる人」です。

私はセミナーや講演でいつも、「結局のところ、いついかなるときにおいても、楽しそうで、ツイているリーダーに人は集まってくるものです」という話をしています。

■200万円年収アップした人の特徴

近頃、大手メーカーに採用されたAさん(40代半ば)は、まさに「楽しそうで、ツイている」タイプでした。

前職において閉塞(へいそく)感漂うチームを未来志向で改革することで会社の業績のV字回復を成し遂げた立役者でした。

この手腕と、それ以上に周囲を明るくするキャラクターに社長が引かれ、その懐刀として同社の海外事業のガバナンス強化を期待されて1400万円→1600万円と、200万円ほど年収アップでの転職を果たし着任されています。

■なぜ仕事ができる人はいい表情なのか

具体的に、「楽しそうで、ツイている」人とはどんな特徴を持っているのか。

言葉通り、口元と目が「いい」人です。彼らは、人の内面は口元と顔に表れるとわかっています。さらにそれが、運を引き寄せると考えていますから、楽しそうな表情をするのです。

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仕事面の特徴は、コントロールできることにフォーカスしています。当たり前ですが、天気や景気などは自分の力でコントロールできません。彼らは、そういったことにはこだわりを持ちません。ただ、時間や納期、約束など自分でどうにかできることは必ず守ります。万事徹底、それがツキを呼ぶのです。

なにより生き生きとしていますし、充実した仕事時間を送っています。こういう人がいてくれると、会社のエネルギーも高まりますし、全体が前向きになりますね。

さらに、自分だけでなく、同僚や部下たちのモチベーションも上げて巻き込んでいくリーダーシップを持っている人であれば、経営者や企業からすれば非常に頼もしい人材に映るはずです。

■具体的な提案を立案・遂行してきたか

「好況期」と「不況期・混迷期」では、経営者やリーダーに求められるものは異なります。好況期にはよくも悪くも抽象的な夢を語ったり、イメージを膨らませたりすることが望ましく、またそれでOKな部分があります。

それに対して、不況期・混迷期においては何よりも具体的かつ即効性のある対処策が打てるかどうかが問われます。

「こういう時期にこそ、全社一丸となって危機に立ち向かおう!」「みんなで知恵を出し合って、コロナを乗り切る策を打とうじゃないか」

掛け声としては良いかもしれませんが、トップやリーダーのメッセージがこの程度では、危機脱却は運任せか、現場の誰かからラッキーボーイ・ラッキーガールや救世主が現れてくれるのを祈るしかない、ということになってしまいますよね。

実際、SaaS系プロダクトを扱うIT会社に1200万→1350万と150万円の年収アップで転職されたBさん(30代後半)は、着任後にコロナ禍での市況の変化に対して、「新規営業はいったんすべてストップして、お取引中の全クライアントに対して、今月内で、現在の状況とお困りごとについて一斉ヒアリングを掛けよう」という具体的な打ち手を繰り出し、いったん停滞した業績を見事、再度アップする基調へと乗せることに成功されています。

不透明性の高い時期に企業や経営者が求めたいのは、このような具体的な提案をできて、かつ取り組める「強いリーダー」です。

■パーパスを口にすることより大事なこと

「ビジョンなき行動は悪夢、行動なきビジョンは白昼夢」とも言われますが、最近はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やパーパス(存在意義)の重要性が強く説かれるようになりました。目指すべきものや信念、大義、WHY(理由)なき行動は確かに悪夢です。

しかし同時に、いくらパーパスやMVVを唱えても、それを具現化する行動がなければむなしいだけですし、何よりも企業としては事業が成り立たず倒産の憂き目を早晩見ることになるでしょう。

具体的であるということは、事業推進に対してのみならず、リーダー自身の行動についても同じく言えることです。実際問題、自分が持つ「武器」は何で、それは事業のどの部分に役立てることができるのか。今後のために、自分はどのような武器を新たに手に入れることが有効であり、また手持ちの武器の中のどれを磨き込むことが効果的なのか。

常にそうした視点で行動し、取り組みテーマを決め、動いているリーダーが強いですし、そうしたリーダーを企業や経営者は喉から手が出るほど欲しています。

■あなたの評判はいつの間にか知られている

これも私は折に触れて各所でお話ししたり書いたりしてきたことですが、「一事が万事」ということが、特に経営者やリーダーの皆さんにとっては常について回ります。

皆さんが望もうとも望まざるとも、それなりの立場で業務を推進する人には、いや応なくリファレンス(経歴や評判の照会)が常について回ります。

「Aさんは、自分では決してひけらかさないけど、サプライチェーンに関する知識と業務設計力については業界トップクラスらしいよ」
「Bさんは、事業責任者だといって偉そうにしているけど、部下たちからの信任が全くないらしい」

いわゆる「人脈力資産」というものがあり、その価値や怖さは認識しておきたいものです。

皆さんが思っている以上に、転職活動においても、皆さんに対する評判というものは、直接間接問わず、かなり飛び交っていて、皆さんの選考評価に少なからぬ影響を与えているものなのです。

■信頼残高を積み上げてきた

外資系企業や、最近では日系企業でもリファレンスチェックを最終選考時に実施する企業が増えてきています。ただ、正面切ってのリファレンスチェックは、結局、格式張ったものにならざるを得ません。

それよりも日頃からのさまざまな人間関係や仕事でのつながりの中から漏れ聞こえてくる評判情報のほうが、何倍も影響力があることを知っておいたほうが良いと思います。

当社でここ最近、年収アップを実現されている方々は、共通して「業界での評判が素晴らしいですね」「共通のつながりのある**さんから、とても信頼できるお力ある人ですよと聞きました」というリファレンスが、選考プロセス中に採用企業側に入る人たちです。

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現在、転職活動中の方には、ご自身の人脈を見つめ直してみることをお勧めします。これまで自分を支えてくださった人たち、今後も有益な付き合いを続けてくれるであろう人たちは誰でしょうか?

人の顔色を見て仕事するということではなく、日常での信頼残高を積み上げているリーダーが、特に不況期や不透明な時代、逆境局面において底力を発揮でき、またこれまで積み上げてきた人脈とその人たちからの信頼が当人自身を救ってくれるのです。

■転職に強い人材の特徴5つ

これまで述べた「混迷期の転職に強い人材」の特徴5つを以下に挙げました。

○ 仕事の中に楽しめるテーマを持っており、のめり込んでいる。
○ 周囲に感謝し、チームで動いている。
○ ビジョンや中期(10年)テーマだけでなく、1〜3年のクリア目標で動いている。
○ 「自分の能力や経験を発揮し成果と成長に結びつけられるか」を考え行動している。
○ 自分の評判はずっとついて回るのだということを強く認識して、行動している。

この条件を持ち合わせている人材は、採用側から「年収アップを提示してでも、ぜひ採用したい!」と言われるでしょうし、「入社後に間違いなく成果をあげ、チームを良い形で率いてくれるだろう」と思われるでしょう。

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井上 和幸(いのうえ・かずゆき)
株式会社 経営者JP、人材コンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。著書は『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)など。
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(株式会社 経営者JP、人材コンサルタント 井上 和幸)