日本を震撼させている広域連続強盗事件。2月7日、指示役の疑いがある日本人4人のうちの2人、今村磨人容疑者(38)と藤田聖也容疑者(38)の強制送還がついに実現する。

真相究明が待たれているが、一連の事件の最大の被害者ともいえるのが90歳女性の大塩衣与さんだろう。本誌は大塩さんの長男に、亡き母への思いと犯人たちへの激しい怒りを取材していた――。

多摩川の流れを望める2階建ての一軒家。その1階にはガレージがあり、高級輸入車が3台ほど並んでいた。悲劇の現場となったのは、東京都狛江市にある、この建物の地下室だった。

大塩さんの長男は、ガレージの車を眺めながら悔しそうにこう語った。

「この建物は、私が経営している(建築)会社の倉庫のように使っていました。車も会社のものですが、それが目立ってお金を持っているように思われて、結果的に犯行グループに目をつけられてしまったのは痛恨の極みです……」

被害者の大塩さんは、かつては寿司店のおかみだったという。

「私の両親が寿司店を営んでいたのです。父は頑固でおふくろにも厳しくて。長男の私もよくたたかれたりしていましたが、そのとき助けてくれたのが母でした。そんな父が他界した後は、私たちとより頻繁に連絡をとるようになったのですが、4〜5年ほど前に私たちがこの建物を借りたときに、気に入って住むようになったのです。

特に目の前を流れている多摩川を眺めるのが好きでした。私たちと同居するより、母は気ままな暮らしをしたいということでしたので、つつましく暮らしていました。

でも(母の)様子は見なければいけないので、私の息子はこの建物から出勤していたのです。90歳といってもとても元気で、足腰もしっかりしていて。買い物も近所のスーパーに自分で行っていました。週に2回は渋谷に出て、古い知り合いとおしゃべりを楽しんでいたのです。私の妻などは、『お母さんは100歳まで生きるんじゃないかな』なんて言っていました」

そんな大塩さんの人生が急変したのは1月中旬のことだった。

1月12日に千葉県のリサイクル店を3人組の男が襲撃した事件が発生。この事件に関与したとして陸上自衛官の男が逮捕されたが、その携帯電話には大塩さんの住所も記録されていたのだ。

情報提供を受けた警視庁の警察官が、長男とともに大塩さんのもとに駆けつけたが……。

「地下に下りるとおふくろが倒れていました。建物の中は、かなり荒らされていて……。母は顔面を何度も殴られていたようです。高齢ですから、それだけでかなりのダメージでしょうし、すぐに死んでしまったのでしょう」

司法解剖の結果、大塩さんの死因は素手で激しく暴行を受けた多発外傷によるものと判明した。

■「想像もできないほど傍若無人。本当に悔しい……」

「犯人たちには時計を3本盗られていましたが、母は建物のどこに何があるかわからないから、それが原因で何度も殴られたのかと思うと耐えられません。守れなくてごめんと、自分を責めました。

この建物にはお金は置いていませんでしたし、財産もほとんど持っていないおふくろが狙われたなんて、実行犯はもちろん、ルフィとか呼ばれているという指示した犯人たちも絶対に許せないです。

きっと上からの指示で、『抵抗したら殴ってもかまわない』と言われていて、そのとおりにしてしまったのでしょう。殴られた老人がどうなるか想像もしていなかったのか……。私たちの年代の者には想像もできないほど傍若無人です。本当に悔しいですよ……」

実行犯たちはSNSで「日当100万円以上」といった法外な報酬をうたう「闇バイト」を見つけ、応募したという。彼らにフィリピンの収容施設から犯行を指示していたとされるのは渡邉優樹(38)、今村磨人、藤田聖也、小島智信(45)の4人の容疑者。

「もともと彼らは被害総額60億円にのぼるといわれている特殊詐欺の実行グループのメンバーで、’19年にフィリピンで拘束されたのです」(前出・社会部記者)

大塩衣与さんの葬儀が行われたのは2月5日。その翌日に、今村・藤田両容疑者の強制送還が決定したのだ。

大塩さんをはじめとした犠牲者のためにも、その家族のためにも、一日も早く犯人たちに法の裁きが下ることを祈るばかりだ。