《つらい 営業努力ではどうしようもできない勢い》

2月3日、Twitterで涙を流す絵文字と共にこう綴ったのは、東京・墨田区にある老舗銭湯「押上温泉 大黒湯」。投稿には、170万円を超えるガス料金の領収証を撮影した写真も添えられていた。

不安定な世界情勢に起因した、値上げの波がおさまる気配がない。大手電力会社は軒並みこの春からの値上げを申請し、大手ガス4社も昨年12月に原料価格の高騰を理由に料金引き上げに踏み切った。東京ガスの標準家庭では昨年1月と比較して、今年1月のガス料金は約37%上昇している。

一般家庭だけでなく銭湯をも襲った衝撃的な値上げには、多くの反響が寄せられた。冒頭の呟きはたちまち拡散され、2.2万件のいいねと270万以上のインプレッション(2月6日22時時点)が。《やばい、やばすぎる》《ええ…これはきつい》など、驚愕するコメントも相次いでいる。

実際のところ、ガス代はどの程度高騰したのだろうか。今回のツイートについて、「押上温泉 大黒湯」の担当者に電話で話を聞いた。

「1年ほど前は、ガス料金自体はだいたい70万円くらいだったんです。なので、100万円くらいは上がっていますね」

当然、世間でも嘆かれているように、電気代も高騰しているという。

「ガス代ほどではないと把握しているんですけれども、電気代も30%ほど上がっています」

「押上温泉 大黒湯」は、東京23区内で唯一オールナイト営業を実施し、露天風呂も増設した貴重な銭湯だ。「今のお客様のニーズに合わせて」始めたという現在の営業形態を続けてこられたのは、「経費も抑えつつながら、人件費を確保できるような営業スタイル」によるものだという。

お客さんのことを第一に考え、地道な経営努力を続けてきた大黒湯を襲った値上げの波。商品価格を改定して、材料費の高騰などに対処している一般企業は多いが、実は大黒湯にその選択肢は用意されていない。担当者は、その事情について明かす。

「公衆浴場の大前提として、各都道府県で料金が定められているんですね。一年間に一回、審議会っていうのが東京都を含めてあって、ここで価格っていうのが統制される。なので一銭湯で勝手に値上げが出来ないんです」

環境面でも厳しい状況に置かれている大黒湯だが、施設やサービスの縮小は考えていないという。担当者はその思いを打ち明ける。

「売り上げもしっかりないと、次の時代にこの業種が残らないんじゃないかと思っています。例えば露天風呂を廃止するなど、施設を縮小してしまったら、次に再開したときに今までと同じようにはできなくなってしまう。どうにか今のスタイルで頑張りつつ、模索しているのが現実ですね」

苦境に立たされた大黒湯だが、“味方”も多い。冒頭の呟きには、「銭湯を応援しているよ」 「銭湯行くようにするよ」といった数々のエールも寄せられている。

声援について担当者は「ものすごく、ありがたかった。励みになっています」と感謝を述べる。

「1人でお風呂を沸かすというのと、どっちが安いか分からないんですけれども。でも、銭湯を利用してもらうことで、少しでも残していけるかなと思います」