日本の暴力団はどうやって銃器を手に入れているのか。2000人以上の暴力団員に取材したジャーナリストの鈴木智彦さんは「主に密輸しているようだ。だが、暴力団が銃器を使うメリットはほとんどないので、抗争にならないと売れない。このため日本の闇武器屋は、ほぼ暴力団の専業だ」という――。(第1回)

※本稿は、鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Artfully79
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artfully79

■油を浸した新聞紙から出てきた拳銃

取材で三度、拳銃を見せられたことがある。お巡りさんや司法警察官、自衛隊員やハンターからではない。すべて違法な品で、相手は暴力団員だった。

初回は若手組長のマンションで、姐さんの洋服箪笥の引き出しに隠されていた。透明のビニールの中にしまわれ油を浸した新聞紙で包んであった。リボルバーだったが、当方にマニア的知識はないのでメーカーや口径までは分からない。アメリカ製だと言われた。黒光りしていた。ごく普通の生活の中に、突然登場した人殺しの道具は禍々しいオーラを放っており、唐突に共犯にされたようでひどく動揺したのを覚えている。それでも平静を装い、あれこれ質問した。

組長に聞くと値段は50万円で、同じ組織の銃器屋から買ったそうだ。もうひとりは某組織の、それこそ銃器担当だった組長である。元自衛隊員で、すれたヤクザっぽさのない、ヤクザらしからぬ人だった。彼も自宅で唐突に、バッグからごく普通な仕草でトカレフを取り出した。

「見たことある?」

真意が分からず、狼狽していないそぶりを必死に演技し、「ありますよ。でも見たいとは思っていない。チンコロ(密告)はしないが、見たことは書いてしまう。書かれて困るものは見せないでほしい」と返答すると、さほど表情を変えずカバンにしまい込んだ。数年後、この組で大量の銃器が押収され、この組長は逮捕された。

■日本で拳銃を買いたがるのは暴力団だけ

元自衛隊のヤクザは珍しくないが、裏社会の武器屋になって懲役刑に服するくらいなら、そのまま自衛隊にいるのが幸せだったろう。最後に見せられたのは、まるでコレクターボックスのような古めかしい木箱にしまわれた南部十四式だった。

第2次世界大戦の際、日本軍が正式採用した骨董品で、もはや使用できないのだという。木箱には拳銃本体のほか、弾丸、マガジン、消音器、木製のストックなどさまざまなアクセサリーが収納されていた。マニアなら垂涎(すいぜん)ものだろう。事務所の組長室で、相手は組長の秘書的存在のヤクザだった。虚仮(こけ)威(おど)しのつもりなのか、こちらの腹を試しているのか、単に見せびらかしたかったのか、今考えてもヤクザたちがなぜ御禁制の品を披露したがるのか理解に苦しむ。

写真=iStock.com/Josiah S
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取材で体験したように、暴力団と拳銃の距離は近い。というより、日本で拳銃を必要とし、買いたがるのは暴力団だけといっていい。

「拳銃のマニアは一定数いる。でも銃器マニアは入手したそれを同好の士に見せたがったり、自ら改造拳銃をつくったりはしても、ヤクザと違ってそれを使って誰かを殺そうとは思ってない。彼らは部屋で拳銃を眺め、触り、愛(め)でるだけで、不特定多数に売買もしない。ネットで監視したり、モデルガン・マニアの集まりを注視したりして積極的に取締まってはいるが、それは摘発した際に評価されるからで、治安云々ではない」(退職した元警察官)

だから日本の闇武器屋は、ほぼ暴力団の専業である。

■いくら金があっても信用がなければ買えない

ヤクザは殺してなんぼの世界であり、抗争事件での殺人は“仕事”と呼ばれる。仕事を貫徹するために“道具”(銃の隠語)は欠かせない。

密輸は専門的な知識と人脈が必要で誰にでもできる仕事ではないので、どうしても専門家に依頼し、そこから買う必要がある。が、専門家とはいっても、銃器売買を専業にするのは危険だ。警察や税関が目を光らせており、見つかればすぐに捕まり、重い懲役刑が科せられる。不特定多数に売るわけにはいかず、店に並べることもできない。

すべては口コミの世界で、金があっても信用のない素人は買えない。何より、たとえヤクザであっても、映画のように拳銃を日常的には携帯していない。なので、訳ありの相手か、抗争にならないと売れず、専業が成り立ちにくい。

■ボディガードは拳銃を持たずに「丸腰で楯になる」

ボディガードが拳銃を隠し持っていたとする。それが警察のボディチェックで見つかれば、同行していた親分も共犯で逮捕されてしまう。だから昭和の時代とは違い、ヤクザのボディガードは丸腰で親分の楯となるしかない。

触った程度、一時的に隠し持っていた程度ならともかく、拳銃に縁がないまま終わるヤクザのほうが圧倒的に多いはずだ。それに、拳銃という道具を使わずとも仕事はできる。威嚇にせよ殺人にせよ、銃器を使えば刑が余計に重くなってしまう。

「それでも道具を使うのは……プロの矜持(きょうじ)ってやつだな。我々は格闘家ではない。ヤクザなのに道端で殴り合いなどしてられない」(広域団体幹部)

そのため拳銃の相場は、抗争事件の勃発などで乱高下する。20万円のそれが、一気に100万円、200万円になることもある。また、いったん使った拳銃は線条痕(せんじょうこん)で特定されるため、原則、複数の事件には使えない。一度事件で撃てば、その拳銃は海や川などに捨てるしかない。

そのため確実に弾さえ出ればよく、ガンマニアのように、ブランドや生産国、銃器の種類に凝る必要はあまりない。トカレフやマカロフ、そのコピーが好まれたのは、殺傷能力が高く、低価格だからだ。が、安い拳銃だからといって密輸しやすいわけでもなく、暴力団の銃器担当にはありとあらゆる銃器が入荷するのだという。

鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)

手榴弾や自動小銃、RPGなども入るが、それらを使えばさらに長い懲役、場合によっては死刑になるので無用の長物だ。重火器だから高価とはならないのは、日本の裏マーケットの特殊事情といえる。

昔のように在日米軍から横流しされるケースはほぼなく、観光客を装いスーツケースに隠して日本に持ってくるわけにもいかない。前出の自衛隊出身だった組長は、輸入材木に紛れ込ませると言っていたが、「あまりいいモノや珍しい銃だと人に売らず自分のものにする」と話していた。大切に集めたそれらのコレクションは別の場所に隠してあるとも話していたので、あるいは押収されず、主が刑務所から戻るのを待っているのかもしれない。

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鈴木 智彦(すずき・ともひこ)
ジャーナリスト
1966年生まれ。北海道出身。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。著書に『ヤクザと原発』(文藝春秋)、『サカナとヤクザ』(小学館)『ヤクザときどきピアノ』(CCCメディアハウス)、『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)などがある。
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(ジャーナリスト 鈴木 智彦)