北朝鮮の首都・平壌は、国内で桁違いに豊かなところだ。金正恩総書記ご自慢のタワマンが建ち並び、地下鉄、路面電車など公共交通機関や医療機関も充実。不安定ながら電力も供給される。

昨今の食糧難で、食べ物が底をついた絶糧世帯が増えていると伝えられているが、市当局は援助物資を届けるなど、他の地方では考えられないような優遇ぶりだ。

(参考記事:北朝鮮の地方の5割、域内総生産は平壌の半分程度

だが、経済やインフラの面では比較的恵まれている平壌だが、住むとなれば様々な面倒なことが起きる。金正恩氏や金氏ファミリーが暮らしていることから、警備が厳しく規制も多い。また、地方に比べて政治的行事が非常に多く、そのたびに動員される。中でも1月は面倒なことが多い。そんな平壌市民の暮らしを、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮では年初に、国の主要政策や決定事項を貫徹しようという群衆動員行事が行われる。今年の1月5日には平壌のメーデースタジアムで、年末に開催された朝鮮労働党第8期第6回総会の決定を貫徹するための平壌市決起大会が開かれた。国営の朝鮮中央通信によると、参加者は市内の機関、工場、企業、農場の労働者、学生など10万人。各機関、企業所などでも、同様の行事が小規模ながら行われる。

それが終われば、今度はリサイクルのキャンペーンだ。市民にはノルマが課せられ、くず鉄や古ゴムなどを集め、提出させられる。同時に行われるのは「堆肥戦闘」だ。農場で肥料として使う堆肥を作るために、人糞や動物の糞を集め、土などと混ぜて堆肥を作るキャンペーンだ。

それだけでは終わらない。和盛(ファソン)地区1万世帯住宅の建設現場に動員されたり、地域の学校やそのグラウンド、通りや鉄道の線路の整理をさせられたりと、これではブラック企業ならぬブラック市だ。

これだけこき使われると、心身ともに疲れるだけではなく、懐も寒くなる。商売に出かける時間がなくなるからだ。

市内の統一市場は現在、午後1時から6時まで営業しているが、くず鉄や堆肥用の人糞を供出したことを示す確認証を市場管理所に提出しなければ、その週の営業は認められない。

「社会主義愛国活動の計画(ノルマ)が達成できなければ、商売をするなということだ」(情報筋)

なお、このような制度が全国的なものかは確認できていない。

一家の生計を稼ぐための商売をするなということは、餓死せよと宣告しているのに等しい。人々はそんな危険を避けるために、ニセの確認証をカネで買って提出する。国営メディアや当局は、くず鉄や人糞を計画以上に集めることに成功したなどと宣伝するが、実際の量はそれ以下で、また質が悪く使い物にならないようなものが混じっていたりもする。

何をどれだけ集めてどう役立てるかということよりも、人を動員することそのものが目的化してしまっているのが北朝鮮のこの手のキャンペーンなのだ。市民の統制や、関連する部署や担当者の金儲けが真の目的になっているものもある。

そもそも平壌の豪華さは、北朝鮮の現在の身の丈に合わない、虚偽と虚栄が作り出したものだ。その上に平壌市民の生活が築かれているわけだが、ちょっとした過ちを犯しただけでも追放されかねない非常に不安定な状態だ。様々な意味で平壌は「砂上の楼閣」だ。