東京では今日も、男女の間にあらゆるトラブルが発生している。なかには解決が難しい、不可解な事件も…。

そんな事件を鮮やかに解決してSNSを賑わせている、ある1人の男がいた―。

彼の名は光城タツヤ。職業は、探偵。

今日彼のもとにやってきたのは、彼女の浮気を疑っている男性だ。

あなたも、この事件の謎を一緒に考えてくれないだろうか…?

▶前回:職場の後輩(25)がエルメスのバーキンで出社してくる。そんな彼女を、ひとまず様子見していた結果…。



実はこれ、普通のトーク履歴じゃないんです。あなたはこの画像の奇妙な点がわかりますか?(難易度★☆☆☆☆)


「神山さん。彼女は23時以降も起きている可能性がありますね」

「えっ?電話には出ませんでしたけど…」

「金曜の夜に連絡が取れないことと、バーキンを質屋に持っていったこと。何か関係があるかもしれません」

僕の言葉に、神山さんが電話の向こうでうろたえているのがわかった。

「いや、2度電話して出なかったんですよ…?それに翌日『ごめん、寝てて電話に出られなかった』と夏希から返事がありました。それに来月からは同棲しようって…!」

言葉に力がこもる。彼は恋人の浮気を疑いながらも「実は浮気じゃなかった」という答えを求めているような気がした。

「ではもう一度、LINEのスクリーンショットを見てください。神山さんが電話をかけた際『応答なし』と『キャンセル』という文字が表示されていますね。これ、どういう違いがあるかわかりますか?」

「考えたこともなかったな…。1回目は10秒ほど呼び出して応答がなくて。2回目は、やっぱり寝ていたら迷惑だと思ってすぐ切ったんですよね」

「そうなんです。『キャンセル』というのは、応答がなかった電話を発信側で切ったときに表示されるんですよ。でも『応答なし』の場合は、2パターンあって。

1つ目は、電話をかけたものの相手が応答してくれず、一定の時間が経過して切れたケース。この場合、神山さんのスマホ画面には『応答がありません』と表示されるはずです」




「いや…。僕の画面にはそういう表示は出なかったです。10秒くらいで『応答なし』と表示されました」

「そうですか。もう1つは、こちらが掛けた電話を相手が切ったケースです。神山さんはこれに該当するでしょうね」

「つまり夏希は起きていて、僕の電話に出たくなくて切ったということですか?なんで、そんなこと…」

神山さんがうろたえているのを電話越しに感じながら、僕はこの事件が解決に向かうためのヒントを淡々と彼に伝えた。

「あくまで僕の推測ですが、夏希さんは浮気をしていないと思います。ただし金曜の夜は、ほかの男性と会っていた可能性が高いですね」


2つの顔を持つ女・夏希(25歳)


「夏希、いつも支えてくれてありがとう。愛してる」

25歳の誕生日。恋人の洋二郎から、オレンジ色の紙袋を手渡された。中にはなんとブラックのバーキンが入っている。

「えっ…。こんな高いもの、いいの?」

動揺する私に、彼はキスを落としてきた。

「やっとプレゼントできた。1年間ずっとそばにいてくれたお礼」

「ありがとう、洋二郎。ずっと大切にするね…!」

思わず涙が溢れる。洋二郎が会社を立ち上げて以来、激務の彼を支えることに徹してきた。会えるのは2週間に1回程度。

それでも彼を信じて1年。ようやく会社が軌道に乗り始めたのだ。

「あのさ、提案なんだけど。よかったら俺と同棲しない?」

「えっ…?」

それは、とても嬉しい提案だった。でも即答できない。

…私には、洋二郎に隠していることがあったから。





「お先に失礼します〜」

金曜の20時。私はオフィスを出ると西麻布交差点へ向かい、大通りから1本入った場所に建つビルに入る。

「ご指名ありがとうございます。ユナです」

白いドレスに身を包んだ私は、小さくお辞儀をした。この瞬間、私はOLの田原夏希から、夜の蝶・ユナへと変身するのだ。

ここは、会員制の高級ラウンジ。毎週金曜の夜、私はここでラウンジ嬢として働いている。

働く理由は、自分のためではない。父が事業に失敗してできてしまった、数百万円の借金返済のためだった。

今は小さな工場で働く父と、パートに出ている母。そして事務員である私たちの給料では、到底返済できない額なのだ。

私は「会社の給料がいい」と嘘をつき、毎月20万円ほど両親にお金を渡していた。ここで働いていることは家族や友人、もちろん会社の人にも秘密だ。

おそらく、誰にもバレていないだろう。…ただ1人を除いては。

「田原って本当に気が利くね。グラスに水滴がつけば、すぐにハンカチで拭くし」

「あ、あぁ…。クセなんです」

「そうなんだ。プロだね」

以前、会社の飲み会で竜也先輩からそう言われたことがある。彼は妙に勘がするどい。だから先輩だけは、私の秘密に気づいているのかもしれない。

「ユナちゃん。先日はお誕生日おめでとう!これ、欲しいって言ってたプレゼントだよ」

もう少しで23時になろうかという頃。いつも指名してくれている大手建設会社の社長から渡されたのは、見覚えのあるオレンジ色の紙袋だった。

「わぁ、嬉しい!ありがとう」

私は頬に手を当て、大袈裟に喜んだ。

指名客からプレゼントでもらったのは、先日、洋二郎に貰ったのと全く同じバーキン。わざと同じものをおねだりしたのだ。

― これを質屋に持っていけば、残りの借金も返済できるわ。社長には「使ってます♡」と言って洋二郎に貰ったのを見せればいいし。

ラウンジがにぎわう23時前。私はこっそりお手洗いへと向かい、個室の中で洋二郎に『おやすみなさい』とLINEを送った。

いつも忙しい彼は、この時間も仕事をしている。…最近は事業が軌道に乗り始めたからか、返信が早いけれど。

「じゃあ遅くなったけど、ユナちゃんの誕生日に乾杯!」

そのとき、スマホが震えた。

それは、洋二郎からの電話。私はとっさに着信を拒否する。ラウンジで働いているのがバレるのも、時間の問題かもしれないと思いながら。

そして営業後、私は黒服を呼び止めた。

「今月いっぱいで、お店を辞めようと思います」




そう告げた、次の日だった。仕事を終えた洋二郎が、突然私のマンションにやってきたのは。

そこで、私が質屋にバーキンを持って行ったところを見てしまったこと。そして金曜の夜、連絡がつかなくなるのを不安に思っていたことを告げられた。

何も言えずうつむいていると、彼はさらに言葉を続ける。

「俺、誰にも相談できなくてさ。ほら、恋愛探偵っているだろ?ネットで話題の。彼に話してみたんだよ。そしたらさ…」

そう言って洋二郎は、恋愛探偵の推理結果を話してくれた。私は、そのほとんどが当たっていたことに驚く。

その日私たちは朝まで語り合い、彼にずっと言えなかった家族のことを明かしたのだった。



「じゃあ、行ってくる!」

翌朝。仕事に向かう洋二郎を見送ると、Twitterを開いた。

「あ、恋愛探偵ってこの人だ。って、え。このアイコンって…」

恋愛探偵・光城タツヤのTwitterアイコン。それは、竜也先輩がPCに貼っていたステッカーと全く同じ三毛猫だった…。

▶前回:職場の後輩(25)がエルメスのバーキンで出社してくる。そんな彼女を、ひとまず様子見していた結果…。

▶1話目はこちら:同棲中の彼女が、いきなり帰ってこなくなって…?男が絶句した、まさかの理由とは【Q】

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ハートのついたメッセージに浮かれる男。そのLINEに隠された悲しい現実とは