FAカップ4回戦、ブライトン対リバプール。ロベルト・デ・ツェルビ監督率いるブライトンは、なんというか、カタールW杯で日本に演じてほしかったような痛快なサッカーで、強豪リバプールに鮮やかな逆転勝利を飾った。

 立役者はその4−2−3−1の3の左(ウイング)を任された三笘薫だった。1−1で迎えた後半のロスタイムに劇的な決勝ゴールを蹴り込んだ。ペナルティエリアの右角から10メートル弱、後ろで得たFKからだった。ドイツ人の多機能型選手、パスカル・グロスが対角線キックを送り込んだ先は、逆サイドのエリア内深くで構えていた左SB、ペルビス・エストゥピニャンだった。

 三笘の活躍を語る時、この一列低い位置で下支えするエクアドル代表左SBの存在は欠かせない。両者はブライトンの左サイドを担う、いいコンビなのである。先日(22日)のレスター戦で、三笘がスーパーゴールを決めた瞬間、エストゥピニャンはシュートコースを空けるように左へ流れ、三笘の切れ込みシュートを最大限、手助けしていたことは記憶に新しい。

 後半47分、三笘はファーサイドで構えていたが、エストゥピニャンはその位置を視界に捉えていた。フワリとクロスボールを逆サイドまで送り込むとボールは三笘の足もとに収まった。三笘はそのボールを右足のアウトを使って弾ませた。ハーフバウンドでヒョイと浮かすと、逆を取るようにリフティング。シュートのアクションと見間違えた対面のリバプールCB、イングランド代表のジョー・ゴメスは、思わず顔を背けた。三笘はシメたとばかり、3タッチ目の浮き球を右足のインステップに乗せるように蹴り込んだ。


FAカップ4回戦、リバプール戦で決勝ゴールを決めた三笘薫(ブライトン)

 番狂わせが起きた瞬間である。ブライトンはリバプールに、15日に行なわれた国内リーグでも3−0と勝利していたので、2連勝を飾ったことになる。

 2週間前の一戦では、三笘は直接ゴールを奪えなかった。しかし、左ウイングとして対峙する右SB、アレクサンダー・アーノルドには完勝していた。

【武器は「逆を取る力」】

 イングランド代表の右SBが1対1で縦に幾度か突破される姿は、現地の人には衝撃的だったに違いない。リバプールファンのみならず、実際にプレーしたリバプールの選手もさぞショックを受けたはずである。少し誇張すれば、3−0というスコアはその結果だと思う。

 ライン際の攻防には「やられた感」が端的に表れやすい。自軍の頼れるはずのSBが、相手のウイングに完敗する姿は、選手のみならず観衆にも、劣勢のイメージを必要以上に増幅させる。
 
 内に切れ込むプレーより、縦突破を許した場合のほうがダメージは大きい。敵は焦る一方で、味方は勇気づけられる。観衆はワクワクさせられる。

 この日、アレクサンダー・アーノルドは交代でベンチに下がっているが、それは後半14分という早さだった。リバプールが苦戦する様子は、ここに端的に表れていた。

 縦突破とカットイン。難易度が高いのは縦突破だ。縦にかわす技術である。その力が三笘には備わっている。日本代表では右ウイングの伊東純也も縦突破を売りにする選手である。こちらの武器がスピードであるのに対し、三笘の武器は逆を取る力だ。スピードもないわけではないが、フェイントを交えながら、タイミングを外す能力に優れている。

 リバプール戦で、左ウイングで構える三笘にボールが渡る機会は10回を超えていた。そのうち相手SBと1対1の勝負に挑んだのは6回ほどで、縦突破が決まったのは3回。内に切れ込むプレーも3回程度だった。縦か内か。わからないところもアレクサンダー・アーノルドを混乱させた理由だろう。縦があるからカットインも決まる。レスター戦のスーパーゴールも、三笘に縦のイメージが強いために生まれた産物だった。

 対峙するSBのレベルが上がれば、おのずと縦突破が決まる確率は下がる。失敗を恐れればトライする数そのものが減る。それはウインガーとして壁に当たったことを意味する。しかし、少なくともいま現在、三笘にその兆候はない。ノリノリでプレーしている。リバプールといえば、チャンピオンズリーグ(CL)で毎度、決勝トーナメントを戦う欧州の強豪だ。今季もリーグ戦は振るわないものの、CLではベスト16入りをはたしている。つまり、そこで戦う力が三笘にはあると解釈することができる。

 どのレベルまで三笘は縦勝負を挑むことができるか。まだ限界に達していない自覚が本人にはあるはずだ。まだいける。劇的な決勝ゴールを生む原因となったあの繊細なボールタッチは、この精神的なノリのよさから生まれたものだと考える。

 三笘を後押しするのは、ブライトンのサッカーだ。欧州史には強豪ではないクラブがいいサッカーで評判になった例がある。フォッジャ、セルタ・デ・ビーゴ、レバークーゼン、デポルティーボ・ラ・コルーニャ、もちろんアヤックスもこれに含まれるが、ブライトンもこのなかに加われそうなムードがある。

 三笘には運がある。いいクラブに入ったとつくづく思う。なにより、エストゥピニャンという相棒にも恵まれたことが大きい。カタールW杯を5バックのウイングバックとして戦った森保ジャパンにはあり得ない魅力である。

 三笘に縦突破を何度、挑ませることができるか。日本代表の浮沈もここにかかっている。欧州を視察中の森保一監督は、このリバプール戦を実際に見たのか見なかったのか。気になるところだ。