社会生活において「同調圧力」と無縁でいられる人はほとんどいません。他者からの同調圧力に苦しむ人が多いのはもちろん、自分自身、無意識のうちに同調圧力に加担してしまうことさえあります。本連載では、心理カウンセラーの大嶋信頼氏が、著書『誰にも嫌われずに同調圧力をサラリとかわす方法』より、同調圧力の正体と、上手に受け流すコツや考え方について解説します。
「透明人間」になると、うまくいく
ピントを合わせない練習
感情に溺れず、「私は私、人は人」と線を引けるようになることで、同調圧力に弱かった自分から脱却していくことができます。
とはいえ、「自分が過度に感じすぎていたんだ」と思って抑えていける場合とは違い、「これは、どう見ても圧がきてるよね……」と明確に他人からの同調圧力が降ってくるように思えてしまう場合もあるでしょう。
そこで、より強く同調圧力を感じた際に私がおすすめなのが、「透明人間」になってしまうこと。これが同調圧力をかわせるようになるためのサードステップです。
以前、私が夏の暑い時期にプールに行ったとき、レジャーシートを敷いて、友達と一緒にプールサイドで過ごしていたことがありました。
すると、気がついたら「あれ? いつの間にか人だらけ」という感じでレジャーシートが周り一面に敷き詰められていて、少し離れたところには場所が空くのを待っている人たちが列をなしていました。
そんな列に並んでいる人たちを見ていると、イライラしているように見えてしまい、「のんびりしてるんじゃねえよ! みんな並んでいるんだから、さっさとどけよ!」という同調圧力を感じて私は不安定になってしまいます。
でも、同調圧力をかわせるタイプの友達は、仰向けに寝転がって動じません。
「こんな混雑した状況で、向こうに人が並んでいたら、普通、焦らないの?」と友達を見ていて不思議になります。
ただ、私だけがオロオロしていても仕方がないので、友達の真似をしてレジャーシートに仰向けに寝転がって、空を見上げてみることにしました。
すると「空を見たら、誰も視界に入ってこない」ということに気づいたのです。
「あれ? さっきの焦りとか、並んでいる人たちから伝わってきた不安定さがない!」となって、びっくりしてしまいました。
「普通だったら、こんなに混雑していたら、不安定になるよね」と思っていたけれど、青空を見上げてしばらくしたら、「私って本当は何も感じていないのかも」ということに気がつきます。
もちろん、耳にはプールのほうからガヤガヤとかキャーキャーという声は聞こえています。でも、そういった同調圧力を感じてしまう事象にピントを合わせずに、「私は何も感じていない」と思ってみたら、自分がまるで透明人間になったような感覚だったのです。
感情そのものが「同調圧力」!?
このプールでの例のように、自分が「同調圧力がすごい!」と思っていたのは、実は自分の心象風景だったのでした。
自分の中にあった「人が並んで睨んでいたら、同調圧力を感じて不安定になって当然」という常識が、勝手に心に不安定さをつくり出していたのです。
それがないから、私の友達はうろたえませんでした。
そして、私自身も、「同調圧力がすごい!」というのが、自分の中にあった常識からつくられたものであって、本当の私は「何も感じていない」と気づいてしまえば、心は静かなことに気がついたのです。
この自分の中の常識というものは、厄介なもので、私たちの感じ方や受けとり方をゆがめる力があります。
たとえば、「病気になった際は弱々しく振る舞うべき」とか、「相手から怒られたら動揺するべき」というような常識をみなさんも無意識に持っていないでしょうか?
でも、これはただの自分の中の常識にすぎません。その証拠に、今度誰かから怒られたときに「動揺する必要はない」と唱えてみてください。おそらく、これまで動揺していた人でも、意外とケロッとしていられたりするものです。
つまり、何が言いたいかというと、私たちは常識めいたものに支配され、「Aという事象に対してはBという感情を感じて当然」として、それらしく振る舞わされていただけで「本当は何も感じていない」というのが本音だったりするということです。
ですから、たとえば「パートナーから振られたら悲しむべき」というのも、見えない同調圧力によってつくられた感情で「本当は何も感じていない」だったりします。
「ショックを受けると思ったら、意外と悲しくなかった!」という人がいるのも、そういうことです。
そう。常識で「悲しまなければ」とか「寂しがらなきゃ」となるから、泣いたり、苦しんでいる振りをしていましたが、それ自体が実は「こう感じて当然」という同調圧力だったりするんです。
「本当は何も感じていない」という無敵状態
私たちが感じていると思っていた「感情」のほとんどが、同調圧力からきたものであって、「本当は何も感じていない」と思ってみると、同調圧力から抜け出せます。
加えて、「本当は何も感じていない」と思ってみると、同調圧力をかけてくる人たちのことを認識できなくなっていき、その人たちからも認識されなくなっていく「透明人間」になれてしまいます。
ちょうど、周波数が違うから感知できない音のようなものです。
同調圧力をかけてくる人たちは、何か言ったり、圧力をかけたりすることで反応してくれる人たちが大好物です。というのも、自分に反応してくれる人というのは、同調圧力のかけ甲斐があるから。
その反対に、どんなボールを投げても「本当は何も感じていない」と柳に風の人は、反応がないので認識さえできません。そうなれば、結果としてスルーしてもらえる。
だから、「本当は何も感じていない」という「透明人間」状態こそが、同調圧力に対しては究極の武器になるのです。
[図表1]本当に何も感じていない「透明人間」状態
ただし、ここに問題が一つあります。それは「本当は何も感じていない」と透明人間になってしまうと、「相手にされなくて寂しい」と思ってしまいかねないこと。
これも常識で感じていることですから、「本当は何も感じていない」でスルーすることができちゃいます。「人から相手にされなくなったら寂しさを感じるべき」という同調圧力の罠(わな)があるだけですから。
寂しさも本当は存在していなくて、何も感じていない。
ちなみに、逆に「透明人間になって同調圧力をスルーできるようになったから、自由を感じている」というのも本当は「新たな常識」で感じていることです。
わかりづらいですが、「何も感じていない」というのが本当のところであり、それを掘り下げてみると「本当は何も感じていない」の本質が見えるようになるのです。
「不安・緊張・怒りなどを感じてると思ってたけど、あれって同調圧力によって、感じてる、と思ってただけか!」という、紛らわしくて面白い現実に到達します。
……と、まあ紛らわしいので、そこまでわからなくてもひとまず大丈夫ですが、こうして「本当は何も感じていない」で透明人間になると、すべての同調圧力をスルーすることができてしまうのです。
大嶋 信頼
株式会社インサイト・カウンセリング
代表取締役
外部リンク幻冬舎ゴールドオンライン