新卒採用を重視して、新卒でないと入りにくい会社とは(撮影:尾形文繁)

「人への投資」に注目が集まっている。政府はリスキリング(学び直し)や転職・副業への支援を施策として掲げた。そうした流れもあり、若い世代を中心に転職を厭わないキャリア観も広まりつつあるようだ。しかし、新卒採用を重視し、結果的に新卒でないと入りにくいという会社は多い。

そこで今回は、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2023年版に掲載のデータを使い、2022年4月新卒入社者(一部、通年採用や第2新卒等を含む)と、2021年度の中途採用者数の合計に対して、新卒採用者が占める割合を「新卒採用占有率」として算出した。

このうち採用人数が新卒・中途合計50人以上かつ新卒採用占有率が80%以上、平均勤続年数が15年以上の128社を新卒採用占有率が高い順にランキングした。新卒採用を重視する企業の一覧として活用していただきたい。

なお、2023年4月発売予定の『CSR企業白書』2023年版には、採用人数が合計10人以上を対象とした新卒占有率上位400社のランキングも掲載する。

日本航空は新卒採用占有率100%

1位は新卒採用占有率100%の日本航空だ。新卒採用人数は131人。コロナ禍で採用を中止していた影響が大きい。ただし、同社では男女ともに働きやすい環境が整っており、2021年度の育児休業取得率は女性100%、男性99.3%と完全取得状態。2022年4月時点の女性管理職比率も21.9%と高水準だ。


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2位は99%の明治安田生命保険(新卒採用人数291人、以下同)。2021年度の大卒30歳平均賃金は57万9791円と高水準だ。社内公募制度や若手を対象とした国内外留学支援など、各種人材育成プログラムの整備に力を入れている。

3位は大垣共立銀行(89人)で98.9%。育児期間中は勤務時間などを柔軟に選択可能なアシスタントへ転換でき、その後は元の資格のまま社員に復帰できるキャリア転換制度がある。

以下、4位は四国電力98.6%(72人)、5位は98.4%でヤクルト本社(62人)、近鉄グループホールディングス(61人)、7位は98.2%で東海旅客鉄道(673人)、伊藤忠商事(107人)、9位はSMC98.1%(157人)、10位は97.5%でNIPPON EXPRESSホールディングス(238人)、京浜急行電鉄(77人)と続く。

ランキング対象企業のうち新卒採用人数が最も多かったのは、68位スズキ(新卒採用占有率88.1%、以下同)で710人。続いて89位デンソー(86.2%)の681人だった。また、平均勤続年数が長かったのは、42位めぶきフィナンシャルグループ(91.3%)で27.3年、121位シャープ(81%)が22.7年と続いた。

最後に平均年収は、7位伊藤忠商事(98.2%)の1579.8万円、67位三菱商事(88.2%)の1558.9万円などが高かった。

新卒採用占有率は低下傾向

全体の集計では、新卒・中途採用人数いずれも回答した1015社の新卒採用占有率は60.6%だった。『CSR企業白書』2020年版は62.5%(対象916社、以下同)、同2021年版は61.8%(942社)、同2022年版は62.7%(1000社)、とコロナ禍で変調の兆しはあったものの、占有率は依然として低下傾向だ。

しかしながら、『CSR企業総覧』に掲載されている大手企業の採用は依然として新卒が中心だ。業種別にみても、電気・ガス業84.9%(13社)、銀行業81.7%(33社)と新卒採用を重視している業種は複数ある(全体・業種別集計は『CSR企業白書』2023年版掲載予定)。

ただ、これらの企業が旧態依然とした雇用制度を敷いているというわけではない。とくにランキング上位には、兼業・副業制度や社内FA制度などの導入、育児支援や在宅勤務など柔軟な働き方を後押しする制度の整備に取り組む企業が多い。成長機会やワーク・ライフ・バランスの充実が期待できる。勤続年数の長さも良好な労働環境を示しているといえるだろう。

就職・転職活動では、本ランキングのように複数のデータを組み合わせて企業研究を行うことが重要だ。多様な視点から企業を分析することで、キャリアにおいて自分が重視するポイントも明確になる。




(村山 颯志郎 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集部)