イギリスがウクライナへ「チャレンジャー2」戦車の引き渡しを決めると、ドイツとアメリカも日を置かずに各々「レオパルト2」とM1「エイブラムス」戦車の供与を決定しました。これら戦車は対ロシア戦でどう使われるのでしょうか。

事実上のNATO標準戦車「レオパルト2」最大100両へ

 イギリス政府は2023年1月14日、ウクライナへ「チャレンジャー2」戦車を14両供与すると発表。これは、ウクライナに対する西側MBT(主力戦車)の最初の供与表明でした。

 続いて同月25日には、ドイツが「レオパルト2」戦車を供与すると正式に発表。最初の供給数は14両ですが、同時に他の保有国からウクライナへ同車を供与することも認めるとしたため、現在、ポーランドとフィンランドが供与を申請しています。最終的には他の同車運用国の分も合わせると、総計で約100両程度が供与される見込みのようです。


ウクライナに供与が決まった米英独の戦車。右からM1「エイブラムス」「レオパルト2」「チャレンジャー2」(画像:ドイツ連邦軍、アメリカ陸軍、イギリス国防省の画像を加工)。

 さらにアメリカも、ドイツの「レオパルト2」供与発表に続くかたちでM1「エイブラムス」戦車31両を、M88戦車回収車8両とともにウクライナへ供与することを決めています。

 こうして、「チャレンジャー2」「レオパルト2」、そしてM1「エイブラムス」という“NATO(北大西洋条約機構)現役MBT3強” が揃ってウクライナへ供与されることになったわけですが、これらはどのように運用されるのでしょうか。

 まず、今回ウクライナに供与されることになった各車の特徴を見てみましょう。

「チャレンジャー2」は、「チョバム・アーマー」の名で知られる独自開発の複合装甲を採用した高い防御力が特徴です。そのおかげで乗員の被害が少なく、高い信頼を得ています。また、搭載している120mm砲はNATO標準の滑腔砲ではなくライフル砲で、弾薬に互換性はありません。しかし威力には優れています。

「レオパルト2」は、のちにNATO標準戦車砲の地位に上り詰めることになるラインメタル社製120mm滑腔砲を最初に搭載したMBTで、攻撃力だけでなく防御力、さらには機動力のいわゆる「攻・防・走」の三要素すべてにおいて、バランスが取れた優秀な戦車です。ゆえに、母国ドイツだけでなくスペインやトルコ、ギリシャ、ポーランドなどNATO加盟国の多くが採用し、事実上のNATO標準MBTとなっている名車です。

 本車にはスタンダードな「レオパルト2A4」から、改良型の「レオパルト2A5」「レオパルト2A6」など複数の型式がありますが、今回、ドイツからウクライナに供与されるのは、そのなかでも最も攻撃力に優れた「レオパルト2A6」のようです。

米英独のMBT供与にフランスも続くか

 M1「エイブラムス」は、1990年代初頭に起きた湾岸戦争や、2003年から2011年にかけて続いたイラク戦争などの戦訓が反映された信頼性の高いMBTですが、最大の特徴はガスタービンエンジンを搭載していることです。

 このエンジンは小型軽量で高出力なうえ、加速性能や登坂能力に優れ信頼性も高いのですが、一方で燃料消費量がきわめて多く、さらに整備方法がMBTに搭載されている一般的なディーゼル・エンジンとは異なるという問題点があります。一時はアメリカ国防総省のシン副報道官が、ウクライナにM1を供与できない理由として、このエンジン問題をあげたこともありました。


最初にウクライナに対して供与することが明言されたイギリスの「チャレンジャー2」戦車(画像:イギリス国防省)。

 これらに加えて、フランスも「ルクレール」戦車の供与の可能性を否定しないと発表しているので、実現すれば英、米、独、仏という西側主要国のMBTが、ウクライナ軍で揃い踏みとなる可能性もあります。

 そして、これらのMBTがウクライナに供与されれば、すでに供与が決まっているM2ブラッドレーやマルダーといった歩兵戦闘車(IFV)と組んで、戦車と歩兵の足並みを揃えた戦い方(歩戦共同)ができるようになります。つまり、従来のウクライナ軍ではロシア製のMBTとIFVの組み合わせだったものが、西側製のMBTとIFVの組み合わせに変わるということです。

 しかし、当初は西側製MBTとIFVの供与数が限られるため、ベテラン戦車兵を乗せての実戦評価や、運用経験を得るための機甲教導部隊のように運用されるものと思われます。

 また、これらMBTの供与に先んじて、ウクライナへの引き渡しが決まっていたフランスのAMX-10RC装輪戦車駆逐車は、アメリカ製の「ストライカー」装輪装甲車と組んで、装軌式のMBTとIFVの組み合わせよりも高速で移動可能な、“フットワークの軽い” 歩戦共同のチームとして編成されるのではないかと筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。

西側戦闘車両で「重」「軽」二種類の機甲部隊を編成か

 もし、これら西側製戦闘車両のウクライナ供与が順調に進み、前述したような西側製MBTとIFVを組み合わせた「重機甲部隊」と、AMX-10RCと「ストライカー」を組み合わせた「軽機甲部隊」が運用できるようになれば、従来のロシア製MBTとIFVの「ロシア式重機甲部隊」と合わせて、ウクライナ軍はきわめて柔軟性に富んだ機甲戦を遂行できるようになるでしょう。


ドイツ製の「レオパルト2A6」戦車。ポーランドやフィンランドなども自国保有の「レオパルト2A4」の再供与を表明している(画像:ドイツ連邦軍)。

 まず攻勢に際しては、足の速い「軽機甲部隊」が敵の戦線の弱点を探り出し、そこを「重機甲部隊」が突破する。あるいは、「重機甲部隊」が切り崩した戦線の間隙を「軽機甲部隊」がすり抜けて、敵の戦線の背後で暴れ回る、といった運用が考えられます。

 また防戦の場合は、「軽機甲部隊」が「火消し役」として敵の圧力が高まっている地点に急行し一時的に支え、後続の「重機甲部隊」が完全に穴を塞いで、場合によっては、そこからさらに反攻するといった形を採ることが可能です。

 ウクライナで使われているロシア製MBTやIFVと比べると、前出の「チャンレンジャー2」「レオパルト2」、M1「エイブラムス」、M2「ブラッドレー」などは明らかに高性能です。ただ、懸念すべきポイントは「台数」です。地上戦はマスの勝負であり、どれほど高性能な戦車でも、数に劣れば活躍できないことは歴史が証明しています。

 ゆえに今年2〜3月に予想されているロシア軍の大攻勢への対応も含めて、第1陣として供給される数に限りがある英米独仏といった西側製のMBTやIFV、装輪装甲戦闘車両を、ウクライナがどう使いこなすかによって、今後の戦況が大きく左右される可能性は否めません。