by Hadley Paul Garland

2022年のある日、ベルギー北部の町・コルテッセムの耕作地で、アマチュア考古学者であるPatrick Schuermans氏が不思議な金属片を発見しました。この金属片は「ローマの中空十二面体」と呼ばれる謎の人工物の一部であることが判明し、博物館に寄贈されたとのことです。

Zeldzaam fragment van Romeinse dodecaëder ontdekt | Onroerend Erfgoed

https://www.onroerenderfgoed.be/nieuws/zeldzaam-fragment-van-romeinse-dodecaeder-ontdekt

Mysterious 12-sided Roman object found in Belgium may have been used for magical rituals | Live Science

https://www.livescience.com/roman-dodecahedron-discovered-belgium

過去200年にわたり、イギリス・オランダ・ドイツ・フランス・ベルギーなどの国々では、「ローマの中空十二面体」と呼ばれる石や青銅で作られた謎の人工物が発見されてきました。以下の写真が、実際に博物館に所蔵されている「ローマの中空十二面体」です。大きさは4.5〜8.5cmほどで各頂点には奇妙な突起があり、各面に大きな穴が空いていて中が空洞になっている点が特徴です。



by Hadley Paul Garland

そして、2022年にコルテッセムの耕作地で発見された金属片の写真が以下。



さらに別の金属片も見つかっています。いずれも断片のみですが、調査したところローマの中空十二面体の一部であることが判明し、ベルギー・トンヘレンのガロ・ロマン博物館に寄贈されました。



ローマの中空十二面体がいつ作られたのか正確なことはわかっていませんが、1世紀〜4世紀頃の地層から出土していることから、ローマ時代の人々が作ったものだと推測されています。しかし、これまでにヨーロッパ各地で120近くの標本が確認されているにもかかわらず、文献による説明が残っていないことからその用途は不明です。

当初、ローマの中空十二面体は武器の一部であるという説があったほか、その後も穀物を植える時期を決定するためのツールだという説、サイコロなどのゲームをプレイするための道具だったという説、距離を測定するために使われたという説などが提唱されています。ガロ・ロマン博物館の学芸員であるGuido Creemers氏は科学系メディアのLive Scienceへの電子メールで、「ローマの中空十二面体の用途については、これまでにもカレンダー・測量器・権威の象徴といったさまざまな仮説がありますが、どれも納得のいくものではありません」と述べています。

Creemers氏をはじめとする多くの考古学者は、ローマの中空十二面体はキリスト教の下で禁じられた占いや魔法などの神秘的な活動のため秘密裏に使われた、儀式用のオブジェクトではないかと推測しています。「これらの活動は許可されておらず、違反者への罰は厳しいものでした」「これがおそらく、文献による情報源が見つからない理由です」と、Creemers氏は主張しました。

また、ローマの中空十二面体は地中海周辺やそれ以南ではまったく見つかっておらず、ローマ帝国の北西部のみで見つかっているという点も、ガリア人やケルト人の影響を受けた地域の儀式に使われたことを示唆しています。また、今回発見された金属片に見られる破断面は、儀式の際に十二面体が故意に壊されたことを示唆しているそうです。

多くのローマの中空十二面体は、存在が知られる以前から個人または博物館のコレクションとして所蔵されていたものですが、今回のケースは発見地点が正確にわかっているという点も考古学的に価値があります。Creemers氏によると、その後の考古学調査によって耕作地からは壁画の断片も発見されており、かつてローマ人の別荘が存在した可能性があるとのこと。フランダース遺産局は声明で、「金属探知機の正しい作業方法のおかげで、考古学者は初めてフランダース地方にあるローマの中空十二面体の正確な出土位置を知ることができました。これはさらなる研究への扉を開きます」と述べました。



by Carole Raddato