職場でランチに誘ってもらえないときはどうしたらいいのか。話し方コンサルタントの阿隅和美さんは「おしゃべり上手で話術に長けていても、嫌われてしまう会話があります。本人は隠しているつもりでも心の中にある傲慢さ、見下すような意識が言葉の端々に見え隠れするもの。自分の会話を振り返ってみましょう」という――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miodrag ignjatovic

■なぜあの人はランチに誘ってもらえないのか

リモートワーク中心だった人も、今年は出社をして以前のように職場の人たちとランチに行く機会が増えてくるのではないでしょうか。

職場でのランチは、仕事の息抜きに気の合う者同士誘い合って行くことが多いですね。あなたの周りにも、「一緒に行きませんか」と後輩からよくランチに誘ってもらえる人がいると思います。その一方で、誘ってもらえない人もいるのではないでしょうか。後輩からランチに誘ってもらえない人は、もしかしたら無意識に会話のマナー違反をしている可能性があります。

そこで今回は、ついやってしまいがちな“嫌われる会話”を取り上げながら、周囲に好かれる魅力的な人の会話術を探っていきましょう。

■「おしゃべり」を一人だけ楽しんでいないか

言語のコミュニケーションは、「対話」「会話」「おしゃべり」の3つに分類できます。「対話」は議論などをして相互理解や結論を導き出すために行われるもので、職場では会議など仕事中のコミュニケーションです。「会話」は相手に話を合わせるもので、人間関係を構築する働きがあります。会話力は、職場で自分が仕事をしやすい環境を整えるために必要不可欠です。そして、「おしゃべり」は自分が話したいことをとりとめなく話すことです。話している本人はストレス解消にもなりますが、あまりに自分本位だと周囲がうんざりします。

この中で、職場のランチタイムに相応しいのは、関係を築く「会話」です。後輩相手だからといって好き勝手にしゃべっていいわけではないのです。この、「会話」と「おしゃべり」の違いをわきまえていないと、周囲から嫌われてしまうこともあるのです。「おしゃべり」好きな人は、職場ではなく、プライベートで存分に楽しむといいですね。

それでは、ここから嫌われる人の会話の特徴を見ていきましょう。

■1.自分の話ばかりして“私は座持ちがいい”と勘違い

好かれる人と嫌われる人の会話のいちばんの違いは、自分の話ばかりするか、みんなが楽しめる話題を提供して公平に話を振っているかではないでしょうか。

自分だけ「おしゃべり」を楽しむ人は、話術に長けた人もかなり多く、自分は座持ちがいいのだと思いがちです。しかし、人は相手を軽く見ているとき、しばしば冗舌になります。一方的に長い話を聞かされるのは誰でも苦手ですし、数人での会話中に独演会をする人と一緒だと疲れてしまいます。相手のことなどお構いなしのおしゃべりは、優越感の表れで、思いやりを欠いた自分勝手な行為とも言えます。

会話を楽しむために必要なのは言葉のキャッチボールです。あなたがもし「私って、ほら、ダーク系の洋服が多めじゃない?」と、つい自分語りが長くなりがちの人なら、主語を「私」から「あなた」に変えるのが好かれる会話のコツです。自分ばかり話さずに「あなたはどう?」と相手に関心を示して、話題を振ってあげましょう。会話上手は聞き上手、聞き上手は人気者です。

写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SDI Productions

■2.人の失敗談で場を盛り上げようとする

また、一見話題が豊富そうでも、人のまわしで相撲をとるタイプの人も要注意。こういうタイプの人は、自分は一切傷つかず、他人の失敗談などを利用して場を盛り上げようとします。例えば、「昨日、○○さん(後輩)ったら、取引先でやらかしちゃったんだよね」と、後輩に、失敗話を振ったりします。後輩が同意の上ならいいのですが、突然、失敗話を強要されて笑いのネタにされたら、いい気はしないものです。

それより、自ら身を削って自分の失敗談で場を盛り上げる先輩の方が、断然、好感度が上がります。ただし、行き過ぎた自己開示は場を白けさせるので、相手に合わせた話題選びのセンスも大切です。

ある企業の幹部が、新入社員との懇親会で場を盛り上げようと「子どもたちが独立して夫婦二人になったら会話がなくて困ったよ……」と笑い話のつもりで話したのに、場がシーンと静まり返ってしまったそうです。さすがに未婚の新入社員に中年夫婦のあるある話は理解できないでしょうし、入社したばかりの社員が幹部にツッコミも入れにくいものです。年の差がある相手には、相手世代がクスッと笑える話題を選んでください。

■3.年齢の自虐ネタ

若手社員からは、会話中に面倒だと感じる先輩の例として、「私なんて、もう年だから……」「こんなおばさんだけど……」と、年齢について口ぐせのように会話に挟んでくる人という声もあります。後輩にしてみれば、先輩が「もう年だから」というたびに、「そんなこと、ありませんよ!」「まだ若いですよ」という返しを催促されているようで、度重なると「ああ、またか」とうんざりしてしまうとのこと。一方、慕われている先輩とは、本人も周りも年の差なんて気にせず楽しく盛り上がっているそうです。

■4.噂話や悪口を話すのが好き

人の噂話は盛り上がりやすいので、つい話題にしがちです。しかし、「噂好き」のレッテルを貼られると周囲からの信頼を失います。なぜなら、自分がいつ標的になるかわからないと警戒され、自分の大事なことは、話さないようにしようと周囲が距離を取り始めるからです。もし勝手な憶測で噂話をしようものなら、本人の耳に入った時に関係に亀裂が生じる事態になることもありますので、職場の噂話は、ほどほどに。

話していいことと、ダメなことの線引きとしては、話題の対象者の耳に入ったときに、本人が不愉快にならないかで判断しましょう。

悪口を言う人も敬遠されます。悪口を言う人は、共通の敵をつくってグループの結束力を高めたいとか、相手よりも自分が優位に立ちたいという心理があるのかもしれません。どんな理由であれ、人の悪口を聞かされると嫌な気分になるものです。もし、不満がある場合には、周囲に漏らしても何の解決にもなりませんので、陰口を言わずに、本人に直接、感情的にならず温和な口調で伝えられると良いですね。

■5.愚痴やネガティブワードが多い

同様に、愚痴が多い人も周囲を嫌な気分にさせます。仕事の愚痴ばかり言っている人は、職場で認めてもらえないなど、承認欲求が満たされずストレスがたまっているのかもしれません。愚痴が多いと人が離れていき、結局自分の居場所がなくなりますので、会話タイムでネガティブな感情を吐き出すのは控え、もし愚痴を聞いてほしい時には、プライベートでの「おしゃべりタイム」に会社以外の友人や家族に付き合ってもらいましょう。

また、何かにつけて「でもさ」「そうはいっても」「いや、そうとも限らない」などと、必ず“否定”から入るクセがある人がいます。悪気はないにしても、相手にしてみれば何を言っても否定されるので会話を楽しめません。もし、「いや」「でも」「だって」が口ぐせの方は、ぜひ「そうなんだ」「なるほど」「いいね」と肯定の言葉を使うように意識してみましょう。

人のふり見てわがふり直せ。もし周りに感じ悪い話し方をする人がいたら反面教師として、前向きな言葉を使った会話を心掛け、職場の明るい雰囲気をつくりたいものです。

■6.上から目線の話し方になっている

ランチタイムなのに、仕事モードのまま、常に上から目線の話し方をする人も敬遠されます。例えば、教えたがりタイプ。仕事の場ではないのに相手が必要としていないアドバイスは、ありがた迷惑になることもあります。

「え、そんなことも知らないの」などと、無意識に上から目線な物言いをしていないか気を付けましょう。そして、「あ、知ってる知ってる」「聞いたことある」と何でも知ったかぶりをせずに「へえ、それがはやっているんだ、詳しく教えて」と、“教えてキャラ”で会話に参加すると後輩と仲良くなれそうです。

他にも、上から目線で偉そうと思われてしまうのが、ただ話を聴いてほしいだけなのに過剰に解決策をアドバイスしてくるタイプです。ただ話を聴いて受け止めてほしい、共感してほしいと軽い気持ちで話したことに、「それは○○しないとダメ」とか「私ならこうするけど」と、いちいち上から目線で結論をだされると、うんざりしてしまいます。

特に女性の会話には共感が大事です。もし後輩に「聴いてください」といわれたら、「うん、そうなんだ」と肯定のあいづちで聴き役に徹し、包容力のあるところを示してください。そして、「相談に乗ってください」といわれたときにも、途中で口を挟まず話を全部聞いた後に、アドバイスをするようにしましょう。

■7.会話のマナー違反を連発している

冒頭でもお伝えしたように、会話とは、対話のように意見の違いを明確にして議論を交わすのが目的ではなく、心の交流を図る言葉のキャッチボールをするものです。そのため、誰か一人に偏らずにみんなで楽しむのが会話のマナーです。こうした会話のマナーを守らない人も嫌われてしまいます。

例えば、つい粗探しをしてしまうタイプ。「山手線の駅、目黒の次は、渋谷じゃなくて恵比寿だよ」など、話の本筋に関係がないことをいちいち正して水を差すより、「それで、どうしたの」と先を促してラリーを続けたほうが、会話の目的を達せられます。会話は結論を出す必要はないので、中身が多少間違っていても多めに見ましょう。

会話のラリーの仕方にもマナーがあります。人が話している最中に、「わかる〜。私も似たようなことがあってさ〜」というように、会話の主導権を奪うことや、

(相手)「先週、○○映画を観に行ったんだ……」
(自分)「ああ、私もそれ観た! あの場面でさあ」

と、途中で話を取り上げてしまうのは会話泥棒でマナー違反。さらに話をかぶせた上に、「ええ? わざわざ観にいったの? あんな映画、どこが面白いのか分からない」と相手の感想も聞かずに否定するのはもってのほかです。話をしている時に腰を折られることほど嫌われる行為はありません。

自分も話したいし、意見も言いたいのも分かりますが、そこは、一旦ぐっと我慢をして、相手の話を聴きましょう。もし、言いたいことが浮かんだときは、相手の話が終わるのを待ってから「実は、私もその映画観たの。私はね、違うところが印象に残って……」と話を展開させましょう。

いかがでしょうか。会話をしていると、本人は隠しているつもりでも心の中にある傲慢(ごうまん)さ、見下すような意識が言葉の端々に見え隠れするものです。人望のある人の会話は、謙虚さや前向きな姿勢、みんなが楽しめるような心配りが、話題選びや話し方に表れています。ぜひ会話上手で後輩から慕われる魅力的な先輩でいてください。

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阿隅 和美(あすみ・かずみ)
WACHIKAコミュニケーションズ代表
青山学院大学経営学部卒業。中部日本放送アナウンサーを経て、NHK衛星放送キャスターとして、株式市況、世界のトップニュースを10年担当。20年にわたり、スポーツ、経済、情報番組に関わる。アナウンサー名は瓶子和美。現在は、TV現場で培った技術を活かし、ビジネス現場でコミュニケーション力を発揮し、成果を出す人材を育成する研修、講座、講演を行っている他、経営層・管理職、エグゼクティブリーダー向けプレゼン・スピーチのパーソナルトレーニングやコンサルティングなどを実施している。著書に『心をつかみ思わず聴きたくなる話のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『仕事ができる人の話し方』(青春出版社)があり台湾でも翻訳されている。ホームページ
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(WACHIKAコミュニケーションズ代表 阿隅 和美)