【スペイン発コラム】エースのオヤルサバル復帰、リーグ戦に加えELや国王杯もあるなかで起用法は…

 中盤ダイヤモンド型の4-4-2(4-1-3-2)か、それとも4-3-3か?

 これはスペイン1部レアル・ソシエダのエースFWミケル・オヤルサバルの完全復活が近づく中、現地メディアで頻繁に取り上げられてきた大きな話題のひとつだった。

 このような議論が交わされた背景には、昨季終盤イマノル・アルグアシル監督がオヤルサバルの長期離脱を受け、サイドアタッカーを配置した4-2-3-1や4-3-3から、インサイドハーフを置いた中盤ダイヤモンド型の4-4-2にシステム変更したことがある。

 以降、チームは現在に至るまでこのシステムをベースに戦い、ラ・リーガではバルセロナ、レアル・マドリードに続く3位、UEFAヨーロッパリーグ(EL)ではマンチェスター・ユナイテッドに競り勝ちグループリーグを首位通過、スペイン国王杯(コパ・デル・レイ)では準々決勝進出と、平行する3大会全てにおいて素晴らしい成果を出している。

 オヤルサバルは昨年3月半ばの練習中に左膝前十字靭帯損傷の重傷を負い、ワールドカップ(W杯)欠場を余儀なくされた後、大晦日のラ・リーガ第15節オサスナ戦で9か月半ぶりに待望の戦列復帰を果たした。これにより持ち上がるのが、「成果を上げているシステムのままでいくのか、復帰したエースが得意とするシステムに戻すのか」という問題である。

 アルグアシル監督はW杯後最初の公式戦となった国王杯2回戦コリア戦で、今季初めて公式戦で4-3-3をテスト。これは復帰を間近に控えたオヤルサバルを迎え入れるためのものと見られ、その後も2試合続けて同システムを採用し勝利を収めていた。

 しかし指揮官はその内容に納得がいかなかったのか、その後のラ・リーガ第16節アルメリア戦で再び中盤ダイヤモンド型の4-4-2に戻し、それ以降はずっと同システムで戦っている。この動きによりアルグアシル監督がシステム論争に終止符を打ったと解釈することができるかもしれない。

 復帰したオヤルサバルはここまで公式戦5試合に出場するも、スペイン代表や五輪代表などでも活躍した時のようなコンディションに戻っているとは言い難い。実際、先発出場はまだ1度だけで、得点はラ・リーガ第17節アスレティック・ビルバオ戦(3-1)で久保の誘発したペナルティーキック(PK)のみ。そうなるとアルグアシル監督は、エース不在の中で素晴らしい結果を出し続けてきたシステムを採用しないわけにはいかないだろう。

 オヤルサバルはシステム変更された中でプレーする現在の状況について、「僕の負傷後にシステムが中盤ダイヤモンド型に変更され、ウイングのポジションがなくなってしまったので、ほかのシステムに適応せざるを得なくなっている」と残念がるも、「U-21ヨーロッパ選手権などではトップとしてプレーした経験もあるので問題はない」と、慣れ親しんだ得意なポジション以外でも戦えることを強くアピールしていた。

現地紙のバルベルデ記者が指摘「4-4-2を採用する場合、オプションは2つある」

 スペイン紙「ムンド・デポルティーボ」のウナイ・バルベルデ記者に、中盤ダイヤモンド型の4-4-2と4-3-3のどちらを監督が選択するべきか、番記者としての意見を聞いてみた。

 まず、「以前のラ・レアル(※レアル・ソシエダの愛称)はずっと4-3-3が主流だった。しかしオヤルサバル負傷後、(ダビド)シルバが重要な役割を果たせるようなシステムとして、中盤ダイヤモンド型の4-4-2に変更されたんだ」と説明。続けて、「今のラ・レアルなら、どちらで戦ってもうまくいくと思う。個人的には以前の4-3-3が好きだけど、今季は4-4-2の方がいいサッカーをしているから、監督の判断にも納得できる」と見解を述べていた。

 システム変更のほか、オヤルサバルが復調した場合、レギュラーに復帰するかどうかも大きな話題となっている。アルグアシル監督は先日、その件について問われた際、「長期の怪我から復帰したばかりでリズムを取り戻すのが難しく、復調するまでもう少し時間がかかるかもしれない。しかしミケルは素晴らしい選手なので、4-3-3でも中盤ダイヤモンド型の4-4-2でもプレーできるし、前線やトップ下、さらにインサイドハーフでも十分適応できる」とほかのポジションで起用する可能性も示唆し、クラブを象徴する選手に対する信頼の厚さを感じさせた。

 バルベルデ記者はオヤルサバルが完全復活した際、レギュラーの座を確保することは間違いないとし、今後のシナリオを次のように推測している。

「イマノルがこのまま中盤ダイヤモンド型の4-4-2を採用する場合、オプションは2つあると思う。1つ目は、ここまでレギュラーで起用されている久保が犠牲となり、スタメンから外れるオプション。2つ目は、オヤルサバルが久保と一緒に2トップを形成するオプションだ」と、オヤルサバルを中心に2トップが組まれることを強調。しかし、オヤルサバルのこれまでの実績やセルロートのパフォーマンスを考慮し、「論理的には久保がスタメンを外れる可能性が高いと思う」と、久保の実力を認めつつも、FWとして3番手だと判断した。

 また中盤4枚のポジションに関しても、アルグアシル監督にとって議論の余地のないマルティン・スビメンディ、ブライス・メンデス、シルバ、ミケル・メリーノから久保がポジションを奪うのは難しく、絶対的なレギュラーという地位を得るのは厳しいと見ている。しかし、「この後、3大会で3日おきに試合があるため全員に出場時間が与えられるはずだ。そして今の久保のパフォーマンスを見る限り、監督が使いたい選手であることは間違いない」と出場機会を十分得られることに太鼓判を押していた。

 オヤルサバルが復帰したことで今後、前線のひと枠が埋まる可能性が非常に高そうだ。しかし久保はソシエダ加入後、レギュラーとしてチームで誰よりも多くのポジションをこなし、ポリバレントな能力を存分発揮してアルグアシル監督の大きな信頼を得ている。さらに今月37歳の誕生日を迎えたシルバが休み休み起用されていることや多くの試合があることを考えると、頻繁にローテーションが行われるだろう。そのためバルベルデ記者が話すように、今後も多くの出番を得られるはずだ。

 ソシエダは今月、ラ・リーガと国王杯を並行して戦っており、3月からELが再開する。全大会を順調に勝ち抜いていった場合、まだ30試合以上あるため、久保には実力を示す場が大いに残されている。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)