自民党石破茂元幹事長は2023年1月13日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で開いた記者会見で、いわゆる「中国脅威論」をめぐる持論を展開した。

石破氏は、中国軍に台湾を侵攻する能力があるかについて懐疑的な見方を示す一方で、中国側は透明性を高めるべきだとも主張。20年ほど前に中国の軍施設を視察した際に「最新型の戦闘機」だとして見せられたのが、きわめて古い機種だったことを明かし、当時の心境を「すごくびっくりしました。ばかにすんじゃねえよ」などとこぼした。

財源論終始で「『何を持つべきか』という話がされなかったのは、きわめて問題」

この日の記者会見は、22年末に国家安全保障戦略など新たな防衛3文書が閣議決定されたことを受けて開かれ、石破氏は、閣議決定に至るまでのプロセスを疑問視した。例えば、文書で盛り込まれた敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つことで「どういう抑止力を日本が持つのか」に関する議論がほとんどされていないとして、「これを明らかにする責任が政府にある」。さらに、防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%に増やし、5年間の総額を43兆円程度に引き上げる方針が岸田文雄首相から示されたことで、党内での議論が財源論に終始したことを批判した。

「自民党の中の議論は、『そのお金をどこから出すのか』『増税をするのか、あるいは国債を出すのか』、そういう議論になってしまって、『何を持つべきか』という話がされなかったのは、きわめて問題だと思う」

防衛費増額の根拠のひとつだとされるのが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国もGDP比2%に増額を目指していることだ。石破氏は「NATOが置かれている安全保障環境と日本が置かれている安全保障環境は、まったく違う」として、「かなり議論として飛躍しているのではないか」と反論した。

「中国に台湾を攻める能力があるかどうかは、きちんと検証が必要だ」

台湾有事をめぐる議論にも言及し、「今日、ウクライナで起こっていることは、明日台湾でも起こるかもしれない」といった主張は「かなり飛躍した議論」だと指摘した。その根拠として、(1)台湾はロシアとウクライナのように地続きではなく、台湾の海岸線に上陸に向いた海岸は10%しかない(2)台湾軍は強力で、攻める側は守る側の5倍の兵力がないと作戦は成功しない、ことを挙げて

「中国に台湾を攻める能力があるかどうかは、きちんと検証が必要だ」

と述べた。日米同盟についても「どのように機能するかという検証をきちんとしなければならない」。日米共通の司令部設置を「早く実現しなければならない」とした。

「『最新型の戦闘機を見せてやる』と言われて見に行ったら...」

一方で、中国側が透明性に欠けるという点にも言及した。「なぜ日本は中国をそこまで怖がるのか」という質問に答える形で、

「中国のことを過度に恐れるのは、おそらく中国の陸海空、人民解放軍の戦力をきちんと分析していないから、そういうことが起こるのではないか」

と応じた。その上で、

「中国も、もう少し軍事に対するトランスペアレンシー(透明性)を高める努力はすべきだと思っている」

とも指摘した。「透明性」のなさを示すエピソードとして紹介したのが、03年9月に防衛庁長官として訪中した際の出来事だ。温家宝首相や曹剛川国防部長(いずれも当時)と会談し、軍の施設も視察したが、「中国は人民解放軍の陸海空の戦力をほとんど明らかにしてくれませんでした」。当時の中国側のやり取りを

「『最新型の戦闘機を見せてやる』と言われて見に行ったら、ミグ21があったのには、すごくビックリしました」

と明かした。すぐ横にいた通訳が聞き返すと、当時の感情を交えながら改めて説明した。

「『最新型の戦闘機を見せてくださーい』という風にお願いしたら、ミグ21という戦闘機を見せられました。すごーい古い戦闘機で、すごくびっくりしました。ばかにすんじゃねえよ」

ミグ21は1950年代後半に旧ソ連が開発。中国では1960年代から、ミグ21の図面を元に「殲撃7型」(J-7)を製造してきたことが知られている。

石破氏によると、中国側は戦車の視察でも似たような対応をした。日本の軍事雑誌に載っている中国の最新型の戦車の写真を見せて、その戦車を見せるように求めたところ、「そんな戦車、我が国にはない」と言われたという。

こういった経緯を踏まえて、石破氏は

「やはり、トランスペアレンシーをもっと高めていただかないと、日本国における中国脅威論が高まるばかり。そこは中国にも努力をお願いしたいところ」

と話した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)