「最も多くの (自然) 衛星を持つ惑星は何か?」という質問に答えるのは難しいものです。太陽系で最も大きな惑星の木星と、2番目に大きな惑星の土星が、最も多くの自然衛星を持つ惑星の地位を奪い合ってきたからです。木星と土星の衛星は2000年以降、地上からの観測だけでも数十個が新たに発見されています。


観測した天体が衛星であると主張するには、複数回の観測結果をもとに惑星の周りを公転していることを示す必要がありますが、新発見の衛星はどれも小さくて暗く、観測すること自体が極めて困難です。また、これらの衛星は惑星から遠く離れた軌道を公転しており、公転周期が数か月から数年単位となるため、見た目の位置から公転周期を推定するには数年に渡る観測が必要となります。そのうえ、すでに発見済みの衛星やまだ見つかっていない別の衛星、無関係の小惑星などと区別する必要もあります。


こうした事情から、複数の衛星の発見が同時に報告・発表されることは珍しくなく、最初の観測から1年しか経過していないものと、10年以上経ったものがまとめて発表されることもしばしばです。このため、何個もの差をつけて最多の座を奪い合うこともあります。


この記事を執筆する以前は、最も多くの衛星を持つ惑星は土星でした。それまで最多だった木星の衛星は、2018年7月17日に発見されたヘルセ (S/2018 J 1) までで79個ありましたが、その後に土星で2019年10月7日に11個、2019年10月8日に9個の発見が報告されたことで、土星の衛星の総数は82個となりました。その後、木星と土星に1個ずつ衛星が追加され、木星は80個、土星は83個 (※) に。衛星の総数はそれぞれ増えたものの、順位は変わっていませんでした。


※…この数字は、土星のA環にある複数の小規模な塊、F環の周辺で観測された3個の衛星候補を含んでいません。これらは一時の観測以降は行方不明となっており、最長でも数年程度しか持続しない一時的な塊であったと推定されています。


【▲ 図1: 木星の既知の衛星84個の軌道 (Image Credit: S. S. Sheppard) 】


多数の衛星を発見していることで知られるスコット・S・シェパード氏は、2022年12月20日と2023年1月5日に合計4個の木星の衛星発見を報告し、小惑星電子回報に掲載されました。これにより木星の衛星の総数は84個となり、土星を超えて最も多くの衛星を持つ惑星となりました。


【▲ 図2: 今回発見された4つの衛星の一覧 (Image Credit: 彩恵りり) 】


4つの衛星にはまだ正式な名前が無く、それぞれ報告順に「S/2018 J 2」「S/2011 J 3」「S/2016 J 3」「S/2021 J 1」という仮符号が付けられています。S/の後の4桁の数字は初観測の年を表すため、古いものは2011年の初観測から報告まで10年以上かかったものがある一方、2021年の初観測から速やかに確定されたものもあるなど、諸条件により初観測から報告までの時間差が大きいことが分かります。


木星と土星の衛星が実際にいくつあるのかは不明です。例えば木星では、直径800m以上の大きさを持つ衛星は600個あるとも推定されています。いずれにしても、望遠鏡の精度向上によって、これからも多数の衛星が発見される可能性は十分にあるでしょう。


 


※2023年1月13日9時50分追記:掲載当初、衛星の合計数に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。


 


Source


Minor Planet Electronic Circular. - “MPEC 2022-Y68 : S/2018 J 2”. (Minor Planet Center)Minor Planet Electronic Circular. - “MPEC 2022-Y69 : S/2011 J 3”. (Minor Planet Center)Minor Planet Electronic Circular. - “MPEC 2023-A13 : S/2016 J 3”. (Minor Planet Center)Minor Planet Electronic Circular. - “MPEC 2023-A14 : S/2021 J 1”. (Minor Planet Center)Scott S. Sheppard. - “Moons of Jupiter”. (Carnegie Institution for Science)Edward Ashton, Matthew Beaudoin & Brett J. Gladman. - “The Population of Kilometer-scale Retrograde Jovian Irregular Moons”. (The Planetary Science Journal)

文/彩恵りり