値上げラッシュの中で、珍しく値下げが続いているものがある。自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険料だ。2023年度は10%ほど安くなる見通しだと報じられている。自動ブレーキなど安全装置が普及し、交通事故が減ったことが大きな理由だという。

保険金の支払額が減っている

自賠責は自動車や二輪車の所有者に加入が義務付けられている。年間4000万台弱の契約がある。人身事故のみが補償の対象。

保険料は2年契約。乗用車の場合、約2万円なので、23年度は2000円ほど安くなりそうだ。正式には、23年1月にも開かれる金融庁の審議会を経て決まるとされている。

日経新聞によると、今回は、2017年に9年ぶりに下げてから4度目の下げとなる。20年には平均で16.4%下げ、21年にも6.7%下げた。22年は据え置きだった。

自賠責は「ノーロス・ノープロフィット」の原則に従って、利潤や損失を出さないように設計されている。したがって全体の支払いが減れば保険料も値下げされる。

損害保険各社でつくる損害保険料率算出機構によると、自賠責の保険金支払額は、13年度は8000億円を超えていたが、16年度ごろから減り始め、19年度、20年度と減少が加速。21年度はさらに大きく減って約5600億円になっている。

「不正請求」を警告

交通事故と死傷者は2004年ごろをピークに右肩下がりで減り続け、現在は3分の1ほどに。しかし、警察データによる交通事故の減少と、最近の自賠責保険金支払額の減少とはかなりの時間差、ズレがある。

理由の一つと言われているのが、「隠れ人身事故」の存在だ。警察では物損事故として扱われているが、実際には通院しているケースが多数あるという。

『交通事故は本当に減っているのか? 「20年間で半減した」成果の真相』(花伝社)によると、人身事故を起こした交通事故の加害者は、刑事・行政上の処分を受ける可能性があり、処分を免れたいという心情が働く。

人身事故にするか、物損事故にするかは、必ずしも警察の判断ではなく、当事者の意向に委ねられる場合がある。比較的軽症の場合は、当事者の申し出により物損扱いにすることがありえるという。そうしたケースでも保険金が支払われている。「むち打ち」などの場合、柔道整復師による「医療類似行為」の証明でも自賠責から保険金が下りている。中には「保険金詐欺」と思われるものもあり、警察や損保協会は近年、ウェブサイトに「不正請求」の事例を掲載、防止に力を入れている。

AIは不正をチェック

朝日新聞によると、2015〜19年に全国の警察が摘発した交通事故関連の保険金詐欺事件は計868件。書類の精査だけで不正を見抜くのは難しいこともあり、日本損害保険協会は20年4月から、人工知能(AI)による不正検知システムを使い始めている。

「車両所有者」「受傷者」など、過去の保険金の請求履歴や関係する人物のデータを集めて分析。それらと照らし合わせて似た点などを抽出し、AIが不正の疑いを調べる。不正疑いが検知された場合、自動で保険会社などに通知される。過去に不正請求に関与した疑いのある人物や法人を見つけやすくなったという。

交通事故自体は20年ほど前から減っているので、最近の自賠責請求の減少には、自動ブレーキなど安全装置が普及に加えて、こうした警察や日本損害保険協会の厳しい対応も影響している可能性がありそうだ。