過去2年半以上も猛威を振るってきた新型コロナ感染症。日本人の意識や生活時間はどう変化したのか。統計データ分析家の本川裕さんは「コロナ禍で減ったのは仕事時間、増えたのは睡眠・家事・ネットの時間でした。とりわけテレビ・新聞・ラジオなどの時間が減ったのとは対照的に、ネット(スマホ)時間が大幅に増えました」という――。

■後次の波ほど感染者数や死亡者数が数的に拡大

過去2年半以上にわたり猛威を振るってきた新型コロナ感染症に関しては、現在、感染拡大の第8波が押し寄せ、その帰趨が注視されている。

新型コロナ感染症の蔓延については発生後3年目に入ってもなかなか終息に至らず、常に新しい動きに生じるのでなかなか関連する統計データをまとめて紹介できなかったが、最近は5年おきの主要統計でも影響が分析できるようになったので、2022年末のこの段階で基本的なデータを整理しておきたい。

まず、最も基本的な指標である新規感染者数と死亡者数の推移をたどってみよう。

図表1には、業務上の理由から行政からの計数の発表が月曜日には少なくなるというような週変動を円滑化するため過去1週間の平均で日ごとの推移を掲げた。

新規感染者数では数的規模が大きく拡大したので同一のスケールでは初期の波のグラフが小さくなってしまい視認しにくいが、感染死亡者の方は、それほど大きな数的規模の変化がないので、第1波から第8波までの流行の起伏が明らかに認められる。

新規感染者数と死亡者数の推移については以下のような点が目立っている。

・数的規模は新規感染者数も死亡者数もおおむね後次の波ほど大きくなってきた(世界的には日本の第6波にあたる波より後は大きく縮小する傾向であるのと対照的)。

・ピーク時の波の高さはだんだんと新規感染者数の方が死亡者数を上回るようになってきている。すなわち死亡率の低下傾向が認められる。

・感染拡大は定期的に繰り返してきたが、インターバルに目立った法則性は見当たらず、寒暖などによる季節変化も認めにくい。

・死亡者数のピークは新規感染者数のピークからやや遅れて訪れる。これは感染患者が死亡する場合、感染直後ではなく一定の期間後だということに基づいている。

・第8波はすでに死者数が第6波を上回っているが、全体としては第7波ほど大きなうねりになりそうもない。

■感染不安度はだんだんと低下する傾向

さて、こうした感染拡大の数次の波に対応して国民の意識はどう変化してきたであろうか。意識の変化をもっとも基本的な感染不安度でたどってみることにする。

実は、この間、継続的、定期的に国民の感染不安度を調べている調査はほとんどない。

報道機関は内閣支持率を毎月行っているのであるから、それに合わせて感染不安度を継続的に調査していてもよさそうなものなのだが、残念ながらそうしたデータは存在しない。NHKの「政治意識月例調査」が内閣支持率とともに2020年の2月から2021年の9月までは毎月、同じ聞き方で感染不安度を調べていたが、残念ながらその後は設問から消えてしまった。

そこで、今回は、インテージという民間の調査会社が最近まで継続的に、毎週あるいは隔週ごとに行っているインターネット調査の「コロナ禍における生活者マインド・トレンドデータ」における感染不安度の結果を使用した。

図表2には、インテージ調査における感染不安度の推移と図表1と同じソースの新規感染者数を同時に示した。

これで見ると、まず、感染不安度と感染者数の波のタイミングがかなり一致していることが分かる。各波で両者のピークは時期的にほぼ一致している。

新規感染者数については波ごとの数的規模の違いが大きいので対数目盛で表示した。対数目盛で見ると感染者数の拡大・縮小の波動が図表1と比較してずっと明瞭になる点が印象的である。

次に、感染者数は幾何級数的に拡大傾向にあるのに対して、感染不安度はそれとは対照的に低下傾向にあることが明らかである。

ピーク時の感染不安度の値をグラフに記したが、第2波と第3波の値が同じなのを除くと、各波のピークは第1波の83.6%から第8波の57.8%へと下がり続けているのである。

こうした動きは、当初、得体の知れない新型のウイルス感染症であるため、影響が推し量りにくく、感染者数自体は数的にそれほどでなかったにもかかわらず、今後の帰趨が見通せず、したがって感染不安度も非常に大きかったのであるが、感染の拡大・縮小を繰り返すうちに、どの程度の悪影響が生じるのかの見通しが得られるようになって感染不安度はだんだんと落ち着いてきたためと考えられよう。

それとともに、図表1でも推測されたように感染死亡率が、ウイルスの弱毒化、医療対応の改善、ワクチン接種の普及、集団免疫などの総合効果により、だんだんと低下してきたことが不安度の低下をさらに促進したと言えよう。

■減った仕事の時間、増えた睡眠・家事・ネットの時間

こうした新型コロナウイルスの感染拡大にともなう日本人の生活変化については、経済面、家計面、雇用面、レジャー面など社会全般にわたっているが、ここでは、そうした影響を総括的に示すものとして、国民の生活時間の変化を取り上げることにしよう。

実は、5年毎に行われている総務省統計局の社会生活基本調査が2021年に行われ、その結果が最近、公表されたため、コロナ前である5年前の2016年と比較することにより新型コロナの影響を推し量ることが可能となったのである。

図表3では、日本人の生活時間の時系列的な変化を男女有業者ベースで追っている(※)。

※学生・無業者を含んだ国民全体ベースで変化を追うと、有業率(労働力率)の変化や年齢構成の変化による生活時間の変化の要素が含まれてしまう。例えば、高齢化が進めば、働いていない高齢者の割合が増え、仕事時間は国民平均で減少する。また、女性について有業率(労働力率)が上昇すれば、それだけで仕事時間が国民平均で増加する。有業者ベースで変化を追えば、こうした要素を除去して、変化の方向を評価することができるのである。

新型コロナの影響は、これまでの時系列的な傾向に大きく反する動きとしてとらえることが可能である。従って、図表3の下半分には、2016年までの傾向的な変化を回帰直線の傾きによる5年換算の変化幅を棒グラフで示し、2016〜21年の変化幅を矢印で示して対比させている。

日本人の生活時間に及ぼした新型コロナ感染症の影響について図表3から読み取ることができる特徴は以下のようにまとめられよう。

第1に、男性16分、女性18分と「睡眠」が大きく増加したのが目立っている。2016年までの大きな傾向としては、寝る間も惜しんで遊び歩くという方向だった。睡眠と仕事の時間が両方とも減り、自由時間が増えていることからそう言えるのであるが、これが完全に逆転した。

新型コロナ感染症への予防対策として外出が控えられ、またテレワークの普及にともない仕事や通勤の時間が減少したことで時間の余裕が生まれ、その結果、睡眠不足が解消したというのが実態であろう(テレワークの影響については後段を参照)。

男性の仕事時間が22分も減っているのに、女性は5分の減と小さいのは、コロナ禍で女性の飲食店やレジャー関連のパートタイム就労が減った影響で有業者の仕事時間の平均を押し下げられたからと考えられる。

第2に、スマホやネットに割く時間が含まれると考えられる「休養・くつろぎ」が「睡眠」とならんで大きく増加している。これは「交際・付き合い」が減少している点と補い合う現象であり、IT化を通じてだんだんと進んできた人と人との「リアル交際」から「バーチャル交際」へのシフトがコロナ禍でさらに加速したものと考えられる。

第3に、在宅時間の増加により「家事」(育児、介護を含む)が男女ともに前期以上に増加した。もともと必要性が高かった生活行動が可能になったという側面が考えられよう。

第4に、在宅時間の増加にもかかわらず「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やす時間の大幅減が前期から続いている。若い世代を中心にインターネット、スマホによる代替が進行している影響である。

第5に、食事時間はほぼ横ばいのままでありコロナ禍の影響がなかったかのようである。在宅の食事が増え、外食が減って両者が相殺された結果であろう。

第6に、身の回りの用事の変化については、すぐ後で触れるようにおしゃれの要素が大きいと見られるが、女性は外出減、マスク着用などで増加傾向が大幅縮小となった。ところが、男性はむしろ増加幅が大きくなった。これについて、別途、年齢別に調べてみると若年層の変化でありコロナとは無関係の「美容男子」増の影響と見られる。

ポストコロナでまたもとの生活パターンに戻るのか、それとも今後もテレワークを含めコロナ時代の生活パターンが定着するのか、5年後の次期調査の結果が興味津々であるゆえんである。

■テレワークで生まれた時間の余裕を何に使っているか

若者は睡眠不足を解消、子育て世代は育児時間を増やし、中高年は睡眠と食事の時間に割いた

コロナ対策として職場に行かず、自宅で働くテレワークという生活パターンがずいぶん増えた。2021年の「社会生活基本調査」では20代後半から40代にかけては1割近い人がテレワークをしていることが明らかとなった。

同調査によってテレワークで生活時間がどう変化したかが明らかになったので紹介しよう。図表4では仕事をしている人について、若い層から中高年層まで年齢別に3段階に生活時間のテレワークによる変化を表している。

テレワークした人としなかった人とを比べると年齢によらずテレワークで通勤時間が約1時間短縮したことが分かる。その分、何の時間が伸びているかを見ると、仕事の時間はほとんど変わりがない(若い層では少し減らすことができたが)。食事の時間はだいたいどの年齢でも15分前後伸びている。やはり、仕事に出ていると食事の時間的余裕が切り詰められていたことが分かる。

年齢によって異なる動きのものに着目すると、25〜34歳の若年層では睡眠が一番伸びている。それまで睡眠不足だったのではないかと想像される。

ところが35〜44歳の子育て世代ではそうはいかない。睡眠は伸びず、むしろ、育児の時間が伸びていることが分かる。子どもと過ごす時間が取れるようになったのはテレワークの大きなメリットである。

その他の時間では、若い層では家事や趣味・娯楽の時間が増え、テレビを見る時間は減っている。45〜54歳の中高年では睡眠やテレビの時間が増えている。在宅時間が増えても年代によって増やす時間は結構異なっていることが分かるのである。

さて、一般にはあまり注目されないが、私が注目しているもう1つの生活時間について見てみよう。すなわち「身の回りの用事」の時間である。これについてはこれに含まれるトイレなど本来の生理的時間はそう伸び縮みするはずもないことから、身の回りの用事時間の長短で「おしゃれ時間」の長短が測れるのではないかと考えており、そうした観点から注目している。

テレワークで身の回りの用事時間は若い世代ほど短縮している。通勤などの外出が減り、外出するにせよマスクをしているので全体にお化粧時間が減っているためと考えられる。家にいるので身の回りの用事に含まれる入浴などは増えていると思われるのでそれを上回っておしゃれに要する時間が減っていると考えられる。

ところが中高年では通勤時間は減っているのにあまり身の回り時間は減っていない。在宅時間が増え入浴などが伸びているためか、美容動機が若年層より強いか、どちらかだろう。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)