【識者コラム】4バックと3バックの使い分けはチーム立ち上げ当初からのコンセプト

 森保ジャパンの4年半は、現地時間12月5日に行われたカタール・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦でクロアチア代表にPK戦の末に敗れて終了した。

 次期監督がどうなるかまだ判明していないが、今ここで森保一監督が何を成し遂げ、何ができなかったか、そして一番の問題点は何だったかを整理しておく。

 2018年7月26日、同年のロシアW杯にコーチとして参加して経験を積んだ森保監督が満を持して日本代表を率いることになった。

 就任会見で監督が口にしたのは「状況に応じて勝つためにどうしたらいいか、流れを掴むためにどうしたらいいかということをチームとしてできるように選手が判断して選択できる」というチーム作りだった。

 9月4日の初練習から森保監督は過去の日本代表監督と大きく違う部分を見せる。イビチャ・オシム監督以降、初練習で監督は自分が一番大切にしている部分を選手に強調した。オシム監督はハーフラインを挟んだ攻防、岡田武史監督は守備、アルベルト・ザッケローニ監督は選手のポジショニングと身体の向きなど、局面を切り取って伝えた。

 だが、森保監督はチームの全体像を見せた。システムはW杯で使ったのと同じ3-4-2-1。ボールを奪うとどうつなぐのか、ディフェンスラインからどこにボールを出してどう攻撃するのかをサイドを変えながらいろいろなパターンに分けて自分が見せたいサッカーを説明していた。

 それは監督の頭の中に、W杯でどう戦うかというイメージがすでに明確だったからこそ出来たことだろう。岡田監督がオシム監督からチームを引き継ぎ、2日目には本大会で使った4-1-4-1を試していたのと似た部分がある。

 もっとも森保監督は3バックに固執していたわけではなく、実際の試合では4-2-3-1を採用した。当時、森保監督は3バックと4バックの違いについて「よりサイドで優位に立とうと思った時は3バック」と説明していた。

 つまり、ずっと日本代表が使ってきて安定感のある4バックで試合に入り、勝負どころで3バックという構想だったはずだ。それを裏付けるように、今年の取材でも「試合は4-2-3-1か4-1-4-1(4-3-3)でスタートさせる」と語っている。

勝てばなんでもいいという訳ではなかった?

 五輪代表監督を兼任する森保監督は2018年AFC U-23選手権で3バックを採用し、その後五輪世代は3バックでプレーさせた。本格的な4バックと3バックの併用は2020年の東京五輪後にすべての世代を融合させて行うというのが自明だった。

 そして、その切り替えを選手がピッチの中で判断できるようするというのが、森保監督が最初に掲げたチームの理想像だったはずである。「ピッチの中の選手が自分たちで判断できなければ、外から指示していては状況の変化に対応できない」ということを森保監督は報道陣に対しても何度も説明していた。

 しかし、新型コロナウイルス禍ですべての構想は狂った。東京五輪は1年間延期され、チームを熟成するための練習試合は組むことができなかった。集めることができた選手のコンディションを見極め、勝ち点を得るための試合をし、内容はあと回しだったと言わざるを得ない。

 そのため森保監督がW杯で見せることができた姿は、非常に中途半端な形だったのではないだろうか。達成できた点もある。4バックと3バックを併用しても選手が混乱することはなかった。ドイツ代表戦の先制点やスペイン代表戦の同点、逆転劇に見るように、チャンスと見るや多くの選手が反応するような「機を見るに敏」という部分は表現できた。

 だが、サイドで優位に立つためだったはずの3バックはサイドのスペースを消すための5バックになり、「できる限り握りたい」と言っていた主導権は相手に渡したままだった。

 そんな戦いでも勝利を収めるというのは現実主義的な森保監督らしかったが、本当はもっと別の戦い方で勝ちたかったのではないかと想像できる。育成やレベルアップも視野に入っている森保監督だから、「勝てばなんでもいい」という訳ではなかったと思うのだ。

 最初の練習で示した理想型とW杯での戦いぶりの違いに「やり残しはないのか」と森保監督に質問したところ、「ありません。今できることはすべてやれた」と回答があった。また、新型コロナウイルスの影響がなかったとして、理想の形に持って行けたかどうかも分からない。

森保監督の続投時に改善してほしい2つのこと

 それでも、森保監督の引き出しの中がすべて空っぽということではないだろう。留任するにしても一度チームを離れるにしても、もう一度日本代表を率いるチャンスを得るには十分な財産を持っている。

 ただし、もう一度日本代表監督に就任するのなら、改善してほしいことが2点ある。

 1点目は、SNS上の監督への誹謗中傷に対して日本サッカー協会がなんらかの手を打つこと。日本代表監督だけに限らないが、限度を超える投稿については断固とした措置をとってほしいし、多くは監督発言の一部の切り取りから誤解を生じているだけなので、分かりやすい説明を加えてほしい。

 2点目は、森保監督のトーク力。いつもとても丁寧に答えてくれるのはありがたい限りだが、その長さ故に伝わりにくくなっていることがある。この発信力が上がればもっとカリスマ性が増すと思うのだ。

 W杯メンバー発表会見で「行雲流水」という言葉を使ったように、今後の回答はすべて4文字熟語。もっと長く話したければ五言律詩か七言絶句。もっともそうなると、国内よりも海外で高く評価されている現状に、さらに磨きがかかってしまうかもしれないが。(森雅史 / Masafumi Mori)